特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑦ 対馬市の調査受け入れ拒否から何も学ばない経産省とNUMO

『原子力資料情報室通信』第595号(2024/1/1)より

 12月11日に開催された第2回特定放射性廃棄物小委員会(以下、小委)では、長崎県対馬市による文献調査受け入れの拒否後、経済産業省が初めて、その検証を踏まえた新しい施策を提示した。当然それは議題となったので、後で言及したい。今回問題なのは、対馬市で起こったもう一つの重大な出来事が、経産省やNUMO(原子力発電環境整備機構)の資料にはまったく言及されていなかったことだ。
 委員である筆者の発言は、まずその指摘から始めた。対馬市では9月に、文献調査に反対する「核のごみと対馬を考える会」の代表が、NUMOの費用負担により、市議会議員に対して青森県六ヶ所再処理関連施設などの視察旅行を実施したことが市の政治倫理条例に違反しているとし、審査請求を行った。「政治活動に関し、企業団体等から、政治的又は道義的批判を受けるおそれのある寄附を受けない」という条例の規定に違反の疑いがあったからだ。
 その後、政治倫理審査会が10月から5回にわたり審議した結果報告書が12月4日に公開された。審査会は、NUMOによる施設見学の費用負担は財産上の利益供与に当たり、「NUMOの利益を図る関係性があるという懸念を生じさせる」とし「政治的または道義的批判を受けるおそれのある寄付にあたる」ので視察に参加した市議は条例違反と判断した。また、市議による施設見学への参加は、公権力とされる請願の議決権を有することを無視して判断することはできないため、政治活動であると判断した。
 審査会はさらに、政治資金規正法第21条第1項にある「その他の団体は、政党及び政治資金団体以外の者に対しては、政治活動に関する寄附をしてはならない」という規定に違反する疑念があると指摘した。つまり法令違反の疑いさえあるということだ。
 筆者は、施設見学の費用負担は財産上の利益の供与とNUMOが認識していたのか尋ねる一方、法令違反の疑いがあり、刑事告発を受ける可能性すらある視察旅行を、これからも継続するつもりなのか問い質した。また経産省には、NUMOに改善指導を行うつもりなのか聞いた。
 まず経産省は、最終処分政策の基本方針においても、国民の理解増進のために研究施設などを活用した学習機会の提供を積極的に実施することを規定しており、地層処分の理解が深まることは大事なことだと回答した。国民一般への理解促進と、請願の議決権を有する市議会議員を区別すべきというのが審査会の判断の根底にあるにもかかわらず、それを理解しない答弁は的外れとしか言いようがない。
 続いてNUMOも、賛否にかかわらず施設見学は実施しており、地層処分の理解促進に必要な事業なのでこれからも行うと回答した。さらに、条例違反との指摘は「残念」と述べた。反省や謝罪の言葉はなく、条例違反という判断も受け入れるつもりがないようだ。地域の法規範である条例を守ろうとしないNUMOと、どの自治体が共生したいだろうか?NUMOと経産省の無責任さが際立つ答弁だった。
 また、当日の資料にこの内容が記載されていなかったとはいえ、この重要な問題に関して、NUMOの責任を追及する委員が他に誰もいなかったことは非常に残念だった。地域社会との共生を大切にすることを経営理念に掲げるNUMOが、条例違反を指摘されても居直る姿を前にして厳しく批判できないようでは、審議会の存在意義が問われている。
 次の議題に移りたい。経産省は、対馬市の調査受け入れ拒否の検証を含め、文献調査に関する理解促進の妨げの要因を想定し、それに基づく新しい施策の方向性を発表した。妨げの要因として、経産省は、生活の場と最終処分事業が結びつかないわかりにくさを挙げ、その対策として文献調査の実施如何を問わず、勉強会や研究施設の視察による理解促進を打ち出した。また、地域の将来を議論する機会の少なさも阻害要因とみなし、地域の将来を議論・検討できる対話機会の創出や地域の発展ビジョンの具体化の支援を対策として掲げた。その際、文献調査の応募も一つの選択肢として考えてもらうという公算だ。要するに、「新しい」施策と言いながら、文献調査受け入れ地域で実施される「対話の場」を、調査受け入れの前段階から始めるのと大差ない。
 そもそも対話の場に対する不満を北海道寿都町の住民から聞いている筆者は、この新しくも何ともない施策に対する反論を行った。まず第一に、文献調査推進の阻害要因を検証し、改善したいのなら従来のやり方に反発をしてきた対馬市や寿都の反対住民の声を聞き、その要因を分析すべきだろう。反発する住民がいるから住民の合意形成が進まないのに、反対住民へのヒアリングなしになぜ要因が想定できるのか、批判した。
 そして筆者自身が反対住民からよく聞く意見を紹介した。それは、交付金で応募を誘導するような金銭的便益中心の政策ばかり考案する経産省への大きな不信と、そのような政策によって誘発される地域の分断に対する怒りだ。つまり、経産省の考えとは真逆の発想がそこにはある。
 反対住民は生活の場と最終処分事業が結びつかないのではなく、むしろ直結したイメージを持っている。交付金と結びついた最終処分事業の推進によって、第一次産業が悪影響を受け、地域のコミュニティの絆が傷付き、平穏な日常が脅かされることへの大きな懸念を持っている。生活の場そのものを守りたいから反対するのだ。また、地域の将来を議論する機会の少なさに不満などはなく、むしろNUMOが交付金を足掛かりにし、町づくりに介入して住民を懐柔しようとすることに対する警戒が強い。
 したがって、多くの地域住民は、経産省がより前の段階から交付金で住民を誘導しようとしているだけで、相変わらず地域の分断を引き起こそうとしていると冷ややかな反応をするだろうと指摘した。そして即刻、「新しい」施策を撤回し、まずは真摯に反対住民の声に耳を傾けるべきだと主張した。
 経産省は、勉強会や対話の機会に入ることで交付金が出るわけではなく、そういう場を作るのにかかる費用を経産省が支出すると回答した。勉強会参加に交付金が出るかを問題にしているのではなく、交付金という金銭的便益中心の政策構造それ自体が変わっていないことを批判しているにもかかわらず、再び的外れな答弁に終始した。
 しかし、このピントのずれた施策について、他の多くの委員はその方向性に同意すると表明した。勉強会や対話の機会に関して、誰がどういう目的でどのように企画・運営するかなどをもっと明確にするような要求が出るだけだった。それに対して経産省も、「施策がどうしたらよくなるかという工夫に関する意見をいろいろ頂いた。しっかり受け止め、ブラッシュアップしていきたい」と言い、今後方向性を具体化する意思を示した。反対住民の意見や懸念をまったく聞かずに作ったでたらめの施策を撤回させるべく、どんな具体案が出てくるか市民社会は鋭意注意し、対応の準備を進める必要がある。
 最後に、文献調査が進む北海道寿都町と神恵内村で進行している対話の場の総括の進め方について、再び議題に上がったので簡単に触れたい。筆者は、NUMOによる住民の聞き取りだけではなく、小委の委員が対話の場の設計や運営に関わったNUMO職員への意見聴取もすることを要求した。ファシリテーターの選定過程や基準はどうだったのかについての分析、寿都の対話の場で文献調査に反対するメンバーの要求がほぼ無視された事実についての解明など、対話の場の運営過程を全般的に検証する必要があるからだ。NUMOはまずは住民からの意見を聞いた後、いろいろな論点が出てくる中で対応したいと返答するに留めた。要求実現に向けて努力したい。

(高野 聡)

 

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