汚染水の処理方法に関する意見公募に応募しよう(応募期限:再々延長2020年7月31日)

福島第一原発で発生している汚染水が海洋放出(または大気放出)されようとしています。経産省は4月7日と13日に福島県で主だった団体代表らから意見聴取を行い、また、一般からの意見募集も行い、本命の海洋放出への道筋をつけようとしています。意見募集は、再々延長されて7月31日までです。 直前ですが、是非、みなさんの海洋放出に(反)対する意見をお寄せください。

原子力資料情報室は汚染水の放出にこれまで反対してきました。その理由は

  1. 放射性物質を拡散するべきではない
  2. 近海の漁業への打撃がいっそう深刻になり、長期におよぶ
  3. 放射性物質であるトリチウムが取り除けていないばかりか、ストロンチウムやセシウムなどの他の62核種も完全には取り除けないので、海洋の放射能汚染をもたらす
  4. 貯蔵を継続するための敷地の確保しつつ、固化により放出しなくてすむ方法を追及するべき

などです。

意見募集は経済産業省ウェブサイトにある「書面による御意見の募集について」をご覧下さい。


原子力資料情報室が提出した意見

処分方法

風評対策

その他

 


 

溜まり続ける汚染水

 汚染水とは、1〜3号機の溶融燃料を冷却するために、水をかけ続けていることに加えて、地下水が建屋内に流入していることから発生するもので、多核種除去装置などを通して多くの放射性物質を除去した後に残ったものである。これを汚染水と記述するのは、これらの除去装置を使っても、そもそも取り除けないトリチウムが残っている上に、セシウムやストロンチウムなどの他の核種も基準を超えて含まれていることが明らかになっているからである。

 汚染水はタンクに貯蔵されているが、その量は現在120万トンほどに達する。経済産業省と東電は汚染水を海に希釈放出をすすめるための合意形成に躍起となっているが、貯蔵されている汚染水の80%ほどが放射性物質の放出基準を超えている。東電は希釈放出する場合には、ふたたび多核種除去設備を通して放射性物質を取り除くとしている。これほど汚染されているのは、システム運用上の問題で、東電は水処理を急ぐために設備のフィルターの交換頻度を下げたからだ。結果として再度の除去作業が必要となり二度手間となった。しっかりと検討していればこのような事態は見えていたのだろうが、目先の作業を優先させたからに違いない。

 東電は22年までに137万トンの貯蔵能力を確保するとして、現在、タンクの増設を行なっている。そして、それ以上の敷地の確保ができないとして、希釈放出を強行しようとしているのだ。

 希釈放出には福島の漁業団体が自分たちの死活問題だとして強行に反対している。事故から9年が経過したが未だに試験操業の状態だ。漁師たちは魚を獲るが放射能汚染測定を実施するのみで市場へ出荷することができないでいる。ここでさらに汚染水が放出されれば、たとえ基準以下に希釈されていたとしても、本来の漁業に戻れなくなってしまうだろう。

 経産省は、トリチウム水タスクフォース(山本一良主査)を設置、16年8月の取り纏めでは5つの選択肢を提示した。それによれば、海洋放出がコストも安く、短期間で処理できるとした。これに続いて同年11月に風評被害なども考慮するために「多核種除去設備処理水の取扱に関する小委員会」(山本一良委員長。以下、ALPS小委)を設置して検討を続けてきた。同小委が18年8月末に福島県2カ所と東京で開催した公聴会では、合計44人の発言者中、利害関係者2名以外全てが海洋放出に反対し、陸上での貯蔵の継続を訴えた。これを受けてALPS小委は貯蔵継続を選択肢に加えざるを得なくなったが、それはあくまでも、形式的なものでしかなかった。陸上保管に関する検討内容はネガティブな側面ばかりで、明らかに結論を希釈放出に誘導しようとしていた。

 19年12月23日に開催された第16回同小委で、東電が提出した資料によれば、海洋放出開始時期を2020年から5年ごとに4パターンを設定し、年間トリチウム放出量を22兆ベクレル(Bq)、50兆Bq、100兆Bqと置いて評価した[i]。しかし、その技術的な成立性の詳細は上記の中での方針が決まってから詰めるという。

 被ばく線量は非常に少ないと評価しているが、委員の中からは、塩分濃度や水温などが海水と一致しなければ、表面を流れ、十分に混合されないと言った指摘がなされていた。さらに、報告書案には風評被害についてほとんど触れておらず、委員から厳しい風評被害が起こることを明記するべきとの意見も相次いだ。風評被害では国内の問題として捉えられがちだが、輸入禁止措置の継続あるいは強化など国際的にも影響が出てくるだろう。

 原子力市民委員会は地上での貯蔵継続と汚染水の固化を主張してきており、20年1月22日には院内集会を開催して、貯蔵継続を訴えた。地元福島の市民団体も同趣旨の申し入れを行なった。

 経産省は1月31日にALPS小委を開催し、海洋放出か大気放出かその組み合わせが現実的だとする報告書案が承認された。細かい点は委員長一任である。

 希釈放出には委員の中にも抵抗があるようで、経産省は、最終判断は経産大臣が行なう、ALPS小委は専門的見地からの検討を行って報告書をまとめるタスクだと姑息にも強調している。もともと委員会とはそういう性格のものだ。そして報告書がまとまるや専門家委員会で決定されたことをお墨付きとして利用するに違いない。

 東電は漁業者が反対する限り放出はしないと明言していたが、希釈放出が方針となった。委員からは政府に地元の理解を十分に取るよう求める意見が強く出ていた。経産省は協議会の設置などに言及していたが、31日のALPS小委ではそれも消えていた。上記の報告書案には風評被害に言及しているがしかし、現に強い反対があるにもかかわらず放出案をまとめたことは、補償問題にすり替えられてしまう恐れがある。

 委員長一任の承認の後、経産省は2月10日にALPS小委の報告書を公表した。そしてこの報告を受けて、東電は3月24日に『当社の検討素案』を公表した。この中で汚染水総量を119万立方メートル、トリチウム総量を860兆ベクレルとして、放出結果を図示している。そして「バックグラウンドレベル(0.1~1ベクレル/㍑)を超えるエリアは、発電所近傍に限られ、WHO飲料水基準(10,000ベクレル/㍑)と比較しても十分小さい」としている。

 果たして、計算通りに拡散して行くかも怪しい。貯蔵していたトリチウム水を大量に放出する場合には、半減期12.3年のトリチウムが環境中で生物濃縮する可能性も完全には否定できない。さらに2次処理を行いトリチウム以外の放射性物質を基準以下に取り除くというが、それでも完全には除くことができず、ストロンチウムやセシウムなどの放射性物質が環境に放出されることになる。貯蔵や固化という方法があるにもかかわらず、汚染水を放出することは許されない。

 風評被害(実害というべき)については、農林水産物の販売拡大を中心として取り組みを積極的に推進する、それでも「風評被害が発生する場合には適切に賠償対応する」としている。しかし、既存の賠償でも拒否による裁判事例が多発している。東電のこうした不誠実をみれば、賠償に対する姿勢は疑わざるを得ない。弱者にしわ寄せがいく結果になるのではないか。

敷地はほんとうにないのか? 

 東電と経産省が希釈放出に拘る理由は敷地の狭さからだ。しかし、敷地の確保ができないことはない。原子力市民委員会が提唱している大型タンクの設置もその方法だ。また、初期に東電が使用していたようにメガフロートによる貯蔵も可能だ。さらに、東電の敷地に隣接する中間貯蔵施設の一角を使用することも可能である。この場合にはそれなりの手続きが必要になるが、不可能ではない。

 それらの敷地確保方策を採用しないのは、中長期ロードマップで2051年までには廃止措置を完了させるとしているからではないか。燃料デブリの取出しは順調に進むとはとうてい考えられないが、仮に進むとすれば、強烈な放射線を遮蔽するために、それなりに大きな建屋と広い敷地が必要になる。その場所を確保したいがために、貯蔵のための敷地がないと主張しているのだ。40年廃炉という硬直した計画が、人びとが求めている貯蔵継続という選択肢を排除していると言える。

 全体の計画を見直して行けば、貯蔵の継続が可能になる。その上で、汚染水のコンクリート固化(タンク内での固化もしくは固化して地下埋設するなど)の対策が可能となるはずだ。貯蔵期間中にトリチウムの分離技術の開発をすすめ、実用化することも可能である。むしろこうした対応の方が漁民たちの合意が得られ社会的影響が最小化できる。

根源に凍土遮水壁問題

 遮水凍土壁はきちんと機能しているのだろうか? 導入計画時点では完全に遮水できると宣伝していたが、その後、汚染水増加量を抑制すると変更。運用開始時点では日量50トン程度まで増加量を減少させると表明していたが、現状は170トンベース、2025年には100トンベースに減少させると新たな(?)目標を設定している。ロードマップ進捗状況として東電が報告している資料をみると、雨の多い時期に増加量が増えている。昨年の台風15号、19号の時期にはおよそ500トン/日に増加した。この増加量は凍土壁内に降った雨による増加もあるが、それだけで説明するには量が多すぎ、凍土壁が一部決壊していると考えられる。

 燃料デブリの温度は数十℃程度で高くはなく、空冷化も可能な状況になっている。このためには、建屋に浸入する地下水と建屋内の汚染水のバランスを取りながら、ともに減らしていく必要があるが、それが可能となるのは、浸入する地下水が完全に管理できていることが必要となる。事故直後に粘土による地下水の遮断が検討されたが、これが排除され、実証されていない凍土壁が採用されたのは、東電に負担させず国の技術開発費に負担させるためだった。そもそも、この東電救済策が汚染水をめぐる今日の困難を招いているのだ。

 伴英幸

(『アジェンダ−未来への課題』第68号(2020年春号)へ執筆したものをベースにアップデートしたものです)


[i] 東電発表資料https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/016_03_01.pdf

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