原子力長計策定会議意見書(第28回)
原子力長計策定会議意見書(第28回)
2005年6月7日
原子力資料情報室 伴英幸
1.政策決定は、国民の参加のもと国民の意見を反映して決めるべきです
政策決定のあり方は、「国民の意見を踏まえつつ定める」のではなく、国民の参加のもと、その意見を反映する形で決定するのが本来の姿と考えます。したがって、国民参加は、原子力研究開発利用の基本的目標とするべきものです。「3.原子力研究開発利用推進の今後の取り組みの基本的考え方」の中では「政策決定過程に国民の意見を反映させるなどの国民参加の取り組んでいくべき」だと触れられていますが、これは飽くまでも「原子力と国民・地域社会との共生」の視点からの言及であり、十分とはいえません。
国民参加に関しては、策定会議でこの議論が十分には行なわたとはいえませんので、その意義や参加形態などについて、現状を整理しつつさらに議論を尽くすことを求めます。
2.現状認識から出発するなら脱原発の選択肢を検討するべきです
現状認識を率直に受け止めれば、原子力発電の維持の困難さこそが読み取れます。脱原発によるエネルギー低消費・二酸化炭素少排出社会の道筋を真剣に検討するべきではないでしょうか。
3.「平和利用の担保」を最大の基本的視点とするべきです
原子力の研究、開発および利用が「平和の目的に限り」(原子力基本法第2条)行なわれることを担保するのが、原子力委員会の最大の任務です。新計画の構成」したがって、原子力委員会が定める長期計画は、何よりも「平和利用の担保」を基本的視点とすべきです。「新計画の構成(案)」では「平和利用の担保」が最大の任務との認識の上に立って記述されていると読めません。
「成果を公開し、進んで国際的協力に資する」(同第2条)とされていることからすれば、単に国内的に「平和の目的に限り」行なわれるのみならず、国際的にも核拡散につながらないように行なわれなければなりません。
とりわけ、ウラン濃縮と再処理の計画について見直される必要があります。本策定会議の国際問題検討WG第3回会合で武黒一郎東京電力常務が発言されているところによれば、日本の濃縮および再処理の実力は「現実には濃縮ももう1回技術開発を整理しなおそう、再処理はまさにこれから始めて、当事者能力を持てるかどうかということは自分たちでこれから磨こうとしている、まだ足元もおぼつかないところもあるかもしれません」という状態であること、すなわち2004年ブッシュ提案に言う「すでに機能しているフルスケールの濃縮および再処理工場を有していない」状態に事実上あることも、当然ながら考慮に入れるべきです。核燃料サイクル政策についてのシナリオ間比較では、現行政策を変えると「現在運転中の原子力発電所を順次停止せざるを得なくなる状況が続く可能性が高い」(中間とりまとめ)といった論理で現行政策の維持が合理化されています。そうした考えでプルトニウムが抽出され蓄積されていくことの意味を、きちんと議論することが肝要だと思います。
4.改定長期計画が対象とする期間は「今後10年程度」を明記するべきです
コメント用の案では「今後10年間のうち国が実施するべき施策の基本的な方針を新たに明らかにする必要があると判断し」と、第10回改定が対象とする期間を明確に示していました。この期間は近藤委員長が策定会議の場での発言とも一致するものです。しかし、暫定版ではこの期間が削除されています。「新計画の構成」で、原発は「2030年以降も」高速増殖炉は「2050年頃から商業ベースでの導入」と明記されていますが、この長い期間までを今回の計画の対象としているのではありません。対象とする期間を明示しておくことは必要と考えますので、復活してください。
そもそも、それらの数字を「新計画の構成」に明記するべきではないと考えます。 「2030年以降も原子力発電に発電電力量の30?40%程度という現在の水準程度か、それ以上の役割を期待する」点に対しては、勝俣委員は義務ではないとの発言をされています。また、「高速増殖炉の商業ベースでの導入を目指す」ことは合意されていません。「2050年頃から」という時期はもとより「商業ベースでの導入」自体が、高速増殖炉サイクル技術の研究開発のあり方についての議論では合意されなかったからです。論点整理では「高速増殖炉サイクル技術の実用化に向けた研究開発を(中略)着実に推進することが適切である」とされており、これは「商業ベースでの導入」を意味しません。「高速増殖炉サイクルの適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画についての国としての検討は、2015年頃から行なうことを念頭に置くこととする」との論点整理とも齟齬をきたします。
そもそも、原子力発電に対する2030年以降の期待や高速増殖炉に対する2050年頃の実用化といった根拠のない期待や目標を掲げて、期待や目標どおりに行かなかった場合の責任は誰が取るのでしょうか?
5.核物質防護や有事対策は基本的人権を脅かします
「NPT及びIAEA体制に対する挑戦」「テロ活動の可能性」などに対抗して核物質防護や有事対策を講じることは、基本的人権を脅かすことにつながります。基本的人権を守ることが最も重要なことであり、その上で、この制限は国民の合意なしには行なえないとの認識を示すべきだと考えます。
6.「新計画の構成」内容に合意しません
意見募集をおこなうことは策定委員全員の合意です。したがって、応募意見については策定会議で審議するべきだと考えます。しかし、「新計画の構成」で提案されている内容に私は合意していません。そこで、募集の対象となる内容は策定会意義の全員の合意によるものではないことを、なんらかの形で明記にしてください。