高燃焼度燃料の危険性
高燃焼度燃料の危険性
上澤千尋(原子力資料情報室)
燃焼度が55000メガワット日/トンを超える燃料棒を使うと以下のようなさまざまな原子炉安全上の問題が出てくる。
原発の燃料の二酸化ウランは、中心部が2000度、被覆感に接する周辺部は300度、というものすごい温度差をもって燃焼さりている。この使用環境の中で、熱伝達(熱除去)に失敗すると、ペレットの部分溶融に至る可能性があることはある程度想像できるが、高燃焼度燃料を使うとさらに際どい状況になる。
●燃料の融点が下がる。
燃焼の制御のためガドリニア(酸化ガドリニウム)をペレットに添加するが、これによってペレットの融点が低下する(数十~百度以上)。一般的に燃焼が進むとペレットにひび割れが起き、熱伝導度が低下する。このため、燃料の溶融事故の危険性(至りやすさ)が高くなる。
●放射性ガスの環境への放出量が増える。
燃焼が進むにつれて放射性ガスの放出量が増える。とくに燃焼度40000メガワット日/トンを超えると、ペレットからの放射性ガスの放出量が際立って多くなる傾向があることが知られている。当然環境中への放射性ガスの放出量も多くなる。
●被覆管が脆くなり損傷しやすくなる。
何サイクルもつづけて燃やすことによって、燃料棒の被覆管(加圧水型炉の場合はジルカロイ-4)が曲がったり脆くなったりして、損傷が起きる。長期間の使用で、被覆管が酸化や水素化によって脆くなって、本来の強度がなくなってしまう。そんなところへ、何らかの要因で局所的に出力が上昇し、それに伴って燃料要素が膨張するようなことがあると、脆くなった被覆管が内圧に耐えられなくなって破損する。被覆管が破損すれば、中の放射能が環境中に放出される。
●制御棒不挿入事故が起きた。
実際に世界のPWRでこれに関連する事故が何例も起きている。アメリカ合州国のサウステキサス1号炉やウルフクリーク原発、ノースアンナ1号炉と、スウェーデンのリングハルス4号炉で、1994年から1996年にかけて、平均燃焼度が40000メガワット日/トンを超える燃料集合体の位置で、制御棒がきちんと挿入されないという事故が相次いで起きた。これは、燃料棒が曲がった際に、それに押されるかっこうで制御棒の挿入路(ジルカロイ-4製の管)も曲がってしまったためであった。制御棒の挿入路だけが、放射線の効果によって伸びてS字状に変形しためという見方もある。
●使用済み燃料の中にアルファ放射体などが増える。
燃焼が進むにつれて、長寿命で毒性の強いアメリシウムやキュリウムが多く蓄積してくる。放射線が強くなり、発熱量も多くなる。
●再処理がより困難になる。
再処理をしないならともかく、使用済み燃料のすべてを再処理することを標榜している日本の電力会社にとっては、これは技術上の問題をもたらすやっかいなものである。使用済み燃料中に溶けにくい白金族元素が増え、さらに上記の通り、強い放射線下で溶媒の能力が低下することが、再処理のあとの工程の安全性に悪影響を与える。
参考
原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会「PWR燃料の高燃焼度化(ステップ2)及び燃料の高燃焼度化に係る安全研究の現状と課題について」2001.12.7
www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g11207gj.pdf