大間原発建設中止の訴え棄却

大間原発建設中止の訴え棄却

青森県大間町で建設中の大間原発の建設と運転の差止め求めて、函館市の住民をはじめ全国の市民1164名が国と電源開発を訴えていた裁判で、3月19日函館地方裁判所は原告側の訴えを棄却した。

大間原発は2008年に建設許可を受けたが、福島第一原発事故を契機に設けられた「新規制基準」の適合性審査が現在行われている。判決は、規制委員会の審査が続いており「建設許可の具体的見通しが立っておらず、運転開始の具体的目途が立っていない現時点で、重大な事故が発生する具体的危険性を直ちに認めることは困難である」とした。建設差止めも含め、「現時点では何も判断できません」というのだ。

裁判では、全炉心MOX燃料の危険性、海底活断層、敷地内の重要施設直下の活断層、火山地帯立地の危険性、シビアアクシデント対策など新規制基準がもとめる安全水準の合理性、住民への被害と避難計画の実効性などが争われた。

判決は「規制委員会の審査に先立って、安全性にかかる現在の具体的審査基準に適合するか否かについて審理判断をすべきでない」。「規制委員会は、高度の科学的、専門的知見を有し、原子力事業者や推進機関からの独立性を確保し、原子炉に関する規制を一元的に担うことによって、原子力利用の安全性の確保を期すもので、規制委員会以外の機関が重大事故発生防止の観点から発電用原子炉施設の安全性を審査することは予定されていない」等々、司法の役割を放棄するような言い訳をつらね、福島事故などなかったかのように「国の安全審査」にすべてを委ねるという、後ろ向きのものだ。

原告らは、規制委員会の審査の独立性そのものに疑念を申立てた。専門性についても渡辺満久・東洋大学教授らを証人とし、大間北方沖活断層の存在と活動性を指摘し、規制委員会がこれを見逃し専門性の欠如したずさんな審査が行われた実態を明らかにしてきた。原告は札幌高裁に控訴する方針である。

 

大間原発差止函館地裁不当判決に断固抗議する弁護団声明

2018(平成30)年3月19日
大間原発建設差止訴訟弁護団

1 函館地方裁判所民事部(浅岡千香子裁判長、布施雄士裁判官及び山田将之裁判官)は、本日、大間原発建設差止訴訟事件において、大間原発の建設差止めを命ずる判決を求める住民らの申立てに対し、これを棄却する判決を出した。

2 大間原発は、一般のプルサーマルではごく一部のみにしか使われないMOX 燃料を全炉心に用いる、世界に類例のない型である。この実験とも呼べる危険な原発に対し、本判決は、基準の合理性及び基準適合判断の合理性のうち、基準の合理性については、原子力規制委員会に専門技術的裁量があることを前提に、国際基準と適合するとして、その合理性を安易に認め、基準適合判断については、未だ稼働の具体的目途が立っていないことを理由として、原告らの請求を棄却したものであり、いずれの点についても極めて不当である。特に、安全性の確保されていない原発に関しては、原子力規制委員会の設置変
更許可がなされ、現に稼働がされると、不測の自然災害等に対して、周辺住民らの生命、身体等に極めて大きな被害をもたらす可能性がある。設置変更許可がなされない限り司法判断を控えるという態度は、周辺住民らの被害の事前救済を事実上著しく困難にするものであり、到底容認できない。

3 基準の合理性については、一部国際基準に適合しているように見える部分だけをつまみ食い的に評価し、その本質的な考え方や安全思想に適うものではないことを無視するものである。

4 次に、基準適合判断の合理性については、7年半に及ぶ審理を行い、原子力規制委員会の適合性審査がなされていないことは十分に理解しておきながら、それを踏まえて判断を行うことを明言して審理を進めたものであり、このような逃げ腰の判断回避ともとれる判断を行うことは、訴訟経済・紛争の一回的解決の観点ばかりか、当事者の訴訟指揮に対する信頼をも裏切るあまりにも不当な判決である。

5 もっとも、本判決は、特に大間北方沖海底活断層の存在等について、原子力規制委員会や証人として証言した渡辺満久氏らから疑問が呈されていること等現在の審査状況に照らせば、原子力規制委員会が当然に設置変更許可を行うことを前提にしているとは認められないから、人格権侵害の具体的危険がないと判断している。すなわち、本件原発においては、そもそも安全性に疑問が存在する状態であることを認めたのである。しかし、そうであれば、端的に、大間原発の建設・稼働を差し止める判断を行うべきであった。

6 本判決は、世論調査で原発の安全性に不安を示す声が過半数を超えている現状、昨年12月13日に広島高裁がした伊方原発稼働禁止の仮処分決定をはじめとする原発の安全性に警鐘を鳴らす複数の裁判例にも反する、時代に逆行するものである。我々は、この不当な判決には断じて屈することができない。

7 福島第一原発事故が発生してから丸7年が経過した今もなお、その被害は収束するどころか、深刻さを増している。国からは避難指示解除によって事故前の基準の20倍も汚染された地域で生活するように強いられ、必死の思いで避難して、ようやくみなし仮設住宅に落ち着いた人たちは、その住宅の明渡し請求訴訟まで起こされている。避難指示が解除されても、汚染された地域へ戻る人は少なく、ふるさとの存続が危ぶまれる状況にある。食料自給率(カロリーベース)が40%を切る我が国において、食料自給率200%を超える北海道は、国民の食を支える重要な食料基地である。青森県もまた、食料自給率は124%と高い水準にあり、津軽海峡で獲れるマグロは「大間マグロ」「戸井マグロ」として全国的に高い知名度を誇る。大間原発の敷地予定地であった土地を売らずに大間原発の建設に抵抗し続けた熊谷あさ子さんの言葉のとおり、「大間の海は宝の海」である。近い将来、大間原発が深刻な原発災害を惹き起こした場合には、このような豊かな資源を有する函館市を含む道南地域は、壊滅的な被害を被る。その時には、浅岡裁判長、布施裁判官及び山田裁判官の責任も問われることになる。

8 電源開発に対しては、裁判所の判断にかかわらず、自らがフルMOX 炉を安全に建設し運転することの無謀さを自覚して、大間原発の建設・運転を取りやめる経営判断を今こそ行うべきである。また、当弁護団は、この不当判決に対して直ちに控訴することを宣言し、原発の危険から私たちの暮らしと将来世代の希望を守るための闘いを続けることを誓う。

以上

【大間原発訴訟の会ホームページより】

    弁護団声明へのリンク  bengodan-seimei.pdf へのリンク
       判決骨子へのリンク   hanketu-kkosi.pdf へのリンク
       判決要旨へのリンク   hanketu-yousi.pdf へのリンク