「再処理義務付け法案」に異義あり―法案の概要と疑問点―

 『原子力資料情報室通信』第502号(2016/4/1)より

 

 衆議院に提出されている「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律案」の概要についてまとめ、疑問点などを指摘したい。

国会エネルギー調査会(準備会)

 2月4日に国会エネルギー調査会(準備会)1)(以下、国会エネ調)は「核燃料サイクルに柔軟性をー再処理実施体制見直し法案を問うー」と題する検討会を国会議員会館において開催した。資源エネルギー庁から曳野(ひきの)潔電力ガス事業部政策課企画官が出席して原子力事業環境整備検討専門WGの報告書内容を説明した。この概要は①拠出金制度の創設(積立金からの変更と対象の拡大)②使用済燃料再処理機構(以下、再処理機構)の創設、③運営委員会の設置である。
 曳野氏はWG報告書の内容を法案に落としつつあると説明したが、実はこの時には法案は固まっていた。翌日に法案そのものが経産省のホームページに掲載され、同日、衆議院に法案が提出されたからだ。進行中という表現はウソだった。
 なお、提出された法案は3月10日現在まだ趣旨説明もおこなわれておらず、審議に入っていない。

法律名そのものを変える改正案

 法案は、一部改正と言いながら法律名そのものが「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」(以下、再処理実施法)と変わってしまう改正だ。旧法と新法では同じ「再処理等」でも内容が異なる(新法では旧法に加えてMOX燃料加工やそこから出る廃棄物、工場の解体が含まれてくる)。その上、拠出金になれば取り戻しもなくなり、改正というより新法の色彩が強い。再処理実施法を新法として提案して、旧法を廃案にした方がすっきりとする。そうしなかったのは、審議時間が関係するからだろうか?
 WG報告書は、電力会社の破産時に積立金の返還が求められるおそれがあるというが、原発の引き取り手が積立金の権利も引き継ぐと旧法に記されているのだから、それだけなら改正の必要はない。また、引き取り手がない場合は破産会社が使用済燃料の処理・処分をすることになるが、破産会社が引き受けられるものではない。
 従って、改正法は再処理機構の設立と拠出金の対象をMOX加工関連と中間貯蔵に送られる使用済燃料にまで拡大することこそが狙いである。すなわち再処理の確実な継続である。
 この時期に改正案が出てくるのは、電力自由化が契機であることは間違いないが、2018年に日米原子力協力協定が期限切れを迎えることから、再処理の権利を確実に維持するための裏付けの狙いがあるのかも知れない。

再処理を義務付ける法律

 法は目的(第1条)に「再処理等の着実な実施のために必要な措置を講ずる」とし、原発設置者が「再処理等の責任を負う」(第4条)とし、さらに再処理機構は経済産業大臣から認可された「実施計画に従い、当該拠出金に係わる使用済燃料の再処理等を行わなければならない」(第9条)としている。まさに、再処理の義務付けといっていいだろう。
 先の国会エネ調でも法案概要に示された内容から再処理の義務付けとの指摘をおこなったが、これに対して曳野氏は、再処理をするとして設置許可を得た原子炉設置者2)だけが対象なのであって義務付けはしていないと弁解した。確かに原子炉等規制法3)上はそうなっているのだが、では再処理しないことで許可が得られるのかといえば、国の原子力政策と整合することが求められていたので、再処理しないなど書けるはずもなかった。この点は民主党政権時代に、新設炉については再処理の事実上の義務付けはなくなった。しかし、既設炉に関しては再処理することで許可を得ているのだから義務といえる。
 もっとも再処理しないとの変更申請をおこなう選択肢もあるが、少なくとも使用済燃料の直接処分の道が開ける(例えば、政策決定と高レベル廃棄物の最終処分法4)の改正)までは、閉ざされた選択肢であろう。脇道にそれるが、この道を開くためには、消費者として原発設置者の電力を買わないことが有力な後押しになるのではないかと考えている。

再処理機構と原子力規制

 原子力規制委員会は再処理機構が原子炉等規制法上の規制を受けることはないか、と説明にきた資源エネ庁の多田明弘電力ガス事業部長に繰り返し問うていた(第50回会合)。これに対して多田氏は規制が係わってくることはないとの見解を示していた。具体的には再処理実施法案に「業務委託」を明記したことで対応したとの立場だ(第55回会合)。そしてこの会合では、問題となっていた規制法上の問題が安全規制上の問題にすり替わっている。
 再処理実施法案では再処理機構は認可法人であり、設立から事業計画、中期事業計画など再処理の実施に係わる計画や拠出金額などについて経済産業大臣の許可を受けることになっており(第16条)、「再処理等の実施の業務を行う」(第10条)。同法では再処理の「事業」でなく「業務」という用語を使っている。原子炉等規制法(第44条)による「事業の指定」を受けた事業者に業務委託するから、再処理機構としては規制法上の申請は不要との考え方だ。
 しかし、再処理に責任を持つのは再処理機構であり、規制法上の事業指定を受けるのが本来の在り方ではないか。これを省略したいのは手早く再処理機構を設立することが狙いではないか。

拠出金の決定方法は?

 2014年度末の積立金の残高(2兆3800億円)は、再処理機構に引き継がれることになっている。今後の拠出金は使用済み燃料発生量に単価を掛けて積み立てることになっている。拠出金単価の決め方は政令(未定)によるとされており、現時点では不明だ。ただ、拠出金には①六ヶ所での再処理等金額、②六ヶ所でのMOX加工等に係わる金額、そして③六ヶ所では再処理されない使用済み燃料の将来の再処理等に係わる金額が含まれると推察される。
 大まかに言って、単価算定では、2004年に示された核燃料サイクル関係の費用(六ヶ所再処理とMOX燃料加工に関するものを併せて12.9兆円)の現時点での再評価がベースになると考えられる。③については六ヶ所再処理等の費用程度を想定して内部留保されているはずだ。ただし、第2再処理は40年以上も先のことであり、仮に割引率2%を考えれば、費用は半分以下になる。

将来の不確実性への対応は?

 エネルギー基本計画は再処理の継続を言いつつ将来の不確実性への対応を求めて、経産省は使用済燃料の直接処分の研究を進めている。しかし、法案は、政策転換の可能性を求めた基本計画に反して、再処理を確実に継続するために資金を拠出させようとするものになっている。法案には原発設置者が拠出金を納付した時には実施計画に従い、拠出金に係わる再処理等をおこなわなければならないと規定している(第9条)が、日本原燃がトラブルなど技術的な問題、あるいは余剰プルトニウムなど対外的な問題で再処理が実施計画通りにできなくなった場合にはどうなるのか? 日本原燃の破たんを避けるためには資金提供し続けることが避けられず、それは将来の再処理費用を先取りすることになり、結局は事業破たんすることになるのではないか。事業の成立性に関する評価がおこなわれていないことは大きな問題だ。

(伴英幸)

1)原発ゼロの会が呼び掛けて2012年4月から始まっている。同調査会(準備会)には有識者チームがあり委員長を植田和弘(京大教授)、事務局長に飯田哲也(ISEP所長)が務めている。筆者もこの一員として参加している。資料や映像はwww.isep.or.jp/library/5024 で見ることができる。また、原発ゼロの会は超党派の国会議員の集まりで、代表は近藤昭一衆議院議員、事務局長は阿部知子衆議院議員。
2)正式には「特定実用発電用原子炉設置者」。原子炉の設置許可申請に必要な記載項目のひとつ「使用済燃料の処分の方法」について、再処理を行うと記載して許可をえた原子炉設置者をいう。
3)正式名称は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」。炉規法とも略される。
4)正式名称は「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」。現在はガラス固化体と地層処分相当のTRU廃棄物だけが最終処分の対象となっている。

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