【原子力資料情報室声明】託送料金は打ち出の小槌ではない

託送料金は打ち出の小槌ではない

―東電福島第一原発事故の賠償負担金と廃炉円滑化負担金の託送回収について―

2020年9月30日

NPO法人原子力資料情報室

10月1日から、送配電各社は東電福島第一原発事故の賠償負担金と原発の廃炉に伴う資産償却分など(廃炉円滑化負担金)を託送料金に計上する新しい託送料金を実施する。

賠償負担金と廃炉円滑化負担金が上乗せされる一方、使用済燃料再処理費用等既発電費等の託送回収が9月30日に終了する。そのため、差し引きで託送料金が値下げになる北海道、中部、北陸、中国の各一般送配電事業者は新しい託送料金になる。値上げになる東北、東京、関西、四国、九州の各社は新型コロナウィルスによる経済環境を踏まえて、1年間値上げを延期するという。

賠償負担金は本来、原子力事業者が負担すべきものだが、経済産業省は2016年に事故に備えてもっと前から資金を積み立てておくべきだったとして、2020年から40年間で合計2.4兆円を、託送料金に計上することとした。また、今回、廃炉円滑化負担金を申請したのは北海道を除く8社だったが、うち3社は100億円未満であり託送料金の値上げにはいたらなかった。

当室が入手した2016年12月14日の第7回東京電力改革・1F問題委員会議事録によれば、日下部 聡資源エネルギー庁長官(当時)はこの賠償負担金の託送回収について、「月額18円程度の託送料金の引き上げになりますが、それに見合う形での合理化を各電力会社は講ずることによって総じて負担総額が増えないような形にすることも決まっています」と説明している。しかし、今回の申請や、電力・ガス取引等監視委員会が実施した申請内容の審査結果を見る限り、こうした合理化が確認された形跡はない。

一方、今回終了する使用済燃料再処理費用等既発電費等は、2005年の電力一部自由化に伴い旧一般電気事業者から特定規模電気事業者(PPS)に切り替えた顧客からも、それまでに発生した使用済み燃料の再処理に伴う費用を回収するとして、2005年から15年間で合計2.7兆円を回収してきた。

今回の申請は当初より、使用済燃料再処理費用等既発電費等の託送回収終了により託送料金が値下げになることに合わせて実施されたものだった。日下部長官は、「東京電力改革・1F問題委員会」の委員を、ひいては国民を欺いたことになる。また、賠償負担金の託送回収を決めた「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」でも、使用済燃料再処理費用等既発電費等に言及しているにもかかわらず、2020年度の託送回収終了を説明した形跡はない。きわめて不自然だ。値上げ分より値下げ分が大きいから問題ないだろうと安易に考えたのではないか。無責任である。

本来、過去積み立てておくべきだった費用が足りないから、過去の利用者に対して負担を要求するのは電力の公共性を鑑みたとしても非常識であることは論をまたない。ましてや、この方針を決めた委員会での国の説明は非常に不誠実だ。経済産業省は責任をもって電力各社の合理化状況を精査し、賠償負担金相当額の合理化を各社に求めるべきである。

以上

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