東京電力、3原発で人身事故相次ぐ  問われる東電の安全管理能力  国の監督機関は福島第一原発に常駐し、現場の監督指導を!

 『原子力資料情報室通信』第489号(2015/3/1)より

福島第一原発では、昨年から死亡事故を含む労働災害が多発し、2014年度の労災事故は、前年度1年間の2倍以上に達しようとしている。1月16日、福島労働局から東京電力に対し、「労働災害防止対策の徹底等について(要請)」が出された。しかし、1月19~20日にかけ福島第一、第二原発、新潟県の柏崎刈羽原発で転落など3件の事故が相次ぎ、2人が死亡、1人が重傷を負うという深刻な事態となった。昨年3月の死亡事故から大きな事故が続いているが、いずれも現場での基本的な手順を守り、対策さえしていれば防げたものである。東京電力の安全管理能力、姿勢をあらためて問いたい。


 

相次ぐ死傷事故

 福島第一原発で1月19日、タンク建設中の雨水受け検査を行っていた元請け企業の社員がタンク天板部から11m転落し、20日に死亡した。安全帯は装着していたが、命綱に固定していなかったという。
 福島第二原発では20日、廃棄物処理建屋で点検作業の準備を行っていた下請け企業の社員が点検治具の鋼鉄製容器(重さ700 kg)と台座に頭部を挟まれ死亡した。器具のボルトを外す際、通常は器具が動かないようクレーンで固定する作業を3人以上で分担することになっていたが、この決まりは手順書に明記されていなかった。
 柏崎刈羽原発でも19日、2号機タービン建屋外側の施設内の点検作業で写真撮影中の作業員が3.5mの高さの通路から落ち、足など複数個所を骨折する重症を負った。安全帯は着けていなかった。
 東京電力の姉川尚史原子力・立地本部長は、20日の記者会見で「3つの発電所でほぼ同時に重大事故が起こったことに共通しているのは、われわれの中に事故を防げないなにものかがあると認識している。(これまでの)改善策に足りないことがあると思い知らされた」
と、途方に暮れたようなコメントをした。
 1月22日には、厚生労働大臣から東京電力社長に対し「原子力発電所における労働災害防止対策の徹底について」を要請した。東京電力では3原発での作業を中断し、安全点検に着手した。福島第一原発では、発電所の維持に必要な水処理施設やサンプリングなどを除く作業を中断した。
 2月3日、2週間ぶりに安全点検が終わった現場から順次作業が再開された。点検対象となった作業436件中、なんと9割の392件で転落防止措置など新たな安全対策が追加される結果となった。ほとんどの現場での安全対策の不備が明らかになった。

昨年3月の土砂崩落死亡事故で
施工会社を書類送検

 福島第一原発で昨年3月28日、がれきなどを保管する建物の補修で掘削作業をしていた作業員が崩落した土砂の下敷きになって死亡した事故で、福島県の富岡労働基準監督署は2月5日、工事の1次下請け建装工業(東京)と同社の工事責任者を労働安全衛生法違反の疑いで福島地検に書類送検した。
 送検容疑は、倉庫のコンクリート基礎のひび割れを補修するため、地面に掘った深さ約2mの坑内で作業をさせる際、土砂が崩れないように板などで支えるなど防止措置をしなかった、また法令で定めた掘削作業主任者も選任していなかったとしている。
 通常の建設現場でされている当然の対策がまったく講じられていなかったのだ。補修工事の工期が同年3月末までで、工事責任者は「工期に間に合わせるため急いでいた」と説明しているという。

きびしい現場の状況

 福島第一原発では昨年来、汚染水タンクの増設や多核種除去設備ALPSの増強、海側にある地下トンネルと建屋の接合部の止水作業などさまざまな汚染水対策の作業が急増している。また、新しい事務棟、入退域管理施設、防護服などを焼却する施設等大型施設の建設工事などが進められている。1日に入域する作業員数は2013年12月には約3,400人だったのが、2014年12月には約7,000人に倍増した。
 このような状況の中、前述した昨年3月の死亡事故後も5月から6月にかけて足場が悪いために転倒する事故が多発、ハシゴや仮設の昇降階段から転落し重傷を負う事故も頻発した。9月30日には高圧電源のケーブルを取り扱う作業で感電し重傷を負った。11月7日には、汚染水タンクの増設作業中、タンク天井からレール(390 kgの鋼材)が落下し、2人が重傷(1人は脊髄損傷)。今年1月13日には、除染作業中につり上げた鉄板に頭をぶつけ重症を負うなどの労災事故が起きている。
 事故から間もなく4年が経過しようとしているが、福島第一原発の現場にはまだ線量が高くて手の付けられないがれきや見えないホットスポットなどが存在する。林立する汚染水タンクからの被曝も免れない。通常の保守・点検の作業現場とはまったく異なる想定外、マニュアル外の作業である。これまでに経験のない技術、作業工程、作業計画の立案・管理は困難を極める。

東電からの労災防止対策報告書

 東京電力は2月16日、厚生労働省と福島労働局から要請されていた労働災害防止対策の徹底についての再発防止策を報告した。報告書では「日常の工事管理に係るコミュニケーションを通じて元請事業者の安全意識の向上に努める」「工程調整会議で作業エリアと時間を調整し、安全管理を徹底する」など今更ながらの表明をしている。経験不足の作業員に対して、「体験型の教育訓練施設の設置の検討」を掲げ、新人教育や現場での危険予知能力を高めることなどを強調しているが、抜本的対策にはまったくなっていない。

生かされない労働者からの訴え

 東京電力は、これまでに5回にわたる「福島第一原子力発電所の労働環境に係わるアンケート調査」をおこなってきた(第1回2012年5月、第2回12年9~10月、第3回13年2~3月、第4回13年10~11月、第5回14年8~9月に実施)。
 アンケートには、現場の労働者から切実な声が寄せられている。現場の作業に関しては、「現場の危険箇所を明確にしてほしい」「構内の情報をもっと作業員に知らせてほしい。いつどんなけがが発生したとか、何が故障したなど」「現場での事故やけがが不安」「優先順位をつけて、工事がやりやすいように調整してほしい。安全よりも工程を優先している。工程調整会議は、東電殿から〈工程を急がされる〉会議になっている」「工期が短かすぎる」など。
 これら現場の労働者の声を真摯に受け止めて対策を講じていれば、いま起こっているような事故の多くは防ぐことができたのではないだろうか。しかし、東京電力には現場の労働者からの声に真剣に向き合う姿勢は見えない。

国と東電が連携する有効な対策を求める

 東電のアンケート調査でも明らかになっているが、労働者の偽装請負や違法派遣は後を絶たない。また、危険手当など適正に支払われているとは言えない状況にある。
 昨年8月広島で、筆者が原発はごめんだヒロシマ市民の会のメンバーらとともに労働者から受けた直接の相談で、健康診断費用の給料からの天引き、業務上交通事故の損害賠償の給料からの天引き、労働契約の一方的な変更などの実態が明らかになった。この実態を1月26日にヒバク反対キャンペーンらと共に行った政府交渉の場で訴え、労働基準監督署を通じた調査、是正指導の道を拓くことができた*1
 福島第一原発の緊急作業や福島県の各地で除染作業に従事した労働者からは、健康診断の費用が自己負担となっている、事業者が雇用保険に加入していない、業務上事故の損害賠償(示談)費用を給料から天引きされた、危険手当が全額支給されていないなどさまざまな問題が訴えられている。
 労働者の安定した雇用と正当な賃金の保障なしには、労働環境の改善はあり得ない。今後も全国労働安全衛生センターや「被ばく労働を考えるネットワーク」などとの幅広い連携のもとに、労働者の相談活動に励みたい。
 さらに、全国労働安全衛生センターらと共に取り組んでいる政府交渉(第13回、2月19日開催)では、「偽装請負、違法派遣の防止、労働違反の防止について」、福島第一原発で働いた労働者に関して、労働基準法、職業安定法ないしは労働者派遣法、労働安全衛生法の事例を監督機関が集約すること、そのために、厚労省と経済産業省資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の連携の仕組みを確立することを求めた*2
 同交渉で、東電福島第一原発の労働災害防止について、以下2点も要求項目とした。
 1点目は、原子炉等規制法では原子炉設置者が責任主体であることから、労働安全衛生法令においても原子力事業者を、被曝管理を含めて労働安全衛生上の事業者とみなす規定を設けるべきという要求だ。1月22日、厚労大臣が東電に出した要請で「東京電力は、単なる発注者ではなく、原子力施設の所有者であり、原発事故の当事者であるとの自覚のもと、当事者意識を持って施設内の労働災害防止に万全を期すこと」を求めている。しかし、労働安全衛生法上の責任がない東電に対し、国がいくら当事者意識を求めても、その実効性は限られているためだ。
 2点目は、国の監督機関は福島第一原発に常駐し、元方事業者と合同して現場の監督指導に徹底し取り組む必要があるという要求だ。東電には現場で発生する労働災害を防止するための責任、能力、技術、経験が決定的に欠如しており、東電任せでは労働災害は防止できない。
 今後も地道に政府交渉を続け、有効な対策を国と東電に求めていきたい。

労働者を犠牲にする緊急時被曝限度の
引き上げは許されない

 本誌484号で、原子力規制委員会の緊急時作業者の被曝線量引き上げの検討に対し批判的視点で報告した。緊急時作業者の被曝限度引き上げは、重大事故を前提とした原発維持のためのもので、被曝労働者を犠牲にするものである。
 原子力規制委員会は昨年12月10日の会議で、緊急時の被曝基準を緩和し、被曝制限値を250ミリシーベルトに引き上げること、緊急時被曝線量と平常時被曝線量を分けて管理する方向で検討を進めることを表明した。
 「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」の第3条では、「放射線障害の防止に関する技術的基準を策定するに当つては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもつて、その基本方針としなければならない」とされている。
 1月26日の交渉で、原子力規制委員会が「250ミリシーベルト以下では急性の臨床症状があるとの文献はない」として検討を進めていることについて、私たちは1971年に日本で起きた複数のイリジウム被曝事故や1945年8月6日に原爆投下された直後に広島市に入市した賀茂郡北部防衛隊(通称賀北部隊)では100ミリシーベルト以下でも急性症状が出ていることを指摘した。その上で、100ミリシーベルトから引き上げることによる労働者への健康影響を検討するよう申し入れた。
 緊急時被曝線量と平常時被曝線量を“分けて運用する”という意味は、例えば緊急作業の被曝限度を250ミリシーベルトにした場合には、平常時の被曝が年間50ミリシーベルトまで許容されているので、1年間で300ミリシーベルト、2年間続くと350ミリシーベルトになってしまうということだ。よりいっそうの高線量被曝が容認されることになる。厚労省は100ミリシーベルトを超えた労働者については、その後、被曝労働に従事しないよう通達を出している。
 私たちは、厚労省の通達に対する評価もないまま、分けて運用するのが当然であるという原子力規制委員会の議論は認められないと主張したが、規制庁はこれから検討するとして議論を避けた。
 年間の被曝限度を超えて緊急被曝状況に介入する労働者は「志願者」でなければならない。しかし志願という必要条件は労働諸法規になじまない。労働安全衛生法第25条では「事業者は労働者を作業現場から退避させる等の必要な措置を講じる」義務があるとしている。2月19日の交渉では、厚労省に対し、志願を必要条件とする緊急作業について、事業者が労働者を従事させることはできないことを原子力規制委員会と政府に表明することをもとめた。今後、規制委員会と放射線審議委員会での議論に注目したい。
(渡辺美紀子)

*1:詳細はhttp://www.jttk.zaq.ne.jp/hibaku-hantai/index.htm#section3から
*2:詳細はhttp://joshrc.info/?page_id=53から

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