経済産業省「発電コスト検証に当たっての情報提供依頼」への投稿情報
経済産業省は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、エネルギー基本計画の見直しを検討しており、発電コスト検証ワーキンググループでは、当該分科会における検討の参考となる、各電源の発電コストなどについて、検証を行っています。同WGではウェブページを設けて「ワーキンググループにおける議論の参考となる根拠に基づく積極的な情報の提供」を求めています。
そこで原子力資料情報室は根拠に基づく原子力発電コストに関する以下の情報を提供しました。
1.原発建設費について
日本の原発発電コストについて、原子力事業者が発表している原発建設費用を電気出力で按分したkW当り建設費用を2020年の企業物価指数で換算し、運転開始時期別にプロットしたグラフを添付した。これをもとに線形近似を行ったところ、添付資料の通り、建設費用は明確に増加傾向にあることがわかった。概ね改良標準化が完了した1980年以降の建設費だけで線形近似をおこなっても、やはり増加傾向にあった。2015年の試算では原発建設費は4400億円として計算されているが、明らかな過小見積もりだ。原発建設コストは発電コストに大きな影響を与えるが、実際にコスト上昇してきたのだから、保守的に線形近似の延長線上で見積もるべきである。
2.日本の原発設備利用率および稼働年数について
日本の原発発電コストについて、IAEAのデータベース(PRIS)から日本の原発設備利用率平均値を算出したところ、55.67%となった。また、再稼動した9原発のみの設備利用率平均値を算出したところ、68.9%となった。9基の再稼動後の設備利用率だけに限ると、70%台半ばとなるが、数年間のトレンドで長期的な平均設備利用率を算出するのはリスクが大きい。実際に、日本の原発設備利用率は、1990年代後半80%前後で推移したが、2000年代に入り東電のトラブル隠しなどの不祥事、中越沖地震など自然災害の影響から大きく稼働率は低下した。
また、世界の原発稼働年数については、もっとも古い商用原発はスイスのベツナウ原発1号機であるが、これは1969年に運転を開始したもので、稼働年数は52年である。現実に世界で60年稼働を経験した炉は存在しない。IAEA PRISによれば、世界の原発の平均炉年は30.07年である。
米国で80年運転が認可されていることは事実だが、そのことと、原発が実際に80年運転することとは別の話である。実際、米国では60年稼働が認められている原発でも経済的に見合わないとして計画よりも早期に廃止に至るものが複数出ている。同様に日本において60年稼働が認められた原発が60年運転するかどうかも別の問題である。
原発の炉年および設備利用率は発電コストに大きな影響を与えるが、これらの数字は保守的に算出されるべきである。
3.原子力発電コストにおける運転維持費の費目について
原子力発電コストの運転維持費の費目は2015年WG時と同様に人件費、修繕費、諸費、業務分担費とされている。当時のWGでは直近に運開した4基のサンプルプラントについて事業者へのヒアリングを行い、結果、運転期間40年・設備利用率70%の場合、3.3円/kWhとされている。
一方で、現実に再稼動済みの9基の原発を保有する九州電力・四国電力・関西電力は有価証券報告書上で電気事業営業費用明細として、電源種別ごとの人件費や委託費、修繕費といったコストを報告している。
電気事業営業費用明細に計上される情報は基毎ではなく電気事業者全体の費用となっている。関西電力は3基の原発がまだ再稼動していないが、特に、九州電力と四国電力は再稼働できる原発はすべて再稼動しているため、運転維持に係るコストはここに掲載されていると考えられる。
そこで、九州電力の保有原発がすべて再稼働した2018年度以降、四国電力の保有原発がすべて再稼働した2016年度以降、また参考に九州電力の原発再稼動が始まった2016年度~2017年度、四国電力の2015年度、関西電力の原発再稼動が始まった2015年度以降の維持費を算出したところ、添付の表の通り、3.3円/kWhよりは大きな値となった。
運転維持費については理想的な条件で計算するのではなく、有価証券報告書に基づく実績値で計算するべきではないか。少なくとも、有価証券報告書に基づく実績値で電力会社が報告した数値を検証するべきだ。