六ヶ所再処理工場 耐震不足だが補強工事ができない汚染された機器

『原子力資料情報室通信』第565号(2021/7/1)より

大きな地震に襲われて事故をおこす理由2つ

『原子力資料情報室通信』第545号(2019年11月1日発行)の「六ヶ所再処理工場と活断層 ―無視され続ける大陸棚外縁断層・六ヶ所断層―」のなかで、2つの大きな問題のために、六ヶ所再処理工場が大きな地震に襲われて事故をおこす危険性があることを指摘しました。
1つは地震をおこす原因として大陸棚外縁断層・六ヶ所断層を採用していないということです。それゆえ想定すべき地震の規模を小さくみつもっており、六ヶ所再処理工場に到達するゆれの大きさ(地震動)を最大加速度が700Gal(ガル)として基準地震動を策定し、それにかろうじて耐える程度の耐震強度にとどまっています。もし大陸棚外縁断層・六ヶ所断層が地震をおこすとすると、想定すべき基準地震動としては最大加速度が2,000Galをかなり超える可能性があると推定しています(筆者の概算)。
もう1つは、六ヶ所再処理工場の耐震強度は思いのほか低く、700Galの地震動に対してさえも耐えられない施設・設備がいくつもあるということです。しかも、それらの中には使用済み燃料をつかっておこなった本格稼働前の試験(アクティブ試験)によって高濃度の放射能に汚染されているために、人が容易には近づくことができず、必要な耐震補強工事を実施できないものがあるようなのです。
ここでは2つ目の問題について、新たに入手した資料などをもとに図と表をつかって紹介します。

六ヶ所再処理工場の耐震不足を指摘する東京電力の内部資料

図1と図2は、東京電力の内部で新潟県中越沖地震以後に連続しておこなわれていた「中越沖地震対応打ち合わせ」という名前の会議に提出された資料の一部です。もともとは、福島第一原発事故当時の東京電力の役員3名の業務上過失致死罪を問うて刑事責任が争われている「東電刑事裁判」に検察官役の指定弁護士が証拠として提出したもので、それを六ヶ所再処理工場事業許可取り消し訴訟の弁護人である海渡雄一さんが手を尽くして入手したものです。
2006年9月に耐震設計審査指針が改訂されたのち、これまでに設置が許可された原発や核燃料施設にたいして、指針が求めている基準を満たしているかどうかを検証するいわゆる「耐震バックチェック」がおこなわれました。耐震バックチェックの審査の最中の2007年7月16日に新潟県中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発では4基(2・3・4・7号炉)が自動停止したのをはじめ、3号炉の所内変圧器が火災、タービンの軸や翼の損傷、燃料集合体の飛び上がりなど数々の大きな被害を受けています。
これらの被害は想定されていたより大きなゆれ(地震動)が原発を襲ったことが原因と考えられ、耐震バックチェックの中でも何らかの対応が必要と考えたのでしょう。その結果、「IV.中越沖地震の耐震バックチェックへの適用方法」という題のスライドにあるように、柏崎刈羽1号炉の建屋の最下階の床面(基礎版)の上で実際に観測された最大加速度680Galの地震動を、他の原発や核燃料施設の相当位置に入力してみて、主要な建物や機器が耐えられるかどうかをチェックするということにしたのです。
その次のスライド(図2)で、「680Galによる耐震バックチェックへの影響」が説明されており、中ほどより下のところに次のように日本原燃の六ヶ所再処理工場に関する記述があります(東京電力は日本原燃の主要な株主であり、出向者も多く、再処理契約量も最大ですから、情報に通じていて当然です)。
「日本原燃六ヶ所再処理施設:450Galで耐震バックチェック終了
・450Galに対してほとんど余裕の無い機器が存在
・680Galの入力→レッドセル内の機器が要補強とるが、アクセス困難」

図1  中越沖地震の耐震バックチェック対策(東京電力内部資料より)

図 2  六ヶ所再処理工場の機器は耐震余裕がなく補強も困難(東京電力内部資料より)

敷地内の地質構造による地震動の増減

「450Gal」は解放基盤表面(ある程度の硬さがあるおもに地下に広がる仮想的にむき出しにした地盤の表面)の基準地震動、「680Gal」は建屋の基礎版の地震動であって、厳密には違う性格の地震動に対する値であることに注意してください。
柏崎刈羽1号炉の中越沖地震の場合は、解放基盤表面の最大加速度1,699Galの地震動に対応するのが、基礎版で最大加速度680Galの地震動であり、2つの数値の間には約2.5倍のひらきがあります。
日本原燃が敷地内の地盤を、よく知られているf-1断層とf-2断層(どちらも活断層ではないとされている)を境に、西側、中央、東側の3つに分けて評価しています(図3)。六ヶ所再処理工場の最新の基準地震動の場合では、解放基盤表面の最大加速度700Galの地震動に対応するのが、それぞれ最大加速度が西側616Gal、中央559Gal、東側742Galとなっており、柏崎刈羽原発ほど基準地震動との数値上のちがいはありません。
これらの違いは地下の地質構造のモデルが異なることによると考えられます。

図3  断層を境に区分けられた3つの地盤とおもな建屋(日本原燃の資料をもとに作成)

「ほとんど余裕の無い機器」は、より大きな地震動で破損する

東京電力の内部資料によると、最大加速度450Galの基準地震動をもちいておこなった耐震バックチェックで「ほとんど余裕の無い機器が存在する」といっています。実際、日本原燃の耐震バックチェック報告書をみると耐震余裕がないものが多数存在することがわかります。非常に高い放射能レベルの液体をあつかう分離建屋、精製建屋、ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋、高レベル廃液ガラス固化建屋の中にある機器について、「応力比」の欄が0.80以上の機器(すなわち耐震余裕が20%以下の機器)を抜粋して表1にまとめました。
この表の機器に対して最大加速度700Galの地震動が襲ったときにどうなるでしょうか。最大加速度を大きくした分がすべて発生応力の増加につながると仮定すると、すべての機器において応力比が1.24を上回ることになります(1を超えれば破損する)。機器がすこし変形するだけではすまず、大きく破壊される可能性が高いことを意味します。

表1  六ヶ所再処理工場の耐震性の低い代表的な機器(「耐震バックチェック」報告書より抜粋)

「レッドセル内の機器が要補強」だが、人が近寄れず工事ができない
東京電力の内部資料にもうひとつ、追加で建屋の基礎版上に最大加速度680Galを入力した評価をおこなったところ、「レッドセル内の機器が要補強」となったと書いてあります。「レッド」は放射線管理の区域の基準で通常作業時の人の立ち入りが禁止される区分で、「セル」はコンクリート壁などで仕切られた区画のことです。
六ヶ所再処理工場では使用済み燃料をもちいた本格稼働前の運転試験(アクティブ試験)がすすめられていたため、主要工程は非常に放射能レベルの高い核分裂生成物で汚染され、高レベル放射性廃液を貯蔵しているタンクなどが実際に運用を開始していおり、これらはレッドセル内に設置されています。実際のレッドセル内のエリアの線量率や汚染の程度がどれくらいなのかは、公開されているアクティブ試験の報告書をみてもよくわかりません。
参考になりそうなのは、2010年7月に分離建屋の高レベル廃液濃縮缶内の温度計さや管への漏えい事故がおきた際に、日本原燃がさや管内の線量率を250Sv/hと推定していることです。セルの線量率そのものではありませんが、このような汚染された機器があるそばではとても人が近づいて作業することはできそうもありません。実際、この時の復旧工事では、対象の部位から12メートル離れた場所から約2メートルのコンクリート壁をへだてて作業がおこなわれました。

図4 分離建屋のレッドセルと耐震性が低い機器(日本原燃の資料をもとに作成)

図5  高レベルガラス固化建屋のレッドセルと耐震性が低い機器(日本原燃の資料をもとに作成)

耐震補強困難な機器にはどんなものがあるか
代表的なものを建屋の平面図上に示しておきます。分離建屋の地上2階にある高レベル廃液濃縮缶(図4)、高レベル廃液ガラス固化建屋の高レベル廃液混合槽やアルカリ濃縮廃液中和槽(図5)がそうです。図示してはいませんが、精製建屋の地下2階にあるNOx廃ガス洗浄塔のような換気系浄化装置のなかにも該当するものがあります。
ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋にも耐震補強困難な機器が存在すると考えられますが、建屋の遮へい区分と配置図が非公開となっています。
東京電力の資料では、レッドセル内の機器にのみ言及されていますが、それ以外の施設はどうなっているでしょうか。たとえば、建屋と建屋を結ぶ地下トンネル(洞道)はその中を配管が通っていて、その内部を高濃度の放射性廃液が行き来するので、高い耐震性が求められるにもかかわらず、十分とはいえないことがわかっています。図3で示した異なる地盤の間をわたる洞道はとくに深刻で耐震補強がむずかしいのではないかとみられます。

実機の検査ができない機器も多数
5月25日の核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合において、日本原燃は、すでに設置されている23,500件以上ある設工認(設置および工事計画の認可)申請の対象機器のうち、約5,300の機器には人が近づくことができず、目視や実測による実機の検査ができないことをあきらかにしました(配管類については追って報告される)。使用前検査では、実際の機器が技術基準を満たしていること、設工認通りにつくられていることを確認しする必要があります。日本原燃は、過去の設計・製作・施工・検査の記録を確認することで代用するとしていますが(記録が残っていないものもある)、これでは現在の機器の状態の把握はできません。事故や故障がおきて異常が検出されてはじめて問題に気がつくことになり、しかも、人が近づけないので簡単には事故対処ができません。
約5,300の機器のなかには、ここまで述べてきたような、本来は耐震補強が必要でありながらアクセスが困難であることを理由に改造工事の対象とされていない機器が多数ふくまれているのではないかと疑っています。

(上澤千尋)

■参考資料

日本原燃、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の改訂に係る耐震安全性評価報告書
【公開版】(バックチェック報告書)、2007年11月
www.jnfl.co.jp/press/pressj2007/071102sanko1-1.pdf

日本原燃、再処理施設アクティブ試験(使用済燃料による総合試験)、第5ステップ経過報告及びアクティブ試_総合評価等経過報告
【公開版】、2010年 6月28日
www.jnfl.co.jp/press/pressj2010/100628houkoku.pdf_

日本原燃、再処理施設 分離建屋 高レベル廃液濃縮缶内の温度計保護管内への高レベル廃液の漏えいについて(報 告)(改正版)
【公開版】 2010年11月30日/2011年 1月19日(改正))
www.nucia.jp/nucia/gn/GnTroubleView.do?troubleId=111

日本原燃、再処理事業所再処理施設に関する事業変更許可申請の一部補正、2020年4月28日
www.nsr.go.jp/disclosure/law_new/REP/180000013.html

日本原燃、再処理事業所再処理施設の設計及び工事の計画の変更の認可申請、2020年12月24日
www.nsr.go.jp/disclosure/law_new/REP/180000069.html

日本原燃、資料1 設工認申請に係る対応状況(耐震)、2021年4月13日
www2.nsr.go.jp/data/000348993.pdf

日本原燃、資料1 使用前事業者検査の実施方針及び設工認申請に係る対応状況、2021年5月25日
www2.nsr.go.jp/data/000353151.pdf

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