福島県外の汚染土壌の埋設処分問題 栃木県那須町での事例

『原子力資料情報室通信』第533号(2018/11/1) より

福島県外の汚染土壌の埋設処分問題 栃木県那須町での事例

前号で触れた福島県外の除去土壌(除染で発生した土壌)の埋立て実証事業について報告する。県内の除去土壌の実証は再生利用という位置づけで行われている、あるいは行われようとしているのに対して、福島県外の除去土壌については、埋立て処分の実証事業が行われる計画だ。埋立て処分に伴う作業員や周辺環境への影響などを確認し、その結果を踏まえて施行規則をつくることが実証事業の目的である。
福島原発事故による放出放射能で汚染された土壌や草木等は、避難指示区域については帰還困難区域を除いて国の責任で除染作業が行われたが、それ以外の地域については各自治体が国に申請を行い実施した。除染基準は空間線量率で0.23μSv以上の区域である。福島県内の除染土壌は量の多さから、8000Bq/kg以下は全国の公共事業などでも使用する計画だが、県外の汚染廃棄物は各県で保管や処分を行うことになっている。
環境省の資料 によれば、岩手、宮城、栃木、茨城、群馬、埼玉、千葉の7県の除去土壌の保管量は333,329m3である。放射能量は平均値としてセシウムで2500Bq /kgと評価されている。しかし、これはあくまでも平均であって、環境省の「除去土壌の処分に関する検討チーム」(甲斐倫明座長) によれば、中には1万ベクレルを超えるものもあったと報告されている(第2回議事録)。環境省は2017年9月に除染廃棄物を抱える県外の自治体に対してアンケートを実施して、埋立て実証事業への協力を呼びかけた。その結果、茨城県東海村と栃木県那須町から協力の返答があったとのことである。この2件が県外での実証事業と位置づけられている。実証事業の内容は保管管理中の8000Bq/kg以下の除去土壌を埋立て処分するものである。

那須町での実証事業
栃木県での除去土壌の現場保管は23,993カ所、110,046m3である。ほとんどがこの状態で、仮置き場での保管は1%にも満たない。このうち那須町での現場保管は8,572カ所23,328m3と那須塩原町に続いて多い。そして現場保管の98%は地下保管、すなわちフレコンバッグに入れて埋めてある。
実証事業は那須町伊王野地区の山村広場において行われる。420m3の除染廃棄物のうち除去土壌350
m3分を掘り出して同広場内に埋め立てる計画だ。残り70m3は草木などの除染廃棄物で実証事業の対象外で、再び敷地内で地下保管となる。
除去土壌を埋設後、上部は30cmの盛り土がされる。下部は遮水シートが敷かれ、浸透水は集められモニタされた後に排水される。もとの計画では遮水シートはなかった。セシウムは土壌に吸着されているので、水による浸透はほとんどないとの想定からであるが、この計画が問題視されてから変更された。水はいったん貯水槽に集められ放射能量が測定される。吸着槽を通った放流直前のデータは測定しないまま放流する(図)。セシウムの浸出はほとんどないことを前提にしている点は問題である。
浸透水中にセシウム137が90Bq/ 以上検出されたなら事業を継続することはできないと、9月16日に衆議院議院会館内で行われたヒアリングで環境省は答えている。放流水は三蔵川に流れ込んでいる。また、台風や大雨の場合の対応としては、上部にビニールシートをかけると回答している。埋立て終了後には人は不在になるので、即応は困難だ。
住民説明会が行われた今年6月時点での予定では、同月に実証事業を発注し、7~8月に工事に着手、9月埋め立て工事完了、冬頃にこの事業の中間取り纏めを行うとなっていた。9月時点では、計画が2ヶ月ほど後送りになっていて、11月中旬に工事が完了し、モニタリングは19年4月以降も継続すると変更している。
実証で確認することは作業員の被ばく、空間線量率(作業中1日1回)、大気中の放射能濃度(週ごと、埋立後は1ヶ月1回)、浸透水の放射能測定(週に1度)などである。また、運び込む土壌の放射能量はサンプリングにより確認される。10袋ごとに1袋から10試料を採取する。上述した局所的に大きな濃度のものがあることを考えると、全量検査が求められる。実証事業であるのだから、そうすべきだが、環境省はそうした丁寧な対応は考えていない。
フレコンバッグ状態で土中に埋められているのと、それを外して埋めるのとは同じようなことであるが、法的な位置付けは保管状態から管理を伴う処分状態への移行である。管理を伴うの意味は施設の周りを柵で囲い、モニタリングを行うことである。管理期間が終了したのちには処分場の廃止となり、一般開放への道が開かれることになる。環境省は管理期間がいつ終了するか、また、その後についても何も決まっていないという。

埋立て処分概念図

住民不在の実証事業

那須町では町内の除染廃棄物を将来的には1カ所の仮置場に集約する方針だ。従って、埋設処分して管理終了とすることはできない。この事業に応募した理由も、町議会での説明では、一箇所の仮置場に除染廃棄物を集めて保管するための安心・安全の確保である。安全で安心だとわかれば、仮置場も見つけやすいとの判断であろう。
上述の「除去土壌の処分に関する検討チーム」によれば、「実際に実証事業を行って、住民における説明ですとか、また、安全性の確保について確認をするという工程が必要かと思っております」(吉田参事官補佐、第1回議事録より)。同省の考えは住民の事前同意ではなく、結果の説明による理解活動である。他方、17年12月19日の第2回会合の議事録には、周辺住民の理解が一番重要だとの委員の発言に「実証事業を始めるに当たりましても、地域住民の理解というのは非常に重要だと思っております」と吉田参事官補佐が答えている。しかしその実態は、住民の理解を得る努力とはとうてい言えないものだった。
那須町で進めた合意手続きは、まず町の災害対策協議会で計画を説明し、次に自治会長を通して自治会役員間で受け入れを決め、地区住民へは回覧板で周知した。その後、このことが新聞に報道されたことから、改めて地区住民165戸に計画概要を全戸配布した。これが合意手続きの現実だった。
こうした合意の取り方が18年3月5日の町議会で議員から問題だと指摘され、佐藤英樹環境課長は今後の対応として、環境省による説明会を、町民全員を対象に開催するように調整していると答弁した。環境省による住民説明会がようやく開催されたのは6月8日だった。そして、町のホームページでも公表された。また、9月16日には作業説明会が環境省により実施されている。
しかし、これらはあくまでも説明会であり、住民の意見を聴くものではない。住民側は環境省に対して直接に住民の声を聴く公聴会の開催を求めている。
(伴英幸)