日本弁護士連合会第64回人権擁護大会シンポジウム 「高レベル放射性廃棄物問題から考える脱原発」

『原子力資料情報室通信』第581号(2022/11/1)より

表題のシンポジウムが9月29日に北海道旭川市で 開催され、筆者も招かれて参加した。この日に合わ せて日弁連は「基調報告書」1を公表した。この報告 書を踏まえて弁護士の方々がシンポの進行、報告や 質疑を行った。翌日には「高レベル放射性廃棄物の 地層処分方針を見直し、将来世代に対し責任を持て る持続可能な社会の実現を求める決議」2を採択した。

 北海道寿都(すっつ)町ならびに神恵内(かもえない)村で文献調査が開始されてから2年が経過する。この調査期間は2年と されているので、時宜を得た催しだった。なお、NUMOは760点を超える文献資料を分類・整理・ 分析中とのことで、報告書のまとめにはさらに時間 がかかるようだ。

 シンポの第1部は「脱原発、2050年カーボンニュー トラルに向けての課題」、第2部は「高レベル放射性 廃棄物処分はどうあるべきか」、第3部は「持続可能 な地域社会に向けて」がテーマだった。 脱原発、すなわち高レベル放射性廃棄物(以下、 HLW)の量を確定した上で処分問題を考えるべきだ というのが主催者の立場で、処分への将来世代を含 めた合意形成のあり方、といった内容に踏み込んで 議論が行われた。なお、第3部では北海道ニセコ町、 興部(おこっぺ)町、島根県のNPO、智頭(ちづ)町などから創意工夫あ る各町独自の取り組みなどが報告されたが、ここで は報告を割愛したい。以下、1、2部の内容を報告する。

 第1部は、公益財団法人自然エネルギー財団の大 野輝之常務理事が基調講演を行った。まず、IPCC第 6次報告書を示し、この10年のCO2削減が非常に 重要で、現在より半減しないと世界の平均気温の上 昇を産業革命前と比較して1.5℃に抑えることがで きないと説明した。ロシアのウクライナ侵攻に言及 し、日本とは対照的に、エネルギー安全保障のため 化石燃料からの転換を加速するべきとの考えが主流 になっていると説明。ドイツも2030年に自然エネ ルギー電力を80%に、35年には100%にする野心 的な政策だと紹介した。原発やCCS火力を進めよう とする日本の政策では実現可能性が低く、かつ高コ ストでCO2削減ポテンシャルは小さいと批判して、 再エネ100%へ舵を切るべきだと主張した。その後、 自然エネルギー財団が公表した「脱炭素へ日本への自 然エネルギー100%戦略」3の概要を説明した。  第2部が「高レベル放射性廃棄物処分はどうあるべ きか」で、小野有五北海道大学名誉教授と筆者が現在 の処分政策を批判し、政策転換の必要性を訴えた。

 筆者は200年の暫定保管のメリット(使用済燃料 に対し放射能量が5桁減る)を述べ、これを政策と することを主張した。現在はガラス固化体と地層処 分相当のTRU廃棄物だけが地層処分対象となってい る欠陥を指摘して、保管期間中に、使用済み燃料、 使用済みMOX燃料、福島第一原発の廃炉高レベル 廃棄物などの処理・処分研究をすべきこと、また、 保管継続を含むさまざまな選択肢を示した上で合意 形成していく期間とすべきだと訴えた。また、NUMOが公表した「包括的技術報告書(2021年)」 の安全評価では、稀に起きる事象では最大年間14ミ リシーベルトの被ばく線量との評価で、そのような 被ばくを将来の世代に押し付けることは許されない と批判した。

 小野名誉教授は「行動する市民科学者の会・北海 道(ハカセの会)」がまとめた「知っていましたか? いま地層処分をしてはいけない8つの理由」と題す る小冊子を参加者に配布し、その内容を展開した。 各項目のタイトルを抜き出すと、①最終処分場には 全国の原発のごみ、フクシマの核のゴミも、すべて持ち込まれる可能性があります、②地上で安全に保 管できるので、いま地層処分は不要です、③いま地 層処分したら危険なヨウ素129は10数年後に漏れ 出します、④科学的とは言えないNUMOの「科学 的特性マップ」。地表の活断層から遠く離れていても 地震は起き、地上とつながるトンネル、地下施設は、 地下水の浸入を防げません、⑤寿都も神恵内も活断 層の上にあって、地層処分にはまったく適さない場 所です、⑥世界一、安定した10億年の岩盤からなる フィンランド、世界一不安定で、活断層だらけ、地 下水だらけの日本、⑦海外では地層処分がどんどん 進んでいて、日本だけが遅れていると、世界から批 判されているのですか?(海外でも進んでいない国々 がほとんど-筆者註)、⑧破たんしている核燃料サイ クルに使われているムダな税金!それを地方にまわ せば、地方はずっと豊かになります。  この小冊子は寿都など多くの地域で活用されてい るものだ。 その後、「処分の在り方についての合意形成はどう あるべきか」で、北海道寿都町の視察報告や「子ど もたちに核のゴミのない寿都を!町民の会」の三木信香さんから町の現状の報告を受けた。三木さんは、町民の間に表面上の分断や心の分断があるが、なにも口にできないのが現状だ。この先、概要調査受け 入れの諾否を問う住民投票や町議選挙などがあり、ますます分断が深まることを感じている。町長が仕掛ける分断に耐え、子どもも交えて、どのような寿都にしていきたいか対話をしていきたい。この問題は寿都町民だけに押し付けられることではない、私たち町民を支えてほしい。国民のお金を使うことな ので、核ゴミの問題は全国民の問題であり、寿都の 問題を全国に広め、皆さんで考えてほしい、と訴えた。

 続いて、寿楽浩太東京電機大学工学部人間科学系 列教授と寺本剛中央大学理工学部教授によるパネル ディスカッションへと進んだ。 合意形成問題について、寿楽教授は、原子力開発当初は廃棄物処分が技術的に難しい問題だとは考え られていなかったが、時が経つにつれ、その困難さが明らかになってきた。地層処分と地上保管はそれ ぞれメリット・デメリットがある。また、原発を続 けていく上で処分を考えるのか、脱原発の上での処 分を考えるのかも重要な課題だ。行政は法律(最終処分法)に則った対応しかできないが、地層処分に 社会的な合意がないのが現実だ。この処理処分について科学・技術的には議論できても、安全は科学だけで決まるものではない、主権者である市民が意思 決定に参加することによる社会的合意形成が必要だ、 と指摘した。

 世代間倫理問題について寺本教授は、処分問題を環境正義の問題と捉え、世代内および世代間の負担 やリスクを平等にするべきだと述べた。不公平性は 空間的かつ時間的におこる。処分を決めてしまうこ とにより、受け入れた地域だけに負担を強いる不公 正が起こり、また、将来世代の選択肢を奪う不公正 にもなる。長期貯蔵と処分との比較では、地層処分は能動的管理を不要とするシステムだが、場所が決 まってしまえば、動かすことができなくなり、地域 に負担を強いることになるし、将来世代は受け入れ ざるを得ず、その決定権を奪うことになる。他方、地上保管は移動が可能であり、現世代の選択肢を増 やすことになるし、将来世代に決定権が残る。しかし、 監視の継続や費用負担の問題や大規模な自然災害や 戦争など、安全性に不安が残される。こう見てくると、どちらを選択するにせよ、後の世代に何らかの負担 を強いることは避けられず、世代間の公正性はすで に達成できなくなっているといえる。個人として、 倫理の観点からセカンドベストを考えると地上保管 を支持している、と締め括った。

 何らかの負担をしいることが避けられない世代内 ならびに世代間の不公平を少しでも少なくするため に、政策を変更し一から議論を進めるべきだと考え るが、議論を尽くした合意に達するには、それこそ 何十年もかかることだと実感したシンポだった。

(伴 英幸)

 

1 www.nichibenren.or.jp/library/pdf/event/year/2022/kicho_houkokusho_64_dai1.pdf

2 www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/civil_liberties/2022/2022_1.pdf

 

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