【原子力資料情報室声明】前橋地裁判決を評価する
【原子力資料情報室声明】前橋地裁判決を評価する
2017年3月23日
NPO法人原子力資料情報室
3月17日、福島原発事故の避難者らによる集団訴訟の判決で前橋地裁は、国と東京電力の責任を明確に認めた。被告ら、すなわち国と東京電力は、連帯して半額ずつ、「平穏な生活権」を害されたことによる精神的被害の慰謝料を原告ら(後述)に支払えという判決である。
福島原発事故の原因として、判決は「地震動にその原因があるとは認められない」とした。私たちは、そのように断言できるほどには事故原因は究明されていないと考える。その上で、東京電力が十分な津波対策を行わなかった義務違反、国が対策を取らせる命令を発しなかった不作為の違法が過酷事故の原因となったことは確かである。これまでさまざまな調査によって明らかにされてきた事実から当然の判断とはいえ、その点で東京電力と国を断罪した判決を高く評価したい。
判決は、津波被害の予見が可能だったと認定し、にもかかわらず東京電力が「経済合理性を安全性に優先させたと評されてもやむを得ないような対応をとってきたこと」は非難に値するとした。しかも、「期間及び費用の点からも容易であった」のに、「約1年間で実施可能な電源車の配備及びケーブルの敷設という暫定的な対策さえ行わなかった」と。
明快で、説得力のある判決である。
国に対しても、「規制権限がない」とする主張を不合理として退け、「規制権限を行使すれば、本件事故を防ぐことは可能であった」と具体的な権限行使の例を挙げて、責任逃れを封じている。今後予定されている判決でも、前橋地裁の判断が受け継がれることは間違いない。
もちろん、国が正しく権限を行使し、電力会社が十分な対策を実行していれば、原発は安全であると一般論を言っているわけでないということは、あえて指摘するまでもないだろう。
東京電力と国の責任を明確にしながら判決は、しかし、「ふるさと」の喪失までを強いられた避難者らの抱える心の痛みへの想像力には欠けるところがあると言わざるをえない。
提訴時の原告137名中、提訴後に亡くなられた3名、事故時に出生前の4名を除いた130名のうち、慰謝料の支払いが命じられたのは62名に対してだけである。避難指示区域内の原告72名中19名(75~350万円)、「自主的避難等」の原告58名中43名(7~73万円、死亡原告の相続分を合算した1名は102万円)が、「認容金額」とされている。1名当たり1100万円(うち弁護士費用100万円)の請求からは、およそかけ離れた判決だ。
判決は、「迅速かつ一律に賠償を行う」として原子力損害賠償紛争審査会により設けられた「中間指針」を、合理的として認めた。しかし、そもそも政府が指示した避難区域の合理性こそが問われるべきではなかったか。この点では今後の裁判で納得のいく判決が出されることを期待したい。