原発事故隠し 志賀1号炉・福島第一3号炉で臨界 制御棒落下は底なし(『通信』号外より)

原子力資料情報室通信』第394号(4月1日発行)付録
『原子力資料情報室通信』号外より

原発事故隠し 志賀1号炉・福島第一3号炉で臨界 制御棒落下は底なし

上澤千尋

■志賀1号炉での臨界事故公表

「臨界になってた?! どこで? いつ? 制御棒が抜け落ちたぁ?!」
 志賀(しか)原発1号炉の臨界事故のニュースが新聞社から原子力資料情報室にとびこんできたのは3月15日の午後いちばんのことでした。入っていた制御棒が3本脱落して臨界になったと伝えられました(1999年6月18日)。
 昨年の11月ごろからあきらかになりだした原発をはじめとする発電所でのデータ改ざん・事故隠し。蒸気の冷却に使う海水の出口と入口の温度のごまかしからはじまって、今年にはいってすぐの1月31日に、東京電力の柏崎刈羽1号炉(1992年5月11日)での緊急炉心冷却装置(ECCS)の検査偽装や福島第一・福島第二原発での定期検査時の記録の数々の隠ぺい・改ざんがおもてに出てきました。
 2月28日から3月1日にかけては、東京電力が原子力安全・保安院に提出した報告によって、福島第二1号炉(1985年11月21日)と柏崎刈羽1号炉(1992年2月28日)で、原子炉が緊急自動停止(スクラム)するという事故が起きていたにもかかわらず、事故を隠しつづけてきたことがあきらかになりました。それから10日ほどたった3月12日に、東北電力が女川1号炉(1998年6月10日)で起きていたことをあかしました。
 北陸電力が志賀1号炉の臨界事故を公表したのは、そういうタイミングでした。原子炉が停止中に臨界になり、しかも緊急停止に失敗した。それだけで重大な問題なのに、記録を破棄し、発電所ぐるみ、会社ぐるみで事故をもみ消したのは、技術的能力以前の問題であり、北陸電力に原発を運転する資格がないと思います。

■沸騰水型炉の制御棒のしくみとはたらき

 制御棒落下事故を起こしていたことがあきらかになっているのは、すべて沸騰水型炉(BWR)です。沸騰水型炉では、原子炉圧力容器の底の方から制御棒をおしあげて炉心にいれます。
 制御棒は細長い板を十字型に組み込んだ形をしており、内部には中性子をよく吸収する物質(炭化ホウ素やハフニウム)がはいっています。制御棒を燃料集合体と燃料集合体の間にいれてやると、とびかっている中性子を吸収するので、核分裂につかわれる中性子の数が減ります。核分裂の進行をおさえることで、原子炉にブレーキをかけるはたらきをします。
 原子炉内で蒸気を発生させる沸騰水型炉で、制御棒を原子炉の下から挿入するのにはふたつの理由があります。原子炉の上の方に蒸気を発電に適した状態にするための設備(気水分離器と蒸気乾燥器)が設置されているという物理的な理由と、制御棒を下から入れることにより、燃料の燃えすすみ方を調整するという燃料管理上の目的です。泡の発生量が上部の方が下部より多いため、燃料上部の核分裂が進みにくいという性質があるためです。
 制御棒を下から押し上げるために水圧差を利用したピストン構造の駆動装置が採用されています。抜け落ちにくく、操作もしやすいものでなくては実際には使えません。今回の脱落事故は、この構造上の不利が背景にあると思います(加圧水型炉では制御棒は原子炉上部から挿入する構造。引き抜き時は電磁石で保持しておいて、挿入時には電磁石の電流を断って重力によって制御棒を落下させます)。

■駆動用の弁の誤操作から制御棒が落下し臨界に
 志賀1号炉の臨界事故について、北陸電力は3月30日に調査報告を公表しました。北陸電力のウェブページから手に入れることができます。志賀の事故について詳しく見ておきましょう。
 事故は、「原子炉停止機能強化工事機能確認試験」とよばれる試験中に起きました。この工事は、苛酷事故対策(シビアアクシデント対策)のひとつとしておこなわれた代替制御棒挿入装置の設置工事です。あたらしいシステムの試験を従前からの制御棒スクラム試験につづいておこなったとあります。
 志賀1号炉には制御棒が89本あり、それぞれに水圧制御ユニットが1つついています。図にあるように( www.rikuden.co.jp/press/attach/07031501.pdf の「3ページ目の下の図」)駆動水圧系に水を流しながら、かつ、原子炉への戻りラインの弁を閉じていたことで制御棒が落下する可能性があったと説明しています。駆動水圧系の圧力が原子炉よりあるレベル(1.0メガパスカル)以上高くなると、挿入配管からの水圧で制御棒が一時的に押し上げられて、ロック(コレット・フィンガ)が解除されます。テストするための1体の制御棒の水圧制御ユニットを除いて、88本のユニットの2つの弁(101弁と102弁)を4人の人の手によって順次閉じていく作業をしていました。そうすることで、系統内の圧力が高くなり、上でいうロックがはずれた状態になったのです。その状態で、先に挿入側の101弁を閉めると、挿入側からの圧力がなくなり制御棒の落下がはじまる、というしくみです。残り3本のところで、図のような状態になったというのです。
 圧力差を警告するアラームのスイッチが切られていたこともわかっています。
 3本の制御棒が、約360センチの可動範囲のうち、それぞれ60センチ、120センチ、150センチ落下して臨界状態になった。臨界になり、原子炉のスクラム信号が出たにもかかわらず、挿入側の弁がしまっていたために制御棒が挿入されなかったのです。おまけに緊急挿入装置のアキュムレータには充てん圧力がなくはたらかない状態でした。
15分後にようやく101弁を開くことで制御棒が挿入されて、臨界状態を脱したのです。

■手順のミスだけが問題なのか

 志賀1号炉の場合には、試験手順や弁の操作に問題があったのはその通りでしょう。正しい手順でおこなえばうまくいくのはあたり前として、ひとつの簡単な作業ミスが大きな事故につながるようではシステムそのものがあまりにもろいのではないでしょうか。
 福島第二3号炉や柏崎刈羽1号炉の事故のように、それぞれのユニットの2つの元弁(101弁と102弁)が閉まっていても、駆動水圧系からの圧力が引き抜き側に加わって制御棒が脱落した例もあり、やはり構造上も問題ありと考えるべきでしょう。
 また、「改良型沸騰水型炉(ABWR)」である柏崎刈羽6号炉でも制御棒の脱落が起きていたことは非常に重大です。水圧と電動機駆動の制御棒駆動装置が売りですが、1つの制御ユニットに2本の制御棒がつながっており、より大きな事故の起こる可能性があるからです。

■安全上の問題点―事故想定

 原子炉設置許可時の安全審査では、「過渡解析」と「事故解析」で制御棒の引き抜きないしは落下を想定して解析しています。
 「過渡解析」として「起動時の引き抜き」と「出力運転時の引き抜き」を想定していますが、これは中央制御室での制御棒選択操作における誤操作を仮定したもので、制御棒1本の引抜きしか想定されていません。志賀1号炉の「事故解析」では、制御棒1本が落下し挿入されないことが想定され、中性子束が定格の120%になったところでスクラムがかかるというシナリオです。この場合には約1200本の燃料棒が破損するが、周辺住民へ大きな被曝はない、と結論されています。
 どちらの想定も、現実に起きている複数本の制御棒落下事故と比べてみても、あまい想定で、上記のシナリオで、複数本の事故を考慮するだけで、何倍も大きな被害をもたらす結果になるはずです。

■地震と原発

 3月25日、能登半島でおきた大きな地震によって、震源から18キロメートルの位置にある志賀原発も大きく揺れました(自動停止設定値以上の加速度で)。2号炉はタービンの事故で止まっており、1号炉も3月15日の停止命令によって運転を停止したばかりでした。お見舞いをかねて志賀町をたずねたところ、地元の何人ものみなさんから、原発が動いてなくて本当によかった、ということを聞きました。

不正をはたらいた電力会社がとるべき再発防止策は、「原発からの撤退」以外にはないでしょう。

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