幌延深地層研究所、10年間の研究期間延長を申し入れ   自治体との3者協定を反古に

 日本原子力研究開発機構はこのほど、北海道幌延町に設置した深地層研究所での研究期間を延長する「令和2年度以降の幌延深地層研究計画(案)」を発表した。具体的な期間は明記されていないが、約10年の延長と読める内容である。北海道新聞は「幌延深地層研 期間延長は約束違反だ」とする社説を8月4日に掲載した。これに対して、機構側はホームページで、研究成果を取り纏めたところ期間を延長する必要が出たため、協定書にある通りに、計画の変更の場合の協議を申し入れただけだ、と本筋を外した反論を行っている。期間延長に対して、すでに多くの抗議声明が発せられている。ここでは、これまでの経緯を振り返りながら、なぜ約束違反なのか、新たな研究計画がはたして必要不可欠なものかを検討した。

三度の裏切り   

 発端は幌延町が原子力施設の誘致を表明したことに始まる。1981年のことである。この時、幌延町は原子力発電所を検討したが、地盤が堅固でなく実現しなかった。次に町は低レベル放射性廃棄物施設の誘致を図ったが、これもうまくいかず、最終的に当時の動力炉・核燃料開発事業団(以下、動燃)が進める高レベル放射性廃棄物の貯蔵工学センター計画の誘致を進めた。動燃はその後、組織名を2度変更し、現在の日本原子力研究開発機構となる。
 貯蔵工学センターは動燃の東海再処理工場で製造された高レベル放射性廃棄物ガラス固化体を貯蔵しつつ、深地層の研究を行う施設である。住民らは最終的に処分場になると疑っていた。この疑いは88年に動燃による立地調査まとめで、現実となる。計画では地下研究所と処分施設がセットになっていた。
 この貯蔵工学センター誘致には、周辺の市町村および北海道知事も道議会も反対を表明していた。周辺が反対する中、動燃は85年に立地環境調査に着手した。11月23日のことで、連休で監視をゆるめたスキをついてボーリング予定地点の樹木に印をつけるなどの作業を深夜こっそりと行い、マスコミを使って「調査に着手」と宣伝したのだ。以来毎年、この日に反対集会が開催されている。さらに翌年8月に動燃は、夜陰に紛れて調査機材を搬入し、またしても闇討ちのボーリングを開始したのだった。これが第一、第二の裏切りである。
 時が流れて98年に当時の科学技術庁が貯蔵工学センター計画を取り下げ、新たに深地層研究所計画を打ち出した。これを受けて翌年に北海道庁が「深地層研究所計画検討委員会」を設置し、16回の会合を重ねて、2000年に知事は研究所計画の受け入れを表明した。そして、幌延町、北海道庁、動燃(核燃料サイクル開発機構と改名していた、以下機構)が協定を結び、最終処分場にしないこと、核物質を持ち込まないこと、20年程度の期間の研究の後には埋め戻すことを盛り込んだ。幌延町は「町内に放射性廃棄物の持ち込みを認めない」条例を制定した。また、道も「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」を制定して、地層処分場は受け入れがたいとした。機構は03年に土地の売買契約を締結して施設の造成に着手している。この時点で電源三法交付金の対象となった。
 2000年は特定放射性廃棄物の地層処分に関する法律が施行された年であり、これによりNUMO(原子力発電環境整備機構)が処分の実施主体となった。こうした動きが背景にあり、核抜き研究所計画の受け入れになったのだと推察される。
 そして、深地層研究施設に反対するグループは、「20年程度の期間の研究」の意味をめぐって、毎年のように機構に確認して、「程度」は2~3年であるとの回答を得てきていた。ところが、今回、さらに10年程度の研究期間の延長を幌延町、北海道庁に申し入れたのだった。三度目の裏切りである。期間延長の申し入れに先立って経済産業省と文部科学省は事前説明を受けていた。両省とも止めなかった。

研究計画期間について 

 幌延における研究は2000年から始まった。98年に機構が策定した幌延深地層研究計画では、全体で3段階の計画が示されていた。これによれば、第1段階は地表から物理探査やボーリングなどを行って地質環境データを取得する段階、第2段階は地上施設ならびに地下施設の設計・建設を主とする段階。坑道の掘削は2005年11月に開始している。2010年にはある程度の掘削が進み、これと並行して第3段階の調査研究を開始した。第3段階は掘削坑道を利用した地下深部の地質環境の調査や処分技術の実証などを行う段階、としている。この中では核物質は持ち込めないので、模擬のオーバーパックを使用し、電熱器で発熱させて処分孔と岩盤への影響などを調べる原位置試験なども行われた。坑道の深さは350mである。
 98年報告書には全体20年の研究期間が示されている。同計画には並行して処分事業のスケジュールも示されており、文献調査から精密調査までに20年程度の期間が示されている。幌延の研究計画は処分スケジュールと整合させたものと考えられる。ちなみに現在に至るも文献調査を受け入れる自治体はない。
 機構は「19年度末までに研究終了までの工程やその後の埋め戻しについて決定する」としている。今回公表された研究計画案には工程や埋め戻しには触れず、機構が計画していた課題と成果、そして残る課題が書かれている。しかし、その中で「これらの研究課題については、令和2年度以降、第3期及び第4期中長期目標期間を目途に取り組みます」と記載している。この中長期計画は機構が策定する計画だが、必ずしも幌延に限ったものではない。地層処分に関係して、瑞浪の超深地層研究所を含む東濃地科学センターがあり、また機構の東海事業所にも研究施設が複数あり、これら全体を含む計画として中長期計画がある。これによれば、第3期中長期計画は15年度から22年度までであり、第4期中長期計画の対象期間は28年までとなっている。したがって、幌延での研究が28年まで続くと想定されるのである。10年程度の延長の根拠である。しかし、これで留まるかは未定である。

深地層でなければできない研究か? 

 今回提案された研究計画案では研究課題と成果、そして今後取り組む課題をまとめている。14年の機構改革報告書において幌延深地層研究所が取り組むべき必須の課題として3つが与えられた。①実際の地質環境における人工バリアの適用性確認;この中には、人工バリア性能確認試験、オーバーパック腐食試験、物質移行試験が含まれる。②処分概念オプションの実証;この中には、処分孔等の湧水対策・支保技術などの実証試験、人工バリアの定置・品質確認などの方法論に関する実証試験が含まれる。③地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の検証;この中には、水圧擾乱試験などによる緩衝能力の検証・定量化、地殻変動による人工バリアへの影響・回復挙動試験が含まれる。
 15年からこれらの課題に取り組み、18年度には成果の取りまとめに着手している。また、研究開発の進捗状況について外部専門家の評価を受けた。これをふまえての令和2年以降の研究計画案だという。
 外部専門家評価では、機構内部に設置されている「地層処分研究開発・評価委員会」(小島圭二委員長)の中間報告によれば、「全体として概ね適切に研究が遂行され、当期5カ年の目標を達成できたと評価」している。上記の研究計画案にまとめられた個々の項目のうち、評価されていない項目は、②の高温度(100℃以上)などの限界的条件下での人工バリア性能確認試験と③の水圧擾乱試験などによる緩衝能力の検証・定量化だった。そして、評価委員会は残る課題として以下の3点を挙げている。

 (ア)実際の地質環境における人工バリア性能確認試験の継続;ここでは緩衝材のベントナイト(粘土)に地下水を染み込ませた上でのデータを取得し、その後はガラス固化体の温度が下がった時点での緩衝材のデータを取得するとしている、また有機物や微生物が放射性物質を取り込んで移動する影響が限定的であることを確認するためのトレーサー試験を実施するとしている。
 (イ)処分概念オプションの実証;緩衝材の施工方法や坑道閉鎖に関する様々なオプションの検討をする、緩衝材が100℃超になった状態を想定した解析手法を開発する。
 (ウ)地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の実証;より大きな断層(幅数センチ以上)における地震動や坑道掘削に伴う割れ目における地下水の流れの変化に関して、堆積岩の自己治癒能力の実証試験を行う。さらに地下水が動いていない環境を調査してモデル化する。

 こうした研究課題を掲げているが、検討されるべきは、これらにどれくらいの期間を要するのかと、幌延でなければできないのかという点である。
 (ア)については、地下水を染み込ませるのは人工的に行うことになるであろうことを考えると、地下環境である必要はない。微生物に関しても、どのような微生物が存在するのかを把握できたとしても、現場で試験をすることに意義はない。掘削によって地表とつながっており、閉鎖後の地下環境を模擬できないからだ。
 (イ)では、様々なオプションがなぜ必要なのかが書かれていない。すでに決まった方法でNUMOの包括的技術報告書は作成されている。また、緩衝材が100℃超に関しても、他の論文などから影響は限定的との結果が得られている。この点も地下施設でなければならない理由はない。
 (ウ)は、実際の地下環境の断層を活用するのだから、一見、地下施設が必要と思われるが、しかし、堆積岩における自己治癒能力が仮にあったとしても、これを頼りにして処分場の設計をすることはできないはずだ。本当に必要な研究なのか疑問である。また、地下水が動いていない環境の調査は、幌延地下研究所の外で行うことではないのか?
 このように見てくると、どうしても幌延でなければならない理由は説明されていない。幌延深地層研究所があるのだからわざわざ他ですることもない、といった程度の動機なら、信頼を捨てることの方が大きなダメージだ。

約束を守り研究終了すべきだ

 一般に、研究課題を揚げるときには組織の維持と予算の獲得のため針小棒大な書き方がされる。他方、安全性の説明になると今度は過大に安全が語られる傾向がある。NUMOが公表した包括的技術報告書によれば、幌延での研究課題などとっくに解決済の問題となっている。また、幌延での課題が本当に必要なものであるなら、NUMOの上記報告書は信頼できないものと言わざるを得ない。あちらを立てればこちらが立たず、である。
 経産省の放射性廃棄物ワーキンググループの議論で筆者は、国やNUMO、機構に対する国民の信頼が第一と繰り返し述べてきた。また、処分地選定で成功したスウェーデンの事例報告を聴くと、組織への信頼が鍵であると語られている。今回の裏切りは墓穴を掘るようなものである。20年程度の研究期間との約束を守り、幌延の研究施設を埋め戻して研究を終了するべきである。研究を続けたいのなら、果たした約束をもって新たに場所を探すことが可能だろう。埋め戻して研究を終了することこそが信頼回復の唯一の道だ。

(伴英幸)