【原子力資料情報室声明】すべての原発は今すぐ工事を中断し、稼働を停止せよ

すべての原発は今すぐ工事を中断し、稼働を停止せよ

2020年4月20日

NPO法人原子力資料情報室

原子力発電所に危機が迫っている。言うまでもない、新型コロナウィルス(COVID-19)の問題だ。すでに、九州電力玄海原発の特定重大事故対処施設、いわゆる対テロ施設の建設工事関係者や、東京電力柏崎刈羽原発に勤務する東京電力社員からCOVID-19感染者が見つかっている。

原子力発電所は規模にもよるが、通常運転時で1000人規模、定期点検や工事の際には、さらに1000人単位の人々が追加で働いている場所だ。特に定期点検や工事には日本全国から人員が集められている。

特に気になるところは、いまだに継続されている原子力発電所の運転だ。いわゆる3密の環境である中央制御室で感染者が発生すれば、当該シフトの職員は全員が濃厚接触者となる。場合によっては引き継ぎなどで前後のシフトの職員にも濃厚接触が発生する可能性もある。原発によって異なるが、通常5班2交替もしくは3交替でシフトは組まれている。1班減少するだけでも、大きな影響が想定される。前後2班も該当するなら、もはや通常の運転は不可能となるだろう。通常の発電所であればまだしも、原発は福島第一原発事故でよく知られた通り、停止すればそれでよいというものではない。その後も安定的に冷却しなければ、崩壊熱により、甚大な被害を引き起こしかねないシステムであるからだ。つまり、勤務者に感染者が発生してから止めればよいというものではない。

さらに、COVID-19の感染が拡大している状況下で重大事故が発生した場合に想定される問題もある。たとえば、避難には、避難用のバス、避難所など、あらゆる場面で3密の環境が発生する。また各地で医療崩壊が叫ばれるほど、医療体制はCOVID-19により過重な負荷がかかっている。すでに政府はCOVID-19対策で忙殺されている。この状況下で重大事故が発生すれば、もはや対処は不可能だろう。そして、COVID-19対策は短期ですむ問題ではなく、ワクチンが開発されるまで長期にわたって継続する。

原子力事業者は、「安全文化」(組織と個人が安全を最優先する風土や気風[i])を掲げて活動している。原子力規制委員会は「原子力安全文化に関する宣言」を決定し、この中で、「100%の安全はない、重大な事故は起こり得るとの透徹した認識のもと『人と環境を守る』ため、安全が常に最優先されなければならない[ii]」と宣言している。であるならば、原子力事業者は、率先して、COVID-19問題に対処すべきだ。サイトへの立ち入りを制限するといった程度で済む問題ではない。最低限、現在サイトで実施している工事は停止すべきだ。定期点検中の原発については、定期点検自体もいったん中断して、サイト要員を最低限に減らすべきだ。また、重大事故発生時の対応が現実的に不可能な状況なのだから、運転自体も停止してリスクを低減するべきだ。原発事故は起きてからでは遅いのだから。

以上


[i] www.fepc.or.jp/nuclear/safety/ikusei/anzenbunka/

[ii] www.nsr.go.jp/data/000108960.pdf

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