原子力小委員会奮闘記(4) 空疎な中間整理(案)
『原子力資料情報室通信』第486号(2014/12/1)より
11月13日(第9回)の委員会で、「原子力小委員会の中間整理(案)」が配布され、自由討議が行なわれた。中間とりまとめでも中間報告でもないのは、議論がそのレベルにまで煮詰まっていないからである。
あえて国という主語を探すと
整理案は以下の章立てで記述されている。Ⅰ東電福島第一原発事故の教訓、Ⅱ世界における原子力の位置づけ、Ⅲ原発依存度の低減の達成に向けた課題、Ⅳ原子力の自主的安全性の向上、技術・人材の維持・発展、Ⅴ競争環境下における原子力事業の在り方、VI使用済燃料問題の解決に向けた取組と核燃料サイクル政策の推進、VII世界の原子力平和利用への貢献、VIII国民、自治体との信頼関係構築、である。概ねエネルギー基本計画の原子力の節に対応している。
各章、事務局まとめが丸印で箇条書き風に書かれており、事務局が採用した委員の主な意見が矢羽根印で続いている。招聘者からの発言概要がその後に記載されている。
整理案から国または政府が主語として明記された記述を抜き出すとわずか4カ所しかない。Ⅰ章では、「事故の再発防止のための努力を続けていかなければならない」と「避難指示解除を進めていくことが望まれる」の2カ所だ。自らに対して「望まれる」と受動態の表現は理解できない。Ⅴ章で「それぞれのエネルギー源にたいして適切な政策的措置を講じていくことが必要」、さらにVI章の高レベル放射性廃棄物の最終処分の節で、「科学的有望地を示す」「施設受け入れ地域の持続的発展に資する支援策」の検討・実施である。
誰かが講じる政策的措置
「政策的措置を講じる」というキーワードはⅤ章に3カ所だけある。そのうち主語が国と明記されている部分は上述した。他は「原子力については~状況変化を踏まえた上で、適切な政策措置を講じていく」。廃炉や使用済み燃料処理(貯蔵)関係で「事業者の損益を平準化する」、六ヶ所再処理について「事業実施を確保する措置」などを講じていく、である。措置の具体化はすべて今後の検討に委ねている。
具体的な検討は小委の外で
Ⅳ章の具体化については、原子力小委員会の下にワーキンググループを設置して検討を委ねたので、本小委はWGの報告待ち。なお、高速炉による廃棄物の減容化・有害度の低減の検討もこのWGに委ねた。メンバーを見ると心もとない。原子力学会の検討が横滑りしてくるのではないかと推察している。WGは資料と議事概要、議事録の公開に留まっている。
また、高レベル放射性廃棄物の処理・処分問題は本小委の発足前から放射性廃棄物WGで議論が続いている。この結果を小委に反映させることになる。廃棄物WGは動画公開も実施している。
事業者が円滑に廃炉判断をできるように、廃炉会計の見直しを進める。これも電気料金審査専門小委員会廃炉に係わる会計制度検証WGで検討する。メンバーの内3名は本小委と重複している(11月17日公表)。同WGは昨年9月に廃炉会計制度を見直したが、それでも電気事業者は不満で、追加検討となった。
核燃料サイクルはどこかで
事業形態や費用について「適切な場において、検討をすすめるべき」としている。その上で、政府(経産大臣)の許可なく解散できない認可法人案に言及し、「拠出金の形で発電時に資金を支払うことで安定的に事業実施が確保されるスキームを構築すべき」と方向性を示している。はっきりしているのは国策として今後も核燃料サイクルを進める姿勢だ。
現状は発電に応じて将来発生する再処理費用を積み立てる(再処理積立金)だ。積立金は電気事業者の内部ではなく原子力環境整備・管理センターに預けられる(05年に制度化)。そして、再処理に応じて取り崩し日本原燃に支払う。とはいえ、救済策としてこれまでに再処理前払金として日本原燃に1兆円程を前払いしている。再処理する見通しのないままに前払いするいびつな方法を経産省が認めている。
積立金でなく拠出金と位置づければ、再処理の有無に係わらず日本原燃の運営に活用でき、資金繰りも好転するだろう。しかし、これで日本原燃の破産が当面は免れても、後でしわ寄せが来るのではないか。位置づけの変更ではなく、積立金に加えて拠出金を集めるのかも知れない。
廃炉に伴って出てくる使用済み燃料の貯蔵について、「新たな地点の可能性の幅広い検討」、「電気事業者間の共同・連携による事業推進の検討」、「政府の取組強化」が謳われている。「事業者間の共同・連携」が新しい言及だ。背景に何か動きがあるのだろう。また、廃炉では使用済み燃料対策だけでなく、廃炉廃棄物の処分(場所と規制基準)、自治体との関係など多くの課題がある。このうち、廃炉廃棄物の処分場所の問題は発生者責任で解決するべきと突き放している。自治体に対しては、「経済、雇用、財政等に大きな影響を及ぼすこと」から「必要な影響緩和措置についてを検討をすべき」としている。これに対して西川委員(福井県知事)は第8回会議の席上で「運転と廃炉は一体、一連のもの」と、交付金の継続を訴えた。
国民、自治体との信頼
立地地域でコミュニケーションを強化するために、さまざまなステークホルダー間での意見交換が行なえるように「地域の状況を勘案しつつ、先進事例を参照して検討を進める」。これまでの一方通行の情報提供では理解は得られないとの認識はあるようだが、信頼関係構築に向けた3原則には①科学的・客観的な情報提供、②エネルギー政策における原子力の位置の説得力ある議論、③全国的な理解活動、を掲げている。これらの原則からは多様なステークホルダー間の意見交換など形式に過ぎないことが透けて見える。
まとめ
具体化が必要なことは他に委ねた整理を急ぐ理由は見当たらない。選挙前に一区切り付けておきたいのが本音かもしれない。
(伴英幸)