【トリチウム公聴会】発言者のほぼ全員が反対! トリチウム等汚染水の海洋放出

【トリチウム公聴会】発言者のほぼ全員が反対! トリチウム等汚染水の海洋放出

福島第一原発でタンクに貯蔵されている処理水の放出をめぐる公聴会に出て発言してきました。具体的には放射能を多量に含む水を多核種除去設備などで処理した後に残るトリチウムを薄めて海へ捨てようという計画に対する公聴会です。主催は経済産業省で、計画を審議しているのは「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」。同小委員会は汚染水処理対策委員会の下に設置された4つの審議会の1つです。

www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku.html

公聴会は8月30日と31日に福島県の富岡会場、郡山会場、そして東京都内で開催されました。3会場での発言者は合計44人。海へ捨てることに合意したのは2名のみ(うち1名は条件付き合意)。他は全て反対の立場からの発言でした。その内容を大まかに纏めると、漁業へのダメージ、トリチウムの危険性、他の放射能が含まれていることから前提が崩れていることなどの指摘、他の選択肢の提案などです。別途意見募集も行っているので、最終的に寄せられた意見による賛否が分かりませんが、公聴会でこれだけ反対の意見が出て、また、小委員会として海洋投棄を決めていないとの山本座長の発言もあり、小委員会の今後の対応に注目していく必要があります。各会場の発言者の要旨と動画は下記アドレスにあります。

www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/setsumei-kochokai.html

ところで、公聴会のなかで出たことですが、原子力規制委員会が海洋投棄を強く迫っているのです。東京電力や経産省に海洋投棄を迫ることは規制委員会の本分を超えた行為ではないかと考えます。

筆者は東京会場に出て発言しました。基本的なスタンスを述べた後、ロンドン条約の主旨に反する、炉規法違反になる、どのような放射能がどれだけあるかを調査してトリチウム以外を取り除くべき、トリチウムの危険性、そして分離技術を実用化して固化すべき、などを与えられた5分程度にまとめました。

トリチウムの危険性を軽く見すぎている点は問題です。トリチウム水(HTO)が生物によって(人間も含む)有機結合型トリチウム(OBT)に変化しうること、一部はDNAに取り込まれることになります。そうなると食物連鎖を通して濃縮する可能性がでてきます。食物を通してOBTを取り込むと、人体に留まる期間はいっそう長くなり、影響もより大きくなります。また、トリチウムの放射線(ベータ線)はエネルギーが低いですが、水中での飛距離は最大でも6ミクロン程度(平均ではその10分の1程度)で、そのわずかな飛距離の中で全てのエネルギーを放出するので、局所的には大きなダメージを与えることになることが指摘されています。また、放射線をだしてヘリウムに壊変するので、もはや分子の結合を維持することができません。これらはトリチウムによる影響はほとんどないとする従来の見解への批判です。

ところで、当室に寄せられたティム・ディアジョーンズさんの論考はOBTが生物濃縮することを示していますが、HTOが環境中でOBTとなり生物濃縮したと単純に受け取ることはできません。ティムさんの論文には研究所から直接OBTの形で投棄された場合にも言及されているからです。その結果として非常に高い生物濃縮率になった可能性があります。HTOの一部が環境中でOBTに変化することは間違いのないことで、OBTの直接の放出は、環境中で緩やかに起きる現象を早送りした様子と見ることもできます。

イギリス政府とスコットランド環境保護庁が公表している食品と環境の放射性物質に関するデータやサウサンプトン大学の有機結合型トリチウムに関する調査研究報告も参考になると思います。

www.cefas.co.uk/publications/rife/rife5.pdf

eprints.soton.ac.uk/41353/1/Morris_JE_2006_PhD.pdf

(伴英幸)

2018年8月31日「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会」東京会場(イイノホール)