外国人労働者と被ばく労働 -東電「特定技能」就労見送り-
外国人労働者と被ばく労働-東電「特定技能」就労見送り-
5月27日、学習会「外国人労働者と被ばく労働」が、連合会館で開催された(主催:原子力資料情報室・被ばく労働を考えるネットワーク)。今年4月から始まった新たな在留資格「特定技能外国人労働者」について、東京電力(以下、東電)が福島第一原発に受け入れるとした問題を学習した。現場の状況について青木美希さん(朝日新聞記者)、外国人労働者問題の現状を指宿昭一弁護士(外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表)、海外の原発労働者の状況をなすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)が講演した。ここでは、指宿弁護士となすびさんの講演を中心にまとめた。
外国人労働者の実態
国内の建設業、農業、介護などの分野では、少子高齢化社会が進行する中で人手不足が深刻化し、経済界を中心に、更なる外国人労働者の受入れを求める声が上がっている。一方で、国内で働く外国人労働者に対しては、言葉や意思疎通の問題に加え、長時間労働、低賃金、賃金不払い、いじめ、パワハラなど、多くの法令違反と人権問題がある。外国人労働者も、国籍・在留資格などにかかわらず、本来は等しく人権を有しているはずだ。外国人の人権を保障した受入れ制度の運用が課題となっている。
外国人労働者問題の現状-指宿昭一弁護士-
2018年末現在、日本国内の在留外国人数は、273万1,093人で、前年末に比べ16万9,245人増加した。外国人雇用者の届出は、2018年10月末で146万463人。労働者数が多い上位3ヵ国は、中国38万9,117人、ベトナム31万6,840人、フィリピン16万4,006人となっている。うち、技能実習生として30万8,489人が登録している。
1993年に導入された「技能実習制度」は、厚生労働省によれば非熟練労働者を受け入れて、技能・技術の途上国等への移転を図るための制度である。しかし、その実態は国内では安価な労働力の確保になっている。他方、送り出し側でも、労働力マッチングにおける中間搾取(ブローカー)、多額の渡航前費用の徴収、保証金徴取、違約金契約、監理団体が実習実施機関(各企業・農家)から、1人の実習生につき3~5万円程度の管理費を徴収するなど、さまざまな問題が指摘されている。
単純労働者より少し上の位置付けとして、「特定技能1号・2号」という新しい制度ができた。「特定技能」は、人手不足に対応し外国人労働者の受け入れを拡大するための在留資格である。介護や建設など14業種が対象で、技能水準で2段階に分かれる。「特定技能1号」は、相当程度の知識または経験を必要とする技能に加え、日常会話レベルの日本語能力が必要。家族の帯同は認められず、在留期限は通算5年。技能実習生として3年間の経験があれば、無試験で在留資格を変更できる。
「特定技能2号」は、熟練した技能が必要で、高い水準の試験に合格する必要がある。家族の帯同が認められ、在留も更新制となる。当面は、「建設」と「造船・舶用工業」のみで受け入れる。
政府はこれまでに、主な送り出し国として想定されるフィリピン、カンボジア、ミャンマー、ネパールの4ヵ国と覚書を締結している。新たにベトナム、中国、インドネシア、タイの4ヵ国との締結を目指している。
在留資格は外国人労働者にとって生きるか死ぬかの問題だ。就労できなくなったり、日本人配偶者と離婚した場合は帰国しなければならない。
技能実習生は、どこで何の仕事をするのか教えられずに来ている。例えば、ベトナムは技能実習生が福島第一原発や除染などの作業に従事することを禁止しているが、これらが周知されていなかった。危険手当の意味を尋ね、初めて被ばく労働に従事していることを知り、それが大きなニュースになった。ベトナム以外の国には被ばく労働を禁止する規定はないが、このような状態で外国人労働者を被ばく労働に従事させることは許されない。
移住労働者と被ばく労働問題-なすびさん-
EUでは国境を越えて原発が存在し、EU域内の各国で労働者が被ばく労働に従事している。下請け労働者(アウトサイドワーカー)は、フランスでは約3万人(2003年)、イギリスでは1~1.5万人(2010年)で、この中に外国人労働者が含まれている。労働者は各国の規制当局が発行する被ばく線量の書類を受け取り、次に働く国で提出する制度がある。働いた各国ごとに放射線管理手帳が発行され線量が管理されているが、国を越えた統一的な被ばく管理はされておらず、累積被ばくによる健康影響が心配される。EU全体での被ばく記録情報の一元管理、各国との法規制の統一、健康影響に対する国を越えた保障などが必要だ。
放射線管理手帳は日本国内の業界団体による制度なので、基本的に国内での利用しか念頭にない。放射線安全関連の法規制は、国内における雇用・労働を対象とした事業者に対するものだ。日本で被ばく労働に従事し、帰国後に健康影響が出た場合、労災の申請は可能ではあるが、実際には不可能に近い。
福島第一原発では、日本人作業員の労働環境も劣悪だ。重層的な下請構造により電力事業者・元請・雇用業者の責任は曖昧となっている。日本人でも起きている問題が、特定技能外国人労働者を受け入れることにより、さらに深刻・対応困難になるのではないかと懸念される。例えば被ばく労働に関する教育・訓練も日本語テキストに依存することになり、周知は困難だ。
東電が受け入れ表明から一転、「特定技能」就労見送り
東電は4月18日、特定技能外国人労働者を受け入れると発表。「建設」「産業機械製造業」「電気・電子情報関連産業」「自動車整備」「ビルクリーニング」「外食業」が該当するとした。廃炉作業は「建設」が主になるとし、柏崎刈羽原発でも受け入れる方針だった。これまで法務省は、福島第一原発で技能実習生の受け入れは技術・技能の移転とならないから不可としてきたが、「特定技能」については受け入れ可能との判断を示していた。日本語能力について、特定技能1号では、「ゆっくりと話す日常会話ができ、生活に支障がない程度」とされるが、原発の作業は複雑で、意思疎通の難しさから生じる労災や事故も懸念される。
東電によると、これまでに福島第一原発で放射線業務従事者として登録している外国人は、今年2月の時点で29人。2018年5月、福島第一原発内の焼却炉工事に、外国人技能実習生6人が従事していた、と発表。また、2018年3月には、外国人技能実習生が除染作業に従事させられていた事案が判明し、建設関連会社4社が法務省に処分されている。
本学習会直前の5月21日に厚生労働省が東京電力に対して通達※1を出し、特定技能外国人の受け入れに関して、東電が実施すべき事項、元請事業者が実施すべき事項、特定技能外国人を雇用する事業者が実施すべき事項について相当に厳しい要件を課した。これを受けて22日に東京電力は、「当面の間、発電所での特定技能外国人労働者の就労は行わないこととする」と発表した※2。東京電力は、「引き続き、協力企業とも連携して、労働環境の整備に向け努めていく」となお受け入れの余地を残しているが、将来とも受け入れを撤回すべきだ。
※1 「東京電力福島第一原子力発電所における外国人労働者に対する労働安全衛生の確保の徹底について」 (2019年5月21日 厚生労働省労働基準局安全衛生部「基安発0521第1号」)
www.tepco.co.jp/press/news/2019/pdf/190521a.pdf
※2 福島第一原子力発電所における外国人労働者に対する労働安全衛生の確保の徹底に係る厚生労働省通達に対する報告について(2019年5月22日 東京電力ホールディングス株式会社)
www.tepco.co.jp/press/news/2019/1515153_8967.html
(片岡遼平)