フランス加圧水型炉・制御棒駆動装置のサーマルスリーブが破損し制御棒が全挿入できず

『原子力資料情報室通信』第530号(2018/8/1) より

フランス加圧水型炉・制御棒駆動装置のサーマルスリーブが破損し制御棒が全挿入できず

6月20日の第32回の原子力規制委員会技術情報検討会において、原子力規制庁は、フランスのベルビル2号炉(加圧水型炉、130万kW、フラマトム社製)で2017年12月におきた制御棒駆動装置のサーマルスリーブの上部フランジが破損したトラブルに関して、同じ炉型のメーカーであるウエスチングハウス社が米国原子力規制委員会に提出したレポート(Part 21 Report 2018-10-00)および国内PWRプラント電力からの報告をもとに説明をおこなった。サーマルスリーブは、原子炉容器上ぶたの制御棒駆動装置貫通管の内側にとりつけられている管である。制御棒駆動軸を水流から保護し貫通管を熱からまもる機能がある。
ベルビル2号炉では、低出力での炉物理試験と制御棒落下試験をおこなった際に、炉心のH-8という位置のサーマルスリーブ本体が通常位置より下がっているのがみつかった。動作をみる試験では、制御棒をステップを刻みながら炉心に挿入することができなくなり、さらに、制御棒を自由落下をさせてみても全挿入されずに引っかかって止ってしまった。
運転中の冷却材の流れがひきおこす振動によってサーマルスリーブの上部フランジがすり減って脱落し、サーマルスリーブ本体が本来の位置より降下したものと考えられている。上部フランジが破損した際に、破片が制御棒駆動装置のハウジングのなかに残り、制御棒が炉心に挿入される動きのさまたげになったと推測されている。
サーマルスリーブの摩耗事例としては2007年に制御棒駆動装置貫通管の下部の漏斗形状付近でみつかったのが最初である。その後、サーマルスリーブ上部フランジの摩耗損は2014年に米国のプラントでみつかったが、原子炉の運転の安全上の影響は低いと評価されていた。しかし、今回ベルビル2号炉でおきたことは、サーマルスリーブ上部フランジの摩耗破損が制御棒の挿入の阻害を招いたことを示しており、安全上きわめて問題だ。

図1 原子炉容器上ぶたにとりつけられた制御棒駆動装置のサーマルスリーブと破損位置

1990年代以降にフランス・米国・スウェーデンなどの多くの加圧水型炉で、原子炉容器上ぶたの貫通管の応力腐食割れがおきた。その対策として、上ぶたを交換したり、スプレイノズルから頂部へのバイパス流量を増やす工事をおこなったり(上ぶた頂部の温度を下げるため)している。
サーマルスリーブの損傷がみつかっているのは、いずれも上ぶた頂部の温度を下げる対策工事がおこなわれた原発である。頂部へのバイパス流の量を増やしたため、制御棒駆動装置貫通管およびサーマルスリーブの流体による振動を大きくする作用をしたと考えられ、これがフランジの摩耗につながったとみられている。ウエスチングハウス社のレポートにおいても、頂部が低温ないしは低温可能な加圧水型炉の方がサーマルスリーブの摩耗が発生しやすく、すすみやすいとされている。さらには、バイパス流が大きいほど、運転時間が長いほどその傾向が高くなると推測されている。
ベルビル2号炉でのサーマルスリーブ上部フランジの摩耗破損の発生は、米国での評価で想定されているよりも時間的にかなり早く、フランスでは負荷追従運転がおこなわれている点に注目し、そこに原因が求められてようとしている。

図2サーマルスリーブ上部フランジ付近の構造

日本国内のプラントで、サーマルスリーブ上部フランジの摩耗破損がおきやすいとされる頂部が低温ないしは低温可能な加圧水型炉に該当するのは、大飯3・4号炉、玄海3・4号炉、敦賀2号炉、高浜3・4号炉、川内1・2号炉、伊方3号炉、泊3号炉の11基である。玄海3・4と泊3は原子炉容器上ぶたの交換工事がおこなわれていない(玄海3号炉は計画中)。伊方3号炉は現在工事を実施中である。その他のものは、すでに上ぶたの交換済みで、同時にサーマルスリーブも交換されている。
国内のPWR電力事業者は、サーマルスリーブの構造上のちがいや振れ止め金具の形状のちがい、運転時間などのちがいから、フランスや米国の原発に比べて、サーマルスリーブ上部フランジの損傷はおきにくい、と説明している。国内のプラントのなかで、サーマルスリーブの損傷が比較的おきやすいと考えられている、バイパス流量の大きい標準型4ループで、運転時間が長い(サーマルスリーブが古い)原発(原発名は公開されていないが、玄海3か4号炉)に対して、カメラによる目視確認をおこない、その結果の写真の一部を公開している。制御棒駆動装置貫通管の下端部からカメラで、サーマルスリーブが降下しているか、いないかをみるものである。PWR電力事業者は、8本の管を目視したが有意な降下はみられなかったと、結果を説明している。
しかし、サーマルスリーブ上部フランジ付近についてはみてはいない。したがって、摩耗が発生しているかどうかはみておらず、地震の揺れによって上部フランジが欠損し、スクラム時に制御棒の挿入に失敗するという危険性はかかえたままである。

図3上部フランジ摩耗破損によるサーマルスリーブ降下
(第32回技術情報検討会,2018年06月20日,資料32-2-4より抜粋)

【追加説明】

加圧水型原発の原子炉容器(圧力容器)の上ぶたに付いている制御棒駆動装置用の貫通管(管台)の応力腐食割れが、1990年代以降に数多く発生した。応力腐食割れがおきたのはインコネル600系のニッケル基合金でつくられた貫通管および上ぶたへの溶接部である。この対策のひとつとして、貫通管および上ぶたへの溶接部の材質を応力腐食割れがおきにくいとされるインコネル690系のニッケル基合金に変更した上ぶたへと取り替える工事がおこなわれてきた。 玄海3号炉の貫通管および上ぶたはインコネル600系のニッケル基合金なので、応力腐食割れ対策工事としての上ぶた交換が必要だと考えられているが未実施である(計画策定中らしい)。 玄海4号炉と泊3号炉はインコネル690系の貫通管を採用しているため、応力腐食割れ工事としての上ぶた交換工事は想定されていないが、ここでは上ぶたの使用時間をみるめやすとして、交換をしていない方に分類している。 フランスのベルビル2号炉は、上ぶたを交換して17年(実効運転時間)を経過したころに,この制御棒駆動装置のサーマルスリーブの損傷が見つかった。 伊方3号炉では、2017年10月3日から2018年2月20日までの期間で予定されている第14回定期検査で上ぶたの交換をおこなっているが 、日程がのびて、定期検査がまだ終了していないので,上ぶた交換を「実施中」としてある。

(上澤千尋)

 

■参考資料
第32回技術情報検討会,2018年06月20日,資料32-2-4,仏国プラントにおける制御棒駆動機構のサーマルスリーブ摩耗について(案),https://www.nsr.go.jp/data/000235612.pdf
Part 21 Report 2018-10-00, Potential Defects Related to Thermal Sleeves in the Control Rod Drive Mechanism Penetration Tubes, www.nrc.gov/docs/ML1814/ML18143B678.pdf