[参考資料]Citizens’ Dialogue on the Long-term Management of Used Nuclear Fuel(抄訳)
[参考資料]Responsible Action–Citizens’ Dialogue on the Long-term Management of Used Nuclear Fuel(抄訳)
【オリジナル】
www.cprn.org/en/doc.cfm?doc=1050
訳:米倉由子
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※『原子力資料情報室通信』365号(2004.11.1)資料紹介より
今年1月から3月にかけて、カナダ国内の12の都市で462人が参加する「使用済み燃料の長期管理に関する市民対話」が開かれた。これは、非営利のシンクタンクであるカナダ政策研究ネットワークス(CPRN、 www.cprn.org )が、核廃棄物管理機構(NWMO)からの委託で実施したもので、7月に報告書が公表された。
NWMOは、使用済み燃料の管理方法を調査するため、核燃料廃棄物法にしたがって2002年11月に設立され、05年11月までに具体策を連邦政府に提言することが求められている.NWMOは、包括的な準備のひとつとして、一般市民が使用済み燃料についてどのような意識を持っているかを把握するため、市民対話の開催をCPRNに要請した。
参加者はすべて、専門の世論調査会社が、18歳以上のカナダ人から国民の声を反映するように選んだという。
CRPNは、使用済み燃料に関する情報や、どのようなシナリオが考えられるかといったことを説明したワークブックを参考にして、市民が40人はどずつのグループに別れ、対話を行ない、意見をまとめるという方法をとった。
報告書によれば、多くの市民たちは、最初は使用済み燃料についての知識がまったくなく、自分自身の認識不足にいらだっていた。こんなにも実態を知らなくて、これから将来何世紀にもわたって社会はこの問題を処理していけるのだろうか、という疑問が沸き起こった。自分で読んだり聴いたりして情報を入手しなければならないことはわかっているが、意味不明だったり、アクセスできる形で情報が提供されていない場合には、情報入手はむずかしい。また、情報の信頼性の問題もある。市民は政府や産業界からの情報には不信感がある。不信感から、市民は政府を監視し、信頼できる情報を提供する独立の監督機関の設置を求める声を強めている。
政府と原子力産業界に対しての信頼度は低く信頼回復のため、情報伝達と意思決定にあたっての市民参加も含めて透明性の向上を強く求めた。また、さまざまな広い分野からの専門家と市民の代表で構成する独立した監督機関の必要性を訴えている。(CPRNの了解を得て掲載)
※あくまでカナダでの動きや反応についての参考情報として掲載するものであり、原子力資料情報室として内容に賛同しているわけではありません
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CPRNカナダ政策研究ネットワーク
責任ある行動 Responsible Action
使用済み核燃料の長期管理に関する市民対話
[抄訳]
ジュディ・ワトリング
ジューディス・マックスウェル
ナンディニ・サクセナ
スザンヌ・タシェロウ
研究論文
市民参加ネットワーク
2004年7月
カナダ政策研究ネットワーク(CPRN)は、オタワに本部を置く、非営利の政策シンク・タンクである。保健医療改革、生活の質の指標、カナダの子供、高齢化、市民が望む社会といったような問題についての研究や社会政策審議に、市民を積極的に参加させる手段として、長年市民対話を活用してきた。CPRNおよび公開討論や他の政策分野での活動の詳細は www.cprn.org を参照。
CPRNは、ビューポイント・ラーニング社のチョイスワーク対話方法論を適応して、この市民対話を発展させた。この対話の目的は、市民の価値観に基づいて選択した政策を、政策決定者により深く理解させ、重要問題で将来市民が望む方向を占うことである。CPRNは、カナダでの保健医療の未来についての対話で(ロマノフ調査委員会)、最初にこの方法論を採用し、以来政策研究に使用すべく改定してきた。
この研究プロジェクトは、核廃棄物管理機構から資金提供を受けた。
カナダ政策研究ネットワーク株式会社?2004年7月
目次
序文
エグゼクティブ・サマリー(要点のまとめ)
謝辞
第一章 背景と方法論
第二章 何故対話なのか
第三章 参加者
第四章 対話のプロセス
第五章 市民の基本的な価値観
第六章 これからの進路への市民の助言
第七章 これからの進路への対話の影響
付録
付録I 対話方法論
付録II 討論対対話
付録III カナダ全人口と比較した参加者
付録IV 態度・姿勢のデータ
付録V 対話に共通する合意点
付録VI シナリオ評価
付録VII 参加者がテーマ別につけた条件の順位
付録VIII テーマ別開会及び閉会のコメントの順位
付録IX 評価アンケートの結果
付録X 対話集会:開催日と場所
参考文献
序文
カナダには22基の商業用原子炉があり、国内電力の13パーセントを賄っている。耐用年限の間に、360万束の使用済み核燃料を出す。原子炉から取り出されたばかりのこの集合体は非常な高熱で、高レベルの放射能を持っているので、遠隔操作で原子炉から水槽に移動し、熱をさまし、放射能のレベルを下げる。7?10年の後には、原子炉敷地内の乾式貯蔵施設に安全に移動できる。束は、最小耐用年数50年の非常に安全性の高いコンテナに保管される。これらのコンテナは置換や格上げが可能だが、超長期間の保管目的には建造されていない。使用済み核燃料自体は、何千年もの間有害物質として残る。
この対話で、この使用済み核燃料を, カナダが長期にわたりどのように管理すべきか、という問題が市民に提起された。推進する管理計画の決定から、実際に計画を履行するまでには20?35年を要する。これまでの国際的な経験から、合法的、公平、技術的にも信頼できると認められる結論に達するには、相当な時間を要することが分かっている。
カナダでは今、核廃棄物管理機構(NWMO)が、使用済み核燃料管理に関する提言をカナダ政府に提出する時期(2005年11月)が迫っている。NWMOは、包括的な準備の一環として、長期の使用済み核燃料管理に関する市民対話の開催をCPRNに要請した。2004年冬に開催された対話の結果を、このレポートで報告する。この市民対話の結果は、これまでに開催した他の市民対話の結果と共に、カナダが持つ様々な技術的選択肢の利点とコスト比較に利用されるだろう。NWMOは、これらの選択肢を比較して提言をまとめる際に、技術的・経済的なメリットと共に、社会的な価値も考慮に入れることにした。
NWMOが、提言作成作業の初期の段階で、市民や利害関係者の意見を求めるという、広範で、革新的なアプローチを採用したことを、私は高く評価する。市民参加を求めるNWMOの姿勢は、複雑かつ技術的問題の社会的・倫理的側面をより深く理解しようとしている他の政策決定者に、手本となると信じる。
市民対話では、無作為に選ばれた国民を代表する人、462人が課題について学び、責任者及び政策決定過程の問題について勉強した。彼らの討議は、すべてのカナダ人、特にNWMO、産業界、そして政府が、政策決定する際の指針となる価値観の骨格を形成した。
この対話集会で我々が直面した課題の一つは、これから先何十年もの間特に留意していく必要がある:つまり、カナダ人は、自分たちが使用している電気がうみ出している自分たちの放射性廃棄物について殆ど知らないということである。参加者は、情報不足に驚いた。彼らはこのような認識不足が、現在とこれからの世代にとっても、国民および環境の安全と福祉に長期的に重要な事柄について、責任ある政策決定するには重大な障害となると考えた。
対話集会に参加した市民がその期間の間に、エキスパートとなることはなかったが、直ちに問題の重大さを把握した。彼らは今?将来の世代までこのような決定を引き延ばしてはいけない?行動する必要があると考えた。彼らは、段階的プロセスに同意した。そして、これから先の長いプロセス?技術的分析、市民教育、研究、そして、これから先の何十年でする選択に対する信用と信頼構築に必要な市民社会とホスト・コミュニティとの交流?を終了するためのスケジュールを決めた。こうして決められた長い時間枠は、将来に渡って人類福祉に非常に重要な政策決定に、スピード時代に生きる我々が関心を持ち続けられるかどうかを厳しく問うことになる。
この任務をCPRNに委ねたNWMOに感謝の意を表する。又、この問題にプロとして取り組んだCPRNのプロジェクト・チームとNWMOにも感謝する。特に、カナダ国民を代表して参加し、難しい選択をするのに努力した方たちを賞賛したい。彼らがこの問題と真剣に取り組み、発言しているのを聞いて、対話集会に出席した私たちは本当に光栄だと感じた。彼らを見ていて、これからの何十年、いや、何世紀に渡って、市民の持続的参加が、長期的な問題を成功裏に解決に導くと確信した。
ジューディス・マクスウェル
2004年7月
エグゼクティブ・サマリー
市民対話開催の理由
他の多くの国と同様、カナダも、使用済み核燃料の長期管理方法を決定する日が近づいている。しばらく時間をかけて選択肢を研究してきた。1980年代後半には、カナダ政府は、連邦環境アセスメントパネルを設立し、広範囲に研究し、カナダ楯状地への使用済燃料埋設案を審議するため、公聴会を広く開催してきた。パネルが1998年に発行したレポートは、とりわけ、カナダ社会に受け入れられる管理方法を計画するには、さらなる研究が必要であると結論付け、社会的、倫理的な枠組みを構築し、様々な選択肢の比較に利用することを提言した。
核廃棄物管理機構(NWMO)は、2002年11月に設立され、社会的に受容され、技術的に安全で、環境にやさしく、経済的に無理のない管理方法をカナダ国民と共同で確立することを任務とする。NWMOは、2005年11月までに長期管理方法についての提言を連邦政府に提出することになっている。
いろいろの方法を比較する枠組みを構築する過程で、NWMOは関心のあるコミュニティ、先住民、多くの分野の専門家、そして他の利害関係者と幅広く対話を行っている。そして、このプロセスの一環として、利害関係のない無党派のカナダ人と市民対話を行い、管理問題に関してカナダ人に最も重要で、長期管理方法に反映させたい価値観は何かを見つけて欲しいとの依頼が、NWMOからカナダ政策研究ネットワーク(CPRN)にあった。
参加者
2004年の1月から3月にかけて、カナダ国内の12都市で合計462人のカナダ人が市民対話に参加し、使用済み核燃料の長期管理方法に反映させたい価値観について討論した。参加者はすべて、専門の世論調査会社が、18歳以上のカナダ人から無作為に、しかし、国民の声を反映するように選んだ。従って、参加者は、無党派の個人として参加したのであって、利害関係者とか利益団体の代理として参加したのではない。無作為に選ばれたカナダ国民の代表との対話であったので、参加者は、広く国民の意見を反映していると考えられる。
参加者は、自分の役目を真摯に受け止め、熱心に取り組んだ。この重要な公共政策問題に貢献したいと切望しているようであった。
対話方法
CPRNがこの研究プロジェクトで採用した討論対話方法は、ビューポイント・ラーニング社のチョイスワーク対話方法論に基づいている。この方法では、およそ40人のグループを作り、対話中に難問に直面しても乗り切れるようにサポートする。対話を通して、参加者は相互交流し、他の参加者の意見を聞き、自分の見解を修正する。そして、もっと深い価値観へと到達し、その意見を自分たちの意思決定の基盤となるより深い価値観に調整する。)
この方法論に従って、核という特殊問題を扱うには、多くの課題があった。専門家以外には、原子力にかかわる問題に精通する人は皆無と言ってよく、素人は、その技術的難解さに圧倒されることがある。またこの問題は、他の公共政策問題と違って、非常に長期間に及ぶ問題であるという点で、異質であった。今日決定されたことの、これから500年、或いは1000年先後の影響は、想像しがたいことである。
対話の目的は、参加者が一日で核燃料の技術的専門家になることでも、あるいは、技術的に可能な別の方法の利点を討議することでもなかった。それよりは、参加者に十分な情報を提供し、社会にある様々な問題を理解させ、異なった価値観に基づく見解を検証させ、彼らにとって使用済み核燃料の長期管理に、最も重要なことは何かを議論してもらうことであった。
対話参加者には、4つのシナリオが提示された。各々のシナリオは、社会の一部に受容されやすいもっともらしい見解を代弁していた。参加者は、違うシナリオの中からいろいろの要素を取捨選択したり、自分自身の新しい考えをみつけ出したりして、自分で一番いいと思うシナリオに達することができた。
この対話集会に参加した市民に提示されたシナリオは、地域社会が回答をだすのが最適であると考えられる問題を取り扱っていた。人々の違った価値観を反映した各々意見の賛成・反対の議論をふまえていた。
最初の二つのシナリオでは、「世代の壁を越えて、私たちが権利と責任を分かち合う最善の方法は?今日私たちが持っている知識に重きを置くべきか?将来の世代の選択に重きを置くべきか?」と問題にした。
つぎの二つのシナリオでは、「管理方法への信頼と信用を確保する最善の方法は?政府の役割に重きを置くべきか?影響を受ける地域社会と市民社会の役割に重きを置くべきか?」と問題にした。
市民の指針となる価値観
提示されたシナリオの長所・短所を検証し、グループで問題を一緒に検討する過程で、市民は自分たちに本当に大切なことは何なのかを探る必要があった。
安全―最重要要件
12回開催された対話集会から生まれた価値観の枠組みは、最重要要件が根拠になっている。つまり、安全という人間としての基本的な要件である。これは、恐怖心や危険が無い世界への期待感から生まれたものではなく、現在と将来の世代に対して、必要な安全対策を講じる責任感からである。
参加者は、国民の健康や環境が危険にさらされた最近の出来事に鑑み、安全・無事について話し合い、現在と将来のテロの危険性について懸念を表明した。
これらのリスク管理のため、規制者・基準設置者として、政府に責任を果たすよう求めた。また、安全全体に対する国民の信頼を得るため、政策決定過程でのより多くの情報、更なる透明性、そして包括性を求めた。
価値観の枠組みを以下に要約する。それらは、参加者がした選択、課した条件、そして選択した理由を反映している。
価値観の枠組み
世代を超えた責任:
1.責任?私たちは自分の責任を果たし、自らが作り出している問題と向き合わなくてはいけない。
2.適応能力?新しい知識をベースとした絶え間ない改善。
3.受託責任?私たちはすべての資源を注意深く使用し、将来の世代に健全な財産を残す義務がある。
信頼と信用の確保
4.説明責任と透明性?信頼の再構築
5.知識?現在と将来のために、よりよい判断を下すための公益
6.社会的一体性?多くの人が参加し、沢山の見解を反映してこそ最善の決定ができる。私たちには皆果たすべき役割がある。
1.責任?私たちは自分の責任を果たし、自らが作り出している問題と向き合わなくてはならない
市民は子供と孫に自分たちが誇りを持てる財産を残したい。問題解決のため具体的に行動したい。対話集会参加者は、使用済み核燃料の長期管理計画もなく、核燃料使用が30年かそれ以上も前に決定されていたことに驚き、うろたえた。エネルギーを使い、核廃棄物を生み出した世代として、今、できるだけ行動し、今、その付けを払う責任を感じた。
2.適応能力?新しい知識をベースとした絶え間ない改善
市民は、今日の自分たちの解答が最善だとは思わない。前世紀を振り返えれば、技術の進歩により、自分たちの生活が著しく変化したことが分かる。そしてこれからも、こうした進歩が続いていくと考える。将来の世代が、使用済み核燃料をもっと安全かつ効率的に処分できるよう、参加者は、研究への計画的投資を希望した。又、将来の世代が使用済み核燃料に関する知識を持ち、自分の責任を果たす能力を養うための方策へ投資することを要望した。
従って彼らは、将来の世代が核燃料にアクセスして、新しい知識を使えるようすることを希望した。そして、規則的に新しい知識を確認し、それを応用できるよう、柔軟かつ段階的な管理方法を希望した。
3.受託責任?私たちはすべての資源を注意深く使用し、将来の世代に健全な財産を残す義務がある
減らす、再利用する、リサイクルすると言う考えは、カナダ人の精神に深く根付いていて、市民はすべての資源を賢く使いたいと願っている。使用済み核燃料と広い意味でのエネルギー政策の可能な限りのコストと利点を研究し、統合的・総体的な取り組みを望んでいる。
対話参加者は、管理方法を考える時、核廃棄物の減量が必須であると考えた。自分が使う電気の量を減らす責任を認め、行動変革に挑戦する必要があると認識した。政府がリーダーシップを発揮して奨励策を導入し、エネルギーの本当のコストと環境と健康への影響のもっと詳しい情報を提供し、個人や産業界のエネルギー消費削減を推進するよう希望した。風力や太陽光発電など、代替エネルギー利用の促進を求めた。ウランからもっと安全にエネルギーを抽出し、廃棄物の毒性を減らす方法の更なる研究を要望した。
4.説明責任と透明性?信頼の再構築
市民は、政府、特に連邦政府が、公共の利益についての最終的説明責任者であると考えている。しかし、政府と産業界への信頼度は低い。参加者は、政府に次の条件を課した:?
・政策決定前に、専門家、市民、地域社会、利害関係者が参画できること。
・真実を知らせること。政府と産業界の政策決定及び監視の透明度を高めること。政策決定の理由及び政策実施方法を周知すること。基準が満たされているのかどうかを知らせること。財務および経営情報を全面的に開示すること。
・政治的思惑や利益追求のために政策決定をしないと確約すること。
・政府は、規制と基準を強化して、安全・無事を確保する責任があること。
参加者は、信頼の構築には、政府と産業界を監視し、市民に信頼できる情報を提供する独立・無党派の監督機関が必要であると考えた。そして、この機関は、広い分野からの専門家と市民の代表で組織されることを希望した。
5.知識?現在と将来のために、よりよい判断を下すための公益
知識は、現在と将来のために、よりよい判断を下すための公益であると捉えている。使用済み核燃料についての自分自身の認識不足に驚き、至急以下の実施を求めた:
a)十分な情報を持って参画し、より良い政策決定をサポートできるよう、情報提供努力を改善すること
b)若者の教育に投資して、将来の世代は、使用済み核燃料管理に必要な技術的識見と社会的諸機関が存在するようにすること、
誰もが最高知識の恩恵を受けられるよう、新しい知識の創造と諸外国との共同研
究促進への投資を求めた。
6.社会的一体性?多くの人が参加し、沢山の見解を反映してこそ最善の決定ができる。私たちには皆果たすべき役割がある。
社会的一体性とは、人々の声を反映させること。対話参加者は、なるべく多くの見解を盛り込めばよりよい決定ができると信じた。消費者、エネルギー生産者および関連産業、科学者、他の専門家、関連自治体、政府機関、市民は、政策決定と長期の使用済み核燃料管理に、継続的に貢献していく必要がある。
これからの進路への市民の助言
12回の対話集会から得られた中核となる結論から、長期管理方法に対する市民の要望が浮き彫りになった。すべての対話集会と、異なるデーター・ソースを横断して、高い一貫性が見られた。市民の助言の概要は:?
i. まず第一に、現在と将来にわたって、人の健康と環境の安全をできるだけ図ること
ii. 核廃棄物を出している者として、またエネルギー使用者として、私たちは自らの責任を受け入れること。今日の知識を使って、長期の管理方法を整備すること。それは、新しい知識に適合できる柔軟性を持っていること。
iii. 今日全てを解決することは不可能なので、研究をもっと重視し、研究分野での国際協力を拡大して、核廃棄物管理方法の改善を目指すこと。
iv. 将来の世代がこの問題と継続的に取り組めるだけの知識と能力がもてるよう、今具体的な方策をとること。
v. 将来の世代は、改良された技術を使い、核廃棄物をもっと安全に効率よく管理できるよう、核廃棄物にアクセスできること。
vi. 一方、エネルギー消費を抑制し、あらゆるエネルギーのコストと長所を評価し、風力や太陽発電のような代替エネルギーの利用を促進して、核廃棄物の排出量を削減すること。
vii. 政府、各分野の専門家、市民そして利害関係者の間で、政策決定の責任を分かち合うこと。
viii. 一番影響を受ける地域社会は、もっと大きな役割を果たすこと。そして、必要に応じて、専門的知識及び人的・経済的資源が得られるようなサポート体制を整えること。
ix. 最終的に政府は、必ず公共の利益に適った政策決定をすること。
x. できるだけ最善の政策決定をするために、健康・安全規制、財務管理と新しい研究に関する情報の透明度を上げること。
xi. 専門家と市民の代表からなる独立機関に政府と産業界を監視させ、核廃棄物管理に関する信頼できる情報を市民に提供すること。
集会の最後に、参加者は、皆で一緒に考え出した5番目のシナリオ(上述のリスト)への貢献度を評価するよう求められたが、高い(77%)評価を下した。
これからの進路への対話の影響
使用済み核燃料の管理:
・使用済み核燃料関連問題についての認識不足に、市民は憤りと欲求不満を感じていた。今現在起こっていることを誰も知らなくて、これからの何世紀にもわたって、社会はこの問題を処理していけるのだろうかと議論した。市民の信頼回復のため、情報伝達の透明度と効率の改善を政府と産業界に求めた。
・市民は、多分野からの専門家と市民の代表から成る独立の監督機関設置を求めた。それにより、政策決定者は、現在ある核関連の監督機関は、公的な性格を保持する必要があることを踏まえて、その任務を再検討し、この分野で市民の期待に答える最善の方策を決定しなければならない。
・ゴミを減らす、再利用する、リサイクルするという原則はカナダ人の精神に深く根付いており、より良い核廃棄物管理方法を見出すため、研究への投資と他の諸外国との協力拡大を、産業界と政府に対して求めた。
要するに、NWMOが採用している多くの人を参加させる手法は、対話参加者に強く支持された。この手法をこれからの政策決定に定着させるように要求した。NWMOは、違う管理方法の長所とコストを査定、比較して、提言をまとめるので、市民との間で構築された関係をこれからどのように継続していくかが課題だろう。
より広い公共政策への影響:
・市民は現在のエネルギー消費傾向は、持続可能ではないと分かっている。自分の行動を変え、社会も変革する必要があると分かっているが、そこからの論理的な道筋が分からない。核廃棄物の管理費用を含め、すべてのエネルギー資源のコストと利点について議論するよう求めた。この議論を円滑に進めるために政府がリーダーシップを発揮するよう要望した。 対話集会と平行して、多くの市民たちはこの議論を始めたかった。
・市民は、短期の政治的便宜ではなく、長期的展望のもとに、統合的・総合的に公共政策を決定するよう求めた。コスト、長所、他の問題への影響を比較し、慎重に考慮して重要な政策決定をするよう希望している。
・今日私たちは、倫理的な課題と選択を突きつけ、これからの何世紀もの長期に渡って影響を及ぼすような複雑な技術的問題に直面している。 最善の技術的助言を得ると共に、政策決定者は、社会が何に一番価値を置いているかを理解する必要がある。そうしてこそ、市民自身が今引き受けられるリスクと影響と、子供や孫の代まで残していくリスクと影響との間に境界線を引くことができる。そして決定する時、自分たちの意見も聞いてもらいたいと欲している。
・最後に、不信感から、政府を監視し、信頼できる情報を提供する独立の監督機関の設置を求めた。産業界も政府も、消費者や市民に不意打ちを食らわせるようなリスクを冒すべきではない。信頼を構築し、市民参加の効率を高めるには、政府は市民に情報を提供し、市民は、専門家や利害関係者と共に、重要な公共政策の決定に発言していくという、双方向の対話が必要である。あらゆる分野のカナダ人に、お互いから学び、合意点を見出す機会を与えることによって、私達は社会が何に価値を置いているかを理解できる。このようにして、政策決定が信頼、合法性、長期間の持続性を獲得するのである。
二組のシナリオの要約は以下のとおり。 ワークブック全体は、CPRNのサイトwww.cprn.org で見られる。
シナリオ1と2の要約世代の枠を超えて権利と責任を分かち合う最善の方法は?
今日私たちが持っている知識に重きを置く将来の世代の責任をできるだけ軽くして、核廃棄物の長期管理法を今日決める。私たちは判断するだけの十分な科学的・技術的知識を持っており、核技術の恩恵を享受する。私たちは今行動し、考えうる最善の核廃棄物の長期管理方法を決定する責任がある。将来の世代の選択に重きを置く現在私達が持っている知識と科学技術で、核廃棄物を現在ある貯蔵施設で長年にわたって責任を持って安全に管理できる。今までに技術的な研究をしてきたが、まだ私たちが知らないことが沢山ある。私たちは、新しい知識、技術、組織を創出し、将来の世代が多くの情報に基づいてより良い決断ができるようにする責任がある。
シナリオ3と4の要約管理方法への信頼と信用を確保する最善の方法は?
政府の役割に重きを置くカナダ国民は、オンタリオ、ケベック、ニュー・ブランズィックおよび連邦政府が責任を持って人々の健康、治安、自然環境を守り、促進することを期待している。電力会社の株主として、又、規制機関として、これらの政府は、この問題を処理する義務と責任があり、経過に対する説明責任を負っている。影響を受ける地域社会と市民社会*の役割に重きを置くカナダ国民は、将来の健康、安全そして環境に関する長期の政策決定に発言したいと望んでいる。それは、核廃棄物の影響が一番大きい地域社会で特に顕著である。核廃棄物管理方法の決定に、これらの地域社会が効率よく参加できるようにすること、又、彼らが核廃棄物施設の誘致に反対できる権利も保証すべきである。地域社会と市民社会*は、継続的に監視の役割を果たすべきである。* 非営利組織、利益団体と協会、一般市民を含む
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第7章 これからの進路への対話の影響
この対話集会から公共政策への沢山の教訓を得た。多くは使用済み核燃料管理に関するものだが、政策決定に広く影響を及ぼすものもある。
使用済み核燃料管理への対話の影響
カナダ国民の代表として選ばれた参加者は、核廃棄物管理についての知識不足と、問題が抱える課題についての認識不足に驚いた。社会が核技術を利用してきた時間の長さと問題の複雑さを理解するにつれて、参加者は、自分たちの認識不足に対する憤りと欲求不満を感じた。政府と産業界が核関連問題の情報を極秘扱いし過ぎたと感じた。今現在起こっていることを誰も知らなくて、これからの何世紀にもわたって、社会はこの問題を処理していけるのだろうかと議論した。
そして、産業界と所轄の政府機関は、国民へ継続的に情報を伝達する際の透明度と効率をあげるよう強く提言した。今日、この時代に、国民の信頼(と長期のコスト負担への同意)を得、保持するには、彼らに情報を提供するしかない。参加者は、専門家と市民の代表から成る独立の監督機関の設置を求めた。それにより、政策決定者は、現在ある核関連の機関は、公的な性格を保持する必要があることを踏まえて、その任務を再検討し、この分野で市民の期待に答える最善の方策を決定する必要がある。
再度述べるが、この対話の特徴は、公的機関への不信である。カナダ国民は、産業界も政府も、一般的に、そして核関連問題について真実を語っていないと強く感じている。彼らは大人として扱われることを望み、継続的に情報提供を受け、主要な政策決定に発言したいと希望している。物事を考える機会を持ち、自らの意見が政策決定に反映されることを望んでいる。このように、将来の核廃棄物管理に関する政策決定は、国民参加の原則に基づいて行われるべきだと考えるが、進んで参加する地域住民が無い場合には、すべてのカナダ国民に代わって、連邦政府が最終判断を下すことを容認している。カナダ人は、透明性の高い、市民参加型の、情報開示に基づく、政策決定こそ一番信頼が置けると考えた。
参加者の結論から、専門家、利益関係者と市民を参加させているNWMOの手法が強く支持されたことが分かる。彼らは、将来の政策決定にこの手法が根付くことを求めた。集会最後の対話の評価では、参加者の89%が対話は有益であると答え、92%は、また市民対話に参加したいと回答した。さらに、161人は、NWMOからこのテーマについての継続的情報提供を求めた。他の人たちはすでにNWMOのウエブサイトを自分の「お気に入り」に追加していた。多くの参加者が学んだことを家族と友人に伝えるつもりだと語った。彼らは参加する機会を高く評価し、継続的な市民参加を望んでいる。
対話参加者もNWMOも、関係構築にかなりの投資をした。NWMOが次の段階への進み、いろいろの管理方法を評価し、政府の審議用に提言をまとめる際に、この関係を将来も継続していく最善の方法を考えることが重要である。
そして最後に、廃棄物の処理問題に対して、カナダ人の本能的な反応に答えるには、産業界は核廃棄物の取り扱いで苦慮するだろう。減らす、リサイクルする、再利用するという原則は、カナダ人の精神に深く根付いている。従って、参加者は、産業界も政府も研究への投資を増やし、減らす、リサイクルする、再利用するもっと良い方法を見つけるよう主張した。要するに、環境保護本能が色濃く出たのである。
公共政策への広い影響
この強い環境保護精神は、公共政策にもっと広い影響を及ぼす(オンタリオ予算戦略市民対話に参加した市民も同じ結論を出した(17)。カナダ人は自分たちがエネルギーを大量消費していることを知っており、消費を削減すべきだと感じている。が同時に、行動を変えることの難しさも認識している。彼らは、核と炭素をベースとしたエネルギー源から生じる問題の深刻化を防ぐため、長期のエネルギー政策による解決を要望している。エネルギー廃棄物の管理費用を含めた、すべてのエネルギー資源のコストと長所を議論するよう求めた。実際、核廃棄物の対話集会と平行して、彼等の多くはこの議論を始めたかった。現在のエネルギー消費傾向は、持続可能ではないと分かっている。自分の行動を変え、社会も変革する必要があると分かっているが、これからの論理的道筋が見えない。このエネルギー政策に関する議論を円滑に進めるため、政府がリーダーシップを発揮するよう求めている。
市民は、環境保護に熱心なので、統合的・総合的に公共政策問題と取り組むよう求めている。コスト、長所、他の問題への影響を比較し、慎重に考慮して重要な政策決定をするよう希望している。市民は、短期的な便宜の為ではなく、長期的に可能な影響にも配慮して政策を決定するよう求めた。
公共政策への第二の影響は、カナダ人の価値観を反映して新技術の利用を決定をする必要性である。核廃棄物と同様、新しい再生技術や、新しい医療に関する遺伝子情報の利用と言った多くの複雑且つ技術的問題は、難しい倫理上の課題や選択を突きつけている。社会が負担するであろうコストと享受する利点と、また、これから先何世紀もの人類の健康と福祉への長期的な影響を考えると、これらは、大きな決断である。このような決断をくだすには、技術面、科学面での最善の助言が必要である。と同時に、市民が何に一番価値を置いているのかを理解する必要がある。そうしてこそ、市民自身が今引き受けられるリスクと影響と、子供や孫の代まで残していくリスクと影響との間に境界線を引くことができる。
過去、このような問題については、大臣とその顧問、科学的専門家、そして主な産業界の利害関係者の意見を参考にして政策決定がされてきた。最近は、公聴会という形での協議がこれに加わった。しかし将来、政府は市民参加を推進する必要があるだろう。無党派の市民?公聴会に出席しないような人々?に専門家や他の責任ある行為者が決定する政策の枠組みとなる価値観を考えてもらう機会を与えることである。それには、市民の陪審制である市民対話による参加、又は他の審議方法による参加により、これを効率よく実現できる。
最後に、関連した影響は、透明性の問題である。産業界も政府も、消費者や市民に不意打ちを食らわせるようなリスクを冒すべきではない。核廃棄物の場合には、市民は自分たちの認識不足にいらだっていた。自分で読んだり聞いたりして情報を入手する責任があることは理解しているが、意味不明だったり、アクセスできる形で情報が提供されていない場合には、この責任を果たすのはもっと難しい。次に、情報の信頼性の問題もある。市民は政府や産業界からの情報には不信感を持っている。不信感から、市民は、政府を監視し、信頼できる情報を提供する独立の監視機関の設置を求める声を強めている(18)。
情報提供を受けるのは確かに助けになるが、ただ一方的に情報提供を受けるだけでは十分ではない。市民の声を政策決定に反映させる効率的な仕組みに支えられて、市民が合法的・積極的に役割を演じていく必要がある。それには、異なった意見を持った市民が集い、お互いに学習し、合意点を見つける機会を与えて初めて、社会の価値観が何かを理解でき、決断に合法性と持続性が生まれる。
要するに、カナダには、幸いにも、情報提供を受け、参加する責任があることを理解する市民がいる。政府や公共機関に今求められるのは、カナダ人が自らの責任を果たせるように、継続的に有意義な参加の機会を付与していくことである。
17)
2004年4月、ジューディス・ノルテ、ジューディス・マクスウェル、メアリー・パット・マッキノン
「信頼とバランス:2004?2008年オンタリオ予算戦略に関する市民対話」CPRN研究レポートP/03.カナダ政策研究ネットワーク、オタワ
18)
オンタリオでの予算についての対話では、市民は、独立機関が政府の財政赤字規模の監査を、選挙の投票前に実施するよう求めた。