「放射線のホント」と「放射線副読本」

「放射線のホント」と「放射線副読本」

復興庁「放射線のホント」

復興庁は、パンフレット「放射線のホント」(A5判・30ページ)※1を作成し、2018年3月から公表・配布している。関係省庁、PTA大会(佐賀・新潟)、福島県内外イベント、その他イベントなどで、2万2千部が配布された(2018年11月現在)。福島原発事故の「復興推進」が目的の“安全キャンペーン”だ。
例えば、「(福島第一原発事故で)健康に影響が出たとは証明されていません」、「放射線による多数の甲状腺がんの発生を福島県では考える必要はない、と評価されています」、「福島県の主要都市の放射線量は低下」し、「ふるさとに帰った人たちにも日常の暮らしが戻りつつあります」と一面的だ。
2018年7月と12月におこなった政府交渉では、特に大きな間違いが3ヵ所指摘された。1つは、「(放射線の影響は)遺伝しません」という記述だ。環境省の「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版)」※2では、「国際放射線防護委員会(ICRP)では、1グレイ当たりの遺伝性影響のリスクは0.2%と見積もっています」と書かれている。「遺伝しません」と断定するのは間違いだ。
2つめは、セシウム134・137についての「食品中の放射性物質に関する基準」の表(下)だ。日本の食品基準値は「平常」時の値だが、EU、アメリカ、コーデックスの基準値は「緊急時」の値となっている。比較できない違う状況の値を比べて「世界で最も厳しいレベルの基準を設定」と記述している。実際には、飲料水の平時の基準値はEU8.7ベクレル/kg、アメリカ4.2ベクレル/kg、コーデックスは基準なしとなっている。これについて厚労省、消費者庁、復興庁は誤りを認めたものの、現在のところ訂正はしていない。

3つめは、「100~200ミリシーベルトの被ばくでの発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取りすぎと同じくらいです」という記述だ。野菜不足など生活習慣によるがんのリスクは、元のデータを提供した国立がん研究センター自体が、野菜とがんの関連は見られなかったと2008年に発表している※3。にもかかわらず、このような比較を載せていることは、被ばくリスクをことさら小さく見せようとする意図的な不正行為と言わざるを得ない。
誰のためのパンフレットなのか。復興庁は、福島以外の地域の人に向けて、「いわれのない偏見や差別という誤解を解くための、一般の人向けのパンフレット」と回答した。復興庁は、「放射線防護の必要性は否定しないが、放射線防護は厚労省の担当で、復興庁はその立場ではない」と極めて無責任な対応だった。
復興庁はこうした間違いが指摘されているにもかかわらず、「安全性は十分担保されている」、「ウソや科学的ではないことを書いているつもりはない」としてパンフレットの撤回を拒否した。
「放射線のホント」は、「人々を苦しめているのは放射線ではなく知識不足からくる思い込みや誤解」、「科学的知識の不足が風評被害の原因」との認識から「風評払拭」を狙っているのだが、間違った「知識」を与えようとしている。国や東電による原発事故の責任や、被災者が置かれている苦しい生活環境については一切触れられていない点も大きな問題であろう。「“放射線のウソ”」というべき内容で、ただちに撤回すべきだ。

 

文科省「放射線副読本」 

文部科学省は、「放射線副読本」(A4版・22ページ)※4の再改訂版を2018年10月に公表した。初版は2011年で、文科省研究開発局の予算約2億円で作成され、福島事故後に全国の小中高校や公民館に配布された。2014年版では、福島原発事故と被害についての項目から始まっていたものが、再改訂版では、初版同様に「放射線は、私たちの身の回りに日常的に存在しており」という記述から始まっている。
第1章の「放射線、放射性物質、放射能とは」の中で、例えば放射線は医療などに役立つ、健康影響は放射線の有無ではなく量が関係していると記述。そして100ミリシーベルト未満の被ばくでは“相対リスクの検出困難”とする表を掲載している。低線量の被ばくでは健康影響がないとの誤った解釈に引き込むものになっている。しかし、放射線被ばくの影響には「しきい値」がないことが広島・長崎の調査でも支持されている。従って、放射線に対する姿勢は、被ばくには必ず発がんリスクが伴うことを明記するところから出発すべきだ。
第2章「原子力発電所の事故と復興のあゆみ」では、原発事故後7年で福島県内の空間線量が減少したことのみを述べているが、周辺県含めて汚染地域では今も事故前より線量が高いこと、除染されていない山林や、高線量のホットスポットの存在などは無視されている。帰還して暮らす住民の被ばくが今後長期にわたることなども述べていない。「地域の復興・再生に向けて」前向きな取組だけが紹介されているが、その反面、避難指示解除後も、子どもや若い人がほとんど帰還しておらず、高齢者の割合が高いなどの現実は無視されている。
福島出身の子が学校でいじめられるのは、「根拠のない思い込みから生じる風評」が原因といいながら安全を強調しても、「風評」は払拭されないだろう。

 

「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」

「放射線のホント」と「放射線副読本」は、復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略(以下、強化戦略)」※5の一環だ。「強化戦略」は、オリンピックまでに福島事故が完全に終息したことにしようとする戦略である。被害がなくなったことを「知ってもらう」、福島県の産品を「食べてもらう」、修学旅行や観光客にも福島に「来てもらう」という情報発信を強化する。
「伝えるべき対象」は、①児童生徒及び教師等教育関係者、②妊産婦並びに乳幼児及び児童生徒の保護者、③広く国民一般、が挙げられている。「放射線副読本」の改訂版がその具体的な施策の中心に置かれている。“放射線安全教育”には教職員研修もセットになっている。
被ばくリスクに正面から向き合わないまま、健康影響はないとするリスコミを強化しても、単なるスリコミに終始するだけだろう。問題の解決にならないばかりか、福島の復興にはつながらないだろう。両読本の撤回を強く求めるものである。

(片岡遼平)

 

※1 「放射線のホント」(復興庁)

www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2017/senryaku/pdf/0313houshasen_no_honto.pdf

※2 「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版)」第3章 P102(環境省)
www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/pdf_h29/2017tk1s03.pdf

※3 国立がん研究センター・予防研究グループ「野菜・果物と全がん・循環器疾患罹患との関連について」

epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/307.html

※4 「放射線副読本(平成30年10月改訂)」(文科省)

www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1409776.htm

※5 「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」(復興庁)

www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2017/senryaku/

 

■「放射線のホント」の撤回を求める署名(第二次集約2019年1月31日、第三次集約2019年3月31日)

「放射線のホント」の撤回を求める署名

■再改訂「放射線副読本」の撤回を求める署名

再改訂「放射線副読本」の撤回を求める署名