上関中間貯蔵施設計画は撤回されるべき

『原子力資料情報室通信』第595号(2024/1/1)より

1 計画案浮上と概要
 2023年8月2日に中国電力が同社の原発計画所有地内に中間貯蔵施設を建設する計画を上関町に提案した。反対者たちにもみくちゃにされながらも町役場に入った大瀬戸聡常務執行役員らが提出した案では、使用済み核燃料2000トン程度が貯蔵できる施設を関西電力と共同して建設したいというものだった。これは、原発の交付金が減少してきている現状から、上関町が新たな地域振興策を中国電力に求めたことに対する回答として提案されたものだ。
 上関町に対する交付金は重要電源等立地推進対策補助金として1984年から始まり、86年には電源立地地域温排水等対策補助金が加わり、さらに1996年からは要対策重要電源立地推進対策交付金が加わった(99年に制度変更により一本化)。2001年に電源開発基本計画に組み入れられて現在に至っている。1984年から35年間の平均は約2億円/年だった交付金は、ここ7年くらいは7800万円程度に減少している。
 20年続いた柏原重海前町長の時代には交付金に依存しない町づくりに取り組みつつあったが、2022年に原子力に強い関心を示す西哲夫氏が町長になるや事態が変わった。もっとも2019年ごろに日本原電東海第二発電所の中間貯蔵施設への町議の見学が行われたりもして、両睨み状態だったとも考えられる。

2 むつ市の使用済み核燃料の中間貯蔵施設
 使用済み核燃料の中間貯蔵はその後の目的によって政策的位置付けが異なってくる。日本は全量再処理政策に固執しているので、中間貯蔵は再処理されるまでの貯蔵となる。また、再処理しない国では最終処分までの貯蔵ということになる。
 そしてこの場合の貯蔵方法は乾式システムである。使用済み核燃料を輸送・貯蔵兼用の容器に入れて貯蔵する。また、原発敷地内で貯蔵する場合と敷地外での場合がある。前者は、福島第一、東海第二、浜岡、伊方、玄海などで実施または計画されている(表1)。

表1 敷地内中間貯蔵施設一覧

 

敷地外では青森県むつ市にリサイクル燃料貯蔵(株)が建設中のものがある。同社は東京電力と日本原電が共同で設立した会社で、両社の使用済み燃料が貯蔵される計画だ。
 むつ市の中間貯蔵施設は、主として、港湾施設、専用道路と専用車両、貯蔵建屋で構成される。輸送物の重量は110トンを超える。核物質防護の関係から施設周辺には厳重な柵が施され、監視装置で24時間365日不正侵入を監視している。
 最終的な貯蔵規模は5000トン・ウラン(tU)で、東電4000tUに対して日本原電が1000tUの割合である。施設は2棟で、現在、1棟3000tU(BWR2600tU ,PWR400tU)が完成しているが、燃料の搬入は実施されていない。
 2007年3月22日に原子力安全・保安院に提出された事業許可申請書によれば、燃料のタイプにもよるが、BWR 燃料69体が収納できる大型キャスクの場合の使用済み核燃料は原子炉取り出し後18年以上経過したものが入る。52体収納できる中型キャスクの場合には8年以上経過したものが入る。一方PWR 燃料26体を収納するキャスクでは15年以上経過したものが入ることになっている。収納容器数は288器。キャスク表面線量は2mSv/h、1m離れた位置で100μSv/hが制限値となっている。工事に要する資金の額を285億円としている。
 リサイクル燃料貯蔵(株)がむつ市に説明した資料などによれば、1棟目に関する建設費等は約1000億円、このうち輸送・貯蔵兼用容器費用が 7~8割、施設の建設費が2~3割としている。具体的な数値は明らかにされていない。現在は、新規制基準に基づく追加工事などが実施されており、施設の建設費は増加していると見て良い。
 使用済み核燃料の受け入れだが、上記の申請書によれば、年間300tUで、割合は上記に述べた260:40となっている。ただ、リサイクル燃料貯蔵(株)はBWR中型キャスクとPWRの貯蔵を取り下げていた。23年9月にPWRの貯蔵を再申請している。
 青森県、むつ市、東電、日本原電の4者による協定書(2005年10月19日)によれば、貯蔵期間は建屋の共用開始の日から50年となっている。50年後の搬出先は、全量再処理政策上、六ヶ所再処理工場に続く再処理工場になる。六ヶ所再処理工場の稼働年数は40年とされているからだ。次の再処理工場の建設がなければ搬出先がないことになる。貯蔵は長期に及ぶか各原発施設に返送されるかの対応が迫られる。協定によれば、その議論は40年貯蔵後に開始する。安全協定は搬入が具体化した段階で締結する予定とのことだ。なお、輸送開始は、早くても原子力規制委員会による柏崎刈羽原発の燃料輸送禁止措置の解除後になる。

3 背景としての核燃料サイクル破綻
 使用済み核燃料の乾式貯蔵がクローズアップされているのは、六ヶ所再処理工場の竣工が遅れているためだ。電力各社は同工場に使用済み核燃料を搬出することで、原発に付属する使用済み燃料プールが満杯になり原発の停止を余儀なくされることを避けようとしていた。ところが、同再処理工場は2008年にアクティブ試験で425tUの使用済み核燃料を再処理したまま、15年間停止した状態だ。建設が始まった93年から見れば実に30年経っても竣工できていない。日本原燃は24年上期の竣工を公表しているが、実際のところ、追加安全対策のための設計・工事認可に四苦八苦している状況で、竣工はさらに伸びることが確実視されている。
 通商産業省時代の1990年に使用済み燃料の貯蔵能力の拡大を2010年までに確保するように報告書をまとめて公表したが、電力各社は動かなかった。そこで経済産業省は2015年に使用済核燃料対策協議会を設置して対策を電力各社に求め、進捗を確認してきた。協議会の構成は電力9社と電気事業連合会、そして経産大臣と資源エネルギー庁長官、次長、電力・ガス事業部長である。現在までに6回ほど協議会が開催された。当初は燃料貯蔵プールのリラッキング(収納量を増やす対策)が主だったが、それが一定程度進んだ現在は、上記に見る乾式貯蔵へと向かいつつある。そうでもしないと原発の停止に追い込まれる恐れがあるからだ。
 むつ市に中間貯蔵施設が建設できたのは、同市の非常に厳しい財政状況もあるが、他方では原子力船「むつ」の廃船(1992年)が関係している。原子力船は船体を切断して中央部にあった原子炉を取り出し、海洋地球観測船「みらい」に改造されている。一方、原子炉は港に隣接する展示館に安置され、見学することができる。原子力船むつの港湾施設が中
間貯蔵施設のための港湾施設として活用されることになっている。

4 関電の切迫、福井県との約束
 とりわけ貯蔵スペースで逼迫しているのが関西電力である。特に高浜原発は数年で満杯になる(表 2)。

表2 使用済み核燃料貯蔵量(BWRは約25tU/年を消費する、一方PWRは約20tU/年。 島根は1基、高
浜は4基が稼働している)

 

 乾式貯蔵を採用したいところだが、福井県から県外搬出を求められている。同県は、1987年から4期16年勤めた栗田幸雄元知事の時代から使用済み核燃料の県外搬出を求めてきた。1998年に使用済み核燃料のリラッキングを認めてもらう条件で県外候補地を2000年までに選定することを約束、2015年には高浜3、4号の再稼働を条件に、2020年に県外搬出場所を確定させ2030年ごろに2000tU規模の施設を稼働させる計画をまとめている。さらに2017年には大飯3、4号の再稼働を条件に、2018年に具体的な計画地点を示すと強い決意を示した。しかし、搬出先の目処はつかず、18年を20年まで延期、21年には美浜3、高浜1、2号の再稼働の条件に23年末までに搬出先を確定させ、できなければこの3基の原発を止めると宣言した。
 この時には、併せてむつ市の中間貯蔵施設の共同利用を提案した。だが、内諾が得られていたわけではなかった。電気事業連合会や政府もむつ中間貯蔵施設の共同利用を後押ししたが、宮下宗一郎むつ市長(当時)がこれを拒否した。宮下氏はその後 23年6月に青森県知事となったことから関電の共同利用案は消えた。
 関電の迷走は続いている。同年6月に電気事業連合会はフランスのオラノ社と使用済みMOX 燃料の再処 理実証研究を行う方 針を発表した。関電のMOX 燃料10トンで実証研究を行う。オラノからは再処理に必要な190トンの使用済み核燃料を求められた。プルトニウムの臨界管理上、使用済みMOX燃料に使用済みウラン燃料を混合させなければならないからだ。関電は実証研究についてはJAEAと契約、再処理は使用済燃料再処理機構がオラノ社に委託するという複雑な実施体制になっている。再処理で回収されたプルトニウムはプルサーマル燃料となって関電に戻ってくる。福島原発後の流れからすれば、およそ不要な実証研究と言える。
 とはいえ、これで県外搬出の約束を果たしたと関電は胸を張った。しかし、福井県議会は冷ややかだ。2000t 規模の県外搬出がわずか10分の1の対応にすぎないからだ。
 次に出てきたのが、上関原発計画地に中間貯蔵施設を中国電力との共同開発案だ。共同開発と言っても中国電力側には使用済み核燃料の貯蔵能力に余裕があり差し迫っていない。また、将来的に島根原発敷地内に乾式貯蔵することが考えられ、この方が経済的にも合理性がある。仮に中間貯蔵施設を上関に作ると言っても10年以上かかるとしている。関電が福井県への説明資料として23年10月10日に公開したロードマップ(表3)は、絵に描いた餅と言える。なによりも六ヶ所再処理工場の竣工が現実的でないからだ。説明資料で注目すべき点は、「使用済燃料の中間貯蔵施設へのより円滑な搬出、さらに搬出までの間、電源を使用せずに安全性の高い方式で保管できるよう、発電所からの将来の搬出に備えて発電所構内に乾式貯蔵施設の設置を検討」としている点である。西村康稔経産大臣の後押しもあって、杉本達治福井県知事はこれらを了承した。

表3 関西電力 使用済み燃料対策ロードマップ

 

 ところで、この間、敷地内での乾式貯蔵を誘致する動きがあった。美浜町では2004年6月に山口治太郎前町長が中間貯蔵施設の誘致を提案、議会決議をおこなっている。立地が地域振興に寄与するとの考えだった。その後、20年12月に竹仲良広議長が04年決議を引き「サイト内で乾式貯蔵を推進していきたい」と述べている(毎日新聞20年12月18日付)。また、敦賀原発に近い同市西浦地区の区長会が中間貯蔵施設を誘致する意見書を20年12月には市や県に送っている(毎日新聞21年4月16日付)。こうした動きに対して福井県は県外搬出方針を変えていない。
 サイト内外を問わず、乾式貯蔵に対しては、反対の声が強い。それはこれまでの経過が示しているように、貯蔵容量の拡大が再稼働を進めるには必要不可欠な状況になってきているからだ。

5 上関の周辺地域の反応
 原発計画に反対して上関町を含む周辺2市4町の自治体議員らで作る議員連盟は、上関町だけが決める問題ではない、周辺自治体の意見も聞くべきだとして、それぞれの市町へ申し入れを実施し、また、それぞれの市町議会で質問を行った。以下、市町の反応をまとめた(同議員連盟の代表中川隆志氏の報告より)。
岩国市長:岩国市も含め地域住民の理解促進がないままに色々な手続きが進んでいくことが大きな不安を生んでいると思っている。 
柳井市長:上関町長には慎重さを求めた、国や電力事業者に説明を求めて徹底的な議論をしたい。
光市長:住民の声に耳を傾け安全安心の確保を念頭に注意深く見守る、これまで通り原子力施設に反対していく。
田布施町長:イメージが低下し移住定住が進まなくなる。現時点でメリットはない、国や中国電力からも具体的な説明がなく、近隣市町の首長は対応に苦慮している、安全性の議論が尽くされた上で地域活性化策が示されるべきであり順序が逆で非常に残念だ。
平生町長:将来にわたり町づくりに大きな影響があると危惧する、周辺自治体や住民にとっても深刻な問題で、子育てや移住定住・教育の施策に影響は避けられない。
周防大島町長:パブリックコメントやアンケートなどで広く意見を集め、町の意思としての形につなげたい。
 これらの不安に対して西上関町長は国や中国電力が説明すべきだ、とコメントしている。
 こうした周辺の動きが影響しているのか、中国電力は上関町からは調査のための森林伐採許可は得たものの、具体的な作業には入っていない。

6 終わりに
 政府の原発回帰政策は現在のところ新規立地を認めていない。新しい原発は建て替えでのみ認めている。中国電力は計画を白紙にしないものの建設や運用開始時期の記載を取りやめた。
 2009年には上関原発の設置許可申請が原子力安全・保安院(当時)に提出されたが、5回ほどの審査を経たところで、福島原発事故によって審査は中断したままである。その後の新規制基準の成立により、事実上申請書の出し直しとなっている。
 1982年に計画が浮上してから40年経過するも建設に入れないのは、反対しつづけてきた祝島の島民たちの運動の結果と言える。新たな中間貯蔵施設案にも強く反対している。町内や周辺自治体の動きをから、中国電力が計画をすすめていくことは容易ではないだろう。          

  (伴 英幸)

 

 

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