汚染土壌の最終処分基本方針から考える原発事故後の放射線防護

『原子力資料情報室通信』第614号(2025/8/1)より

原発事故後のふりかえり

 東京電力福島第一原子力発電所事故による環境放射能汚染が発生し、福島県のみならず東日本の広い範囲で空間放射線量率を下げるための「除染」がおこなわれた。1時間あたり0.23マイクロシーベルト以上の地域が除染対象とされ、福島県内だけでなく、岩手、宮城、群馬、栃木、茨城、千葉の各県の自治体でも公的な除染が実施された。除染で放射性物質はなくならないので、汚染レベルの高い土壌(除去土壌)や廃棄物が大量に発生した。

 福島県内では大熊町、双葉町にまたがる地域に中間貯蔵施設が2015年3月に操業を開始した。「除染等に伴って、放射性物質を含む土壌や廃棄物が大量に発生します。福島県内では、放射性物質を含む土壌や廃棄物の量が膨大となるため、現時点で最終処分の方法を明らかにすることは困難です。このため、放射性物質を含む土壌や廃棄物を、最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設が中間貯蔵施設です」と住民説明会資料に書かれてあるように、これは一時的な施設として作られた。1)また「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが国の責務として法律で規定された。2)

 2024年12月末時点において、これらの除去土壌等は福島県内では約1,400万m3が中間貯蔵施設に、福島県外では合計約33万m3が各自治体で保管されている。3)

放射能汚染土壌(除去土壌)の処分方針

 国は、福島県外に除去土壌の最終処分場を作るには処分量の削減が鍵だとし、一定の濃度以下のものを再利用する方針を決定した。環境省は2015年から除去土壌等の減容・再生利用に関する技術や再生利用促進の検討や実証事業を重ねてきており、10年間の検討成果として「県外最終処分に向けたこれまでの取組の成果と2025年度以降の進め方」「復興再生利用に係るガイドライン」および「福島県外において発生した除去土壌の埋立処分に係るガイドライン」を今年3月に発表した。実際には、実証事業計画が持ち上がった福島県内外の地域で住民の反対運動が次々に立ち上がり、計画通りの実施を断念させてきた。最終処分場選定の先行きも見通せない。

 昨年12月には、内閣総理大臣を除く全ての国務大臣が構成員である「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議」が設けられ、今年5月に基本方針が示された。4)  県外最終処分の実現には全国民的な理解醸成とリスクコミュニケーションの強化が必要だとして、今後は官邸での利用をはじめとする先行事例の創出に政府が率先して取り組むことが書き込まれた。それ以外は、分かりやすく説明したポスターや、ホームページやSNS等の活用、見学会の実施、IAEAの安全基準の説明など、従来同様の取り組みが列挙された。夏頃に今後5年程度のロードマップを取りまとめるという。

再生利用の基準

 福島県内の除去土壌の再生利用は「復興再生利用」と名付けられ、基準は放射性セシウム134と137の合計で1kgあたり8,000ベクレル(Bq)以下とされた。復興再生利用は「事故による災害からの復興に資することを目的として、再生資材化した除去土壌を適切な管理の下で利用すること(維持管理することを含む)」と定義され、公共事業などで行われる計画だ。5)(本誌605609610号に関連記事あり)工事作業者の被ばくが年間1ミリシーベルト(mSv)以下となるよう基準濃度が算出された。なお、放射性物質として取り扱わなくてよいクリアランスレベル(1kgあたり100Bq以下)との2重基準について、環境省はその理由を「廃棄物を安全に再利用できる基準」と「廃棄物を安全に処理するための基準」の違いと説明している。6)

事故由来汚染廃棄物の取り扱い

 事故後、広い地域で放射能汚染廃棄物が生じ、焼却するとさらに高濃度となる問題が発生した。国が責任をもって処分する「指定廃棄物」の基準を8,000Bq/kg超とし、それ以下であれば通常どおりの廃棄物処理をしてよいとされた。7)これに先立ち、原子力安全委員会(当時)が発表した放射能汚染廃棄物の考え方に以下の記載がある。「福島第一原子力発電所事故の影響を受けたものであり、かつ、廃棄しようとするもの(がれき、浄水・下水汚泥、焼却灰、草木、除染活動に伴い発生する土壌等)は、周辺住民や作業者の安全に十分に配慮し、適切な管理のもとで処理等が行われるとともに、最終的に処分がなされることが望ましい。今回の事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等は、現存被ばく状況において周辺住民の生活環境を改善するための重要な活動のひとつである。」「1.再利用について 今回の事故の影響を受けた廃棄物の一部は、再利用に供することが考えられる。これらを再利用して生産された製品は、市場に流通する前にクリアランスレベルの設定に用いた基準(10μSv/年)以下になるように、放射性物質の濃度が適切に管理されていることを確認する必要がある。」8)(下線は筆者)

 すでに汚染されてしまった環境(現存被ばく状況)で過ごす住民の被ばくを減らすために除染が必要であり、発生した廃棄物は処理をしなければならないので処理作業等で生じる被ばくが一定量以下となるように基準を設けたのである。注目したいのは、再利用がクリアランスレベル以下で検討されていたことだ。事故から約3か月後の時点では多様なレベルの汚染廃棄物(土壌を含む)のうち、処理等をする場合は被ばく線量が1ミリシーベルト/年を超えない範囲のものが対象で、クリアランスレベル以下の一部は再利用が検討されていた。汚染土壌を地域外で再利用するということは書かれていない。

 なお、国が責任をもって処分するとしていた指定廃棄物は発生県内ごとに処分場をつくる方針となっているが、立地選定が難航している。処分されないまま時間が経過し、放射線の物理的減衰による指定解除がされつつある状態だ。

 「福島県外において発生した除去土壌の埋立処分に係るガイドライン」では、県外保管中の除去土壌を市町村の責任で埋立処分する手順が示された。約95%は2,000Bq/kg以下と評価されているが、1万Bq/kgを超える場合に必要な電離則に基づく措置の内容が記載された。驚くべきことに、県内除去土壌とは背景が異なるにもかかわらず、県外土壌も復興再生利用を否定しない文章が記載された。

表1 県外最終処分に係る複数選択肢

減容化と最終処分場の社会的受容性

 減容化技術に関する検討会では8,000Bq/kg超の土壌を処理し、8,000Bq/kg以下の土壌と、より高濃度の土壌に分ける4つのシナリオを検討・評価した(表1)。減容化しない場合の最終処分量は数万Bq/kg程度の土壌が約210~310万m3だが、減容化技術を組み合わせて最も高濃度に濃縮した場合、最終処分量は数千万Bq/kgの土壌が約5~10万m3となる。濃縮するほど最終処分量は減少するが、処理コストがかかり二次処理廃棄物も発生する。シナリオによって最終処分場の構造や、作業時や埋設後の被ばく評価も異なる。

 2025年以降は最終処分シナリオの精査や放射能濃度による社会的受容性の変化等を検討するという。技術的にはいかなる濃度にもできるそうだが、クリアランスレベル以下に土壌を浄化したのちに再生利用を目指すといった方向の検討はされていない。

被ばく状況と参考レベル

 ICRP(国際放射線防護委員会)は放射線防護の考え方について3つの被ばく状況を区別して示し、日本でもこれに基づいた対応がおこなわれている(表2)。これらは計測可能な物理的な値(空間放射線量率や放射性物質濃度など)で区別されてはおらず、原発事故後の日本において時空間的にはっきりとした線引きがされていないのが実情だ。

 原発事故が発生する前、基本的に公衆は「計画被ばく状況」にある(天然核種であるラドン被ばくや、航空機の乗務員は現存被ばく状況とされる)。このとき正当化されない被ばくは制限される。事故が発生し原子炉が制御不能で不安定な状況で悪影響が回避できない場合が「緊急時被ばく状況」であり、日本では福島原発事故後に避難・退避区域などが設定された区域が該当するとされた。そして「放射性物質の放出が制御された状態となり、さらに、残留した放射性物質による被ばくが一定レベル以下に管理可能となった段階をもって現存被ばく状況へ移行する」が「緊急時被ばく状況を経ることなく現存被ばく状況に至ったと考えられる地域」もあるとの考え方が示された。9)

 計画被ばく状況のみに年間1ミリシーベルトの線量限度が公衆に設けられている。緊急時被ばく状況と現存被ばく状況に線量限度はなく、参考レベルが用いられている。参考レベルは、前者では100ミリシーベルトあるいはそれ以下、後者では年間1~20ミリシーベルトの下半分とされている。参考レベルはそれを超える被ばくをする人を特定し、より高い被ばくを受ける人の防護を優先する考え方だ。公衆が理由なく線量限度を超えることは許されないが、参考レベルには幅がある上に、超過する人がいることが前提となる。ひとたび原発事故が発生すれば計画被ばく状況でなくなるということは、線量限度は緊急時には守らなくてよい緩い規制といえる。

表2 被ばく状況

どの地域が現存被ばく状況なのか

 除去土壌の「復興再生利用に係るガイドライン」に以下の記載がある。

<放射線防護の考え方>

 復興再生利用は、事故からの復興に向けた取組であることから、現存被ばく状況における参考レベル(1~20mSv/年)を議論の出発点とし、除染実施者の責任の下で、適切な維持管理を前提として利用するものであるため、計画被ばく状況における線量限度や線量拘束値の上限値である1mSv/年を参考として、線量の基準(追加被ばく線量)が1mSv/年以下とされたものである。(筆者注:除染実施者は福島県内は国、県外は自治体)

 「議論の出発点とし」「~を参考として」という前後関係をあいまいにする表現が使われているが、政府は「管理について決定をする時点で既に被ばくが存在している」つまり現存被ばく状況で貯蔵されている除去土壌(放射性物質)を、「既に被ばくが存在している」のではない、つまり現存被ばく状況とは言えない地域(全国)で利用をすることを目論んでいるのだ。国が一体となり復興を目指しているから日本は現存被ばく状況だというこじつけで、搬出先地域にメリットのない被ばくをもたらす方針だ。これは理にかなっているだろうか。

 年間1ミリシーベルトという量は、それ以下なら安全だという説明で様々な基準に採用されてきた。全国で適用される食品の放射性物質濃度基準や公的除染基準、放射能汚染廃棄物の処分基準等々、足し合わせると1ミリシーベルトを超えている。原子力規制委員会所管の放射線審議会は線量限度に関して「該当するあらゆる線源からの被ばくの合計が、限度値を超えないようにしなければならない」という考え方を示してきた。10)ところが今年2月、原則を棚に上げ、国の除去土壌再生利用の方針と呼応するように、復興再生利用の放射線防護の考え方に「計画被ばく状況に近い考え方も併せて導入」するとの見解を表明した。11)「近い」とはどういうことか。政府は3つの被ばく状況を都合よく利用している。

表3 福島原発事故以降の低レベル放射性物質の規制状況

現存被ばく状況はいつ終わるのか

 甚大な原子力災害が発生した後、いつ、どんな状況になれば計画被ばく状況に戻るのか? 市民がせめて年間1ミリシーベルト以下の被ばくに制限される日はいつくるのか?

 1986年に発生したチョルノービリ原発事故の場合、原発サイト外においては1991年以降が現存被ばく状況とされている。12)長期防護措置の解除を決定する法的規制文書は存在せず、事故発生後、40年近く経過しても現存被ばく状況となっている。現存被ばく状況の終了は補償制度の終結をも意味するため慎重さを要するが、継続は厳格な放射線防護を遠ざける根拠にもなってしまう。

 福島原発事故による大量の汚染土壌の発生と、政府が約束した県外最終処分について、2011年以前には政府も電力会社も想像すらしていなかっただろう。福島原発事故の教訓は、事故が起きて環境放射能汚染が発生してしまうと放射性物質が管理された世界でなくなり、それまでの前提が破壊され、公衆の被ばくはなし崩し的に引き上げられてしまうことだ。事故後、低レベル放射性物質の規制は不合理に複雑化している(表3)。昨年、茨城県笠間市で放射能汚染されたレンガ(セシウム合計341.45Bq/kg)が採石場に搬入、破砕されたことが発覚した際、国は原子炉等規制法、放射性同位元素等規制法、放射性物質汚染対処特措法の規制対象にはあたらないと回答した。13)行政による管理は不要となり、その後のレンガの取り扱いは明らかにされていない。

 我々はすでに放射性物質汚染物が日常を行き交う世界で生きている。ならば、これ以上原発を動かさず、事故を起こさないことが重要であることは言うまでもない。

(谷村 暢子)

1) 環境省除染情報サイト、『中間貯蔵施設について』(2012年5月12、13日大熊町住民説明会の配付資料)
2) 中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(平成15年法律第44号)
3) 環境省除染情報サイト、【令和6年3月末時点】汚染状況重点調査地域(福島県外)における保管場所の箇所数及び除去土壌等の保管量
4) 『福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する基本方針』2025年5月27日
5) 『復興再生利用に係るガイドライン』2025年3月、環境省
6) 『100Bq/kgと8,000Bq/kgの二つの基準の違いについて』環境省廃棄物・リサイクル対策部
7) 平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(通称「放射性物質汚染対処特措法」)
8) 『東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について』2011年6月3日、原子力安全委員会
9) 『今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について』2011年7月19日、原子力安全委員会
10) 『放射線防護の基本的考え方の整理-放射線審議会における対応-』2018年1月、2022年2月改訂、放射線審議会
11) 『東京電力福島第一原子力発電所事故後の再生資材化された除去土壌を復興再生利用に活用する際の放射線防護の考え方~放射線審議会の見解』、2025年2月27日、放射線審議会
12) ICRP Publ.146
13) 『市内採石場内に搬入されたレンガに係る放射線量等に係る関係法令上の規制についての確認結果について』2024年12月25日、笠間市環境政策課

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。