【原子力資料情報室声明】六ヶ所再処理工場の「審査書案」承認は撤回し、国は核燃料サイクル政策を根本から見直すべきだ
六ヶ所再処理工場の「審査書案」承認は撤回し、国は核燃料サイクル政策を根本から見直すべきだ
2020年5月13日
NPO法人原子力資料情報室
2020年5月13日、原子力規制委員会は、青森県六ヶ所村にある日本原燃の六ヶ所再処理工場が新規制基準に適合しているとする「審査書案」を了承した。COVID-19感染拡大という状況下でこのような決定をおこなったことは極めて遺憾である。
六ヶ所再処理工場は稼働すれば、最大年間800トンの使用済み燃料を処理し、7~8トンのプルトニウム(約1000発分の核弾頭に相当)を分離、一方で通常運転においても大量の放射性物質を気体や液体として放出する、きわめて問題の多い工場である。
1950年代、原子力時代の幕開けにおいては、再処理工場と高速増殖炉こそが未来のエネルギーだとみられていた。しかし、再処理に存在意義がないことは数十年も前に明らかとなっている。高速増殖炉の開発に失敗し、再処理工場も、ウラン資源が当初想定されていたよりもはるかに豊富にあることが分かったことで、プルトニウムを燃料として期待する必要もなくなったからだ。もはや再処理に経済的な存在意義は存在しない。さらに、再処理技術の拡散は核拡散につながることがインドの核実験などであきらかとなった。
日本政府は2018年、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」を決定した。主に、プルサーマルによりプルトニウム保有量を削減すること、プルサーマルの実施に必要な量だけ再処理することで、プルトニウム保有量を減少させる方針を示したものである。日本の保有プルトニウムが増加の一途をたどる中で、国内外の疑念の声を受けての対応だった (2018年末時点で46.3トンを国内外に保有) 。しかし、その頼みの綱のプルサーマル計画についても、当初2010年に16~18基で実施するとしていた見込みを大幅に下回っている。東電福島第一原発事故後に再稼働した原発でプルサーマルをおこなっているのは4基のみ、プルトニウム消費量も2トン程度である。一方で、日本原燃が提出した稼働計画によれば、六ヶ所再処理工場の使用済み燃料再処理量は数年後には上限である800トンとなり、その後は、800トンで運転することとしている。
さらに六ヶ所再処理工場は通常運転で、大量の放射性物質を海や大気に放出する。その量は、通常の原発で放出される量をはるかに上回る。被ばく線量が年間1ミリシーベルトを大きく下回るというが、例えば希ガスのクリプトン-85は、炉心溶融を起こしたスリーマイル島原発事故での放出量された希ガスの約2倍を1年で放出する。トリチウムについていえば、54基が稼働していたころの日本の海洋への年間トリチウム放出量の10倍である。仮に重大事故が発生すれば、その放出量は通常の原発事故をはるかに上回る恐れもある。
東京電力福島第一原発事故によりALPS処理汚染水が現在サイト内に大量に保管されており、この取り扱いについて、6年以上、国の審議会で議論がおこなわれ、公聴会も複数回開催されてきた。一方で、福島第一原発で保管されているトリチウムのおよそ10倍ものトリチウムを毎年放出することになる六ヶ所再処理工場については、そのような議論は一切なされておらず、きわめて不平等な状況が続いている。
核燃料サイクル政策は、六ヶ所再処理工場の総事業費が13.9兆円、同じ六ヶ所村で建設されているMOX燃料工場分も含めれば16兆円を優に超える。政府はさらに第二再処理工場についても建設することとしており、この分の費用も含めれば、総額では30兆円を超える巨大な計画である。本来、六ヶ所再処理工場の建設・稼働についてはこれを進める前に、多くのステークホルダーを集めた包括的で丁寧な議論がおこなわれてくるべきだった。しかし、この間、国策であるというただ一点で議論が進んできた。そして、この費用は電気料金として電力消費者から徴収され、放出される放射性物質によって周辺住民が被害を被るうえ、戦争被爆国日本が核兵器の原材料となるプルトニウムを利用することで、核拡散リスクを増やすことにもつながる。
原子力規制委員会は、六ヶ所再処理工場の放射線管理目標値を認めるのであれば、少なくとも、放射性物質の海洋・大気放出に関して福島第一原発で実施しているのと同程度の議論を多様なステークホルダーを交えておこなうべきだ。また、稼働計画を承認するのであれば、プルトニウムの分離量に応じた具体的な消費計画を提出させるべきだ。それがないままこの計画を承認するのであれば、政府の定めた方針と齟齬が生じ、国内外からの疑念も払拭できない。
また、国は、もはや核燃料サイクルが破たんしたことを受け入れ撤退するべきである。再処理計画の延命措置は全く不要なコストを国民に負担させるだけでなく、稼働によって不必要な放射性物質の放出を招き、さらに分離プルトニウムの消費という課題も招く。
以上