新たな年を迎えるにあたって

『原子力資料情報室通信』第547号(2020/1/1)より 

 

終わらない福島原発事故の影響

 東京電力福島第一原発事故から9年目を迎える。大人や子どもたちの健康状態の悪化、帰還政策の強制と帰還者たちの高齢化、そしてその外に置かれ取り残される避難者たちの苦悩、震災関連死の増加などなど、取り巻く環境は深刻さをましている。他方、原発サイトの中では汚染水の扱い、絶望的ともいえるデブリの取出し、40年で更地という非現実的なロードマップ。あまりにも多くの課題が未解決なままに、月日が過ぎて行くようだ。中でも汚染水問題が最大の焦点を迎えるのはオリンピック後だろう。
 東の東電に対し西の関電では、原発マネー不正還流問題が浮上し(詳細は本号粟野氏の論考を参照)、「迷惑施設」としての原発の本性を明らかにした。

繰り返される事故・トラブル 

 関電の闇マネー問題で高浜1・2号機の再稼働合意が遠のいている。そして新たに高浜4号機の蒸気発生器細管の減肉・損傷問題が浮上している。蒸気発生器の細管破断は原発事故の中でも深刻なもので、91年に美浜2号機の蒸気発生器で実際に起きている。157気圧・350℃を超える1次系の高温の水が破断した細管から勢いよく蒸気発生器側に流れ出し、70気圧の蒸気発生器側から蒸気となって大気中に噴出する。原子炉内の水がどんどん抜けていき、圧力が下がって沸騰状態となる。緊急炉心冷却装置(ECCS)がうまく機能しないと炉心溶融に至る。美浜事故ではECCSが機能せず、あわや炉心溶融に至る所だった。原因は水の流れによる震動で、これを抑制する触れ止め金具の設置が設計通りでなかったというものだった。
 今回の高浜4号機の損傷は、関電は細管外側(蒸気側)の調査の結果、長さ2cm、幅1cm、厚さ1mmのステンレス片を発見している。これが全てかは不明だ。仮に、異物がタービンに流れていれば大事故にもなりかねない。徹底した原因究明と対策が必要だ。規制基準に合格しても事故が後を絶たない。

再稼働の行方

 2020年初頭で稼働中の原発は9基であり(定期検査中を含める)、6基が規制基準に合格して、追加的安全対策工事に入っている。12基は審査中である。ところが特定重大事故等対処設備が期限内に完成しないことから、順次停止していくことになる。今年は全基停止の事態になるだろう。
 また、柏崎刈羽原発6・7号機は原子力規制委員会(規制委)から許可を得たものの、新潟県は技術委員会等で福島第一原発事故の原因や影響の検証を優先しており、その結果が出るまでは再稼働の議論はしない。引き続き県の検証を注視していきたい。
 同様に許可を得た東海第二原発についても再稼働はない。ここでは日本原子力発電が周辺6市村と締結した安全協定によって、6市村すべての同意がなければ再稼働することができない。水戸市議会はすでに再稼働反対の意見書を可決しており、いくつかの自治体の同意が得られそうもないのである。
 19年末に規制委は、女川2号機の規制基準適合案をまとめた。今後、原子炉設置変更を許可し追加的安全対策の工事に入っていくのだろうが、女川は被災原発であり、地震の影響で原子炉建屋などに多くのヒビが発見されている。安全が確保されるとは言い難い状況に、市民たちの反対の声がどのように反映するのか、注視していきたい。

六ヶ所再処理とプルトニウム削減

 六ヶ所再処理工場は規制基準の適合性審査の終盤を迎えている。その審査は廃止にしないための審査との謗りは免れない。審査書はパブコメにかかることから、多くの団体から批判が集中するに違いない。
 日本原燃は竣工を21年上期としているが、規制基準に合格した後の追加工事を考えると、さらに延びることが確実視されている。経済産業省は使用済燃料再処理機構を通じてプルトニウムの需給調整を行なうと表明しているが、六ヶ所再処理工場を運転に持ち込むための手段といえよう。とはいえ、需要に合わせた供給方針は従来の全量再処理路線の事実上の方針転換といえる。
 六ヶ所の運転はプルサーマルの合意に依存する。需要がなければ六ヶ所の運転もできない。これまで以上に六ヶ所再処理と各地でのプルサーマル進捗が密接に関連してきている。運動側の連帯もいっそう強まることになるだろう。
 他方、アクティブ試験終了から10年以上が経過し、もはや経験ある運転員がいないという。仮に竣工しても事故が起きやすく、それによる長期停止が避けられないだろう。
 最後までプルトニウム利用にこだわっているフランスでさえ、経済合理性のなさによりプルトニウムから撤退していく方向である。こんな状況を見れば六ヶ所再処理工場の竣工には意義がないし、未来もない。

プルトニウムの廃棄研究はじまる

 原子力委員会はプルトニウム削減の見解を示し、これを受けて文部科学省は、日本原子力研究開発機構に貯蔵されている研究に使用した後の利用不可なプルトニウムの処理・処分研究のための調査費用を19年度に予算化した。原子力資料情報室のイギリス調査(通信545号)が事例として役に立つのではないかと考えている。これが将来的には「利用目的のないプルトニウム」の処理・処分へつながるだろう。
 フランスでスーパーフェニックス廃止決定の6年後に復活していた高速炉計画(ASTRID)計画だったが、19年に事実上の廃止が決定した。日本はフランスとの共同研究を進めることで、もんじゅ廃炉後の高速炉開発を維持しようとしていた。だが、その実態は本号で西尾が暴くように、主として国内の開発事業者である三菱FBRシステムズを支援するものであった。しかし、今その意義もなくなり、今度は基盤研究に戻るという。世界の高速炉の失敗経験に学ばず、組織を維持するためだけに予算を浪費することが許されてよいはずがない。
 原子力開発初期からの60年以上にわたって続けられてきた国産増殖炉開発という政策方針がいよいよ名実ともに破綻する時がきた。かつて軽水炉は増殖炉への橋渡しと位置づけていた政策方針だったが、増殖炉開発の頓挫で、軽水炉開発の意義がなくなっている。

再エネの未来へ

 ベースロード電源(原子力+石炭)を掲げる日本は世界の気候危機対策の流れから取り残され、ガラパゴス化している。唯々諾々と石炭火力の新設を承認する経産省にノーと言えない環境省。まことに情けない状況に、スペインで開催されたCOP25ではNGOから2度にわたって「化石賞」という不名誉な賞を与えられた。政府は抜本的な取り組みを迫られていくにちがいない。
 原子力ムラの人たちが原子力の新増設を願っていても、福島原発事故に関電闇マネー問題を考え合わせれば、原発の新増設には地元合意は得られない。そして、あと数年も経てば、日本は原発建設をする技術力を失うだろう。
 2020年は、再稼働反対の活動、原子力政策の転換、そして国会での原発ゼロ基本法案(17年提出)の早期実現への選挙を通した取り組みなど、さまざまな面から脱原発の活動が強まっていくに違いない。再生可能エネルギー100%による未来の構築は必至だ。

伴英幸(原子力資料情報室・共同代表