【原子力資料情報室声明】原子力の皮算用ー求められる冷静な議論ー

2022年1月13日

NPO法人原子力資料情報室

年末来、原発関連の報道が盛んだ。12月にはカナダ・オンタリオ電力公社がGE日立(出資比率米GE60%、日立40%)製のBWRX-300(GE日立が開発したESBWRを小型化した原子炉)を導入すると発表。また、パシフィコ―プ社は、テラパワー社とGE日立が協力して開発した高速炉Natriumの実証炉を米国ワイオミング州で建設すると発表した。1月には、EU理事会が原発とLNG火力をタクソノミー(経済活動が環境的に持続可能であるかを認定する基準)に含める案を示した。こうした動きは、原発が気候変動対策に利用可能だという主張と相まって、新たな原子力ブームが巻き起こっているかのような印象を与えている。しかし現実は違う。

国際原子力機関(IAEA)は、現時点で原発の総発電設備容量は393GWe(GWe=100万kW)だが、2030年に366GWe~460GWe、2050年には394GWe~792GWeに増加すると予測している。しかし、過去の予測を確認すると、低位予測でさえ過剰見積もりだったことが明らかになる。たとえば2010年版の予測を確認すると、2020年時点では低位で453GWe、高位では550GWeもの原発が稼働していることになっていた。実際には2020年時点での原発出力合計は393GWeだ。1GWeを原発1基分とみると低位予測でさえ60基分の過剰見積もりを行っていたことになる。IAEAの過剰見積もりはこの時のことだけではない。

世界の建設中の原発基数は2013年に68基までふえたが2022年現在50基となっている。これは主に中国の原発需要が一巡したことによる。29基まで増えた中国の建設中原発は、現在は12基だ。2016~2020年に廃炉になった原発の平均稼働年数は42.6年だった。現在稼働中の原発が早期に廃炉とならなかった場合、2030年までに稼働年数が42年を超える炉は265基に上る見込みだ(2050年だと362基)。60年、80年稼働の原発があるにせよ、数多くの原発が廃炉になることが想定される。他方、原発の建設期間がおよそ10年程度かかることを考えると、廃炉分の出力を補うためには現時点で数多くの原発が建設中でなければならないはずだ。この基数では、今後寿命を迎える大量の原発を補うことはできない。

小型原子炉については、最も進んでいるNuScale社のVOYGRでさえ、初号機の稼働年は2029~2030年とされている。同社の計画では2023年から2042年の間に674基~1,682基(約34GWe~84GWe)の受注を見込んでいるという。振り返れば2016年、東芝および米ウェスティングハウスは2030年度までに45基(約50GWe)以上(ウェスティングハウス単体では65基(約72GWe))を受注すると見込んでいた。しかし実際には8基止まりで、内2基はコストが嵩みすぎて建設中止に追い込まれた。日立は2017年、基数は示していないものの、英国で当時計画中だった原発建設プロジェクトの経験を踏まえて、米・メキシコ・ポーランド・UAE・サウジアラビア・インド・マレーシア、そして日本に新規建設を推進する計画を立てていた。実際には英国での計画すら撤退に追い込まれた。三菱重工はトルコ・ベトナムへの輸出計画がとん挫した。日米だけではない。フランスの原子力大手Arevaは建設中の原発の建設遅延などから大幅な損失を抱え込み、政府の支援の下再編の憂き目にあった。このような状況を鑑みれば、NuScale社の予想もきわめて楽観的な見積もりだといえよう。

現在、話が進んでいる小型原子炉はいずれも補助金を前提としたプロジェクトだ。イノベーションの死の谷を越えるためというが、本当に次のステップに移れるのか。原子力の歴史を振り返れば、巨額の研究開発費を投じながら商業利用にたどり着かなかった原子炉はあまたある。日本でも高速増殖原型炉「もんじゅ」を1兆円投じながらあきらめたのは2016年12月、わずか5年まえのことだ。そしてこの廃炉には場合によっては1兆円近くの費用がかかる。新型転換炉も原型炉「ふげん」を作りながら、結局買い手がつかず、商業利用されなかった。当室調べではVOYGRを含め小型原子炉は17か国で88種類もの炉型が提案されている。つまり、小型原子炉の買い手は補助金なしに手を挙げることはなく、しかもあまりに多くの炉型が提案されている。小型原子炉市場は事実上、存在しないにも関わらず、過当競争が起きている。

私たちは、原子力の現実を冷静に見つめる必要がある。原子力の黎明期、安価な原発によって、電気は測るまでもないほど安くなるとされたが、現実には、原発の費用は年々増加の一途をたどった。世界の原発の数も1980年には2020年時点で1,600~5,700GWe(1基1GWe換算で1,600~5,700基)になると予測されたが、現実には393GWeでしかなかった。1万炉年に1回の頻度(既設炉の目標)で起こるはずだった過酷事故は、3.5倍の頻度で発生した。小型原子炉が普及した場合、IAEAの新設炉の目標である10万炉年に1回の頻度で過酷事故が発生すると想定しても、小型という名前の通り、小さな原子炉を数多く設置することになるので、事故頻度が大幅に低下するわけでもない。1990年ごろから気候変動に原発をという声は常に聞こえていたが、現実には普及は拡大しなかった。

原子力はコスト・事業リスク・安全性のいずれもが1私企業の許容範囲を超えている。チェルノブイリ原発事故はソ連崩壊の号砲となり、東京電力福島第一原発事故が事故の進展によっては、首都圏数千万人が避難を強いられていたことを考えれば、1国の許容範囲をも超える。

原子力は到底、選択肢たりえない。迫りくる気候変動という危機に対して、無駄に費やしている時間はない。

以上

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