第37回 放射性廃棄物ワーキンググループ奮闘記
『原子力資料情報室通信』第580号(2022/10/1)より
9月6日に放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)が5か月ぶりにオンラインで開催された。このWGの委員である筆者が、その内容を報告する。
経産省による地層処分技術WG再開の提案
文献調査が終盤に差しかかる中、事務局の経産省から文献調査の評価方法に関する説明があった。それによれば、まずNUMOが文献調査段階の評価の考え方を提示し、これに対して、技術的・専門的な観点から、審議会が議論や評価を行うこととした。その審議会については、「科学的特性マップ」が議論の土台となるため、その策定時に具体的な要件や基準について議論をした地層処分技術WGがふさわしいと提案した。委員は、前回同様、放射性廃棄物WGの技術系専門家や日本地震学会、日本地質学会、日本活断層学会、日本火山学会など関連学会からの推薦・紹介を受け、新たに構成するとした。
地層処分技術WG再開への反対と対案
今回のWGの主な議題は、この経産省の提案に対する各委員の評価だった。大半の委員が概ね賛同する中、筆者は地層処分技術WG再開への反対を表明した。反対の理由は以下の通りだ。科学的特性マップは公表後、様々な専門家から批判を受けたが、それに対する十分な検討もしないまま、NUMOはマップを採用し、それに基づいて文献調査を進めた。マップの要件や基準を審議した地層処分技術WGでは、それに対する批判を受け入れ、文献調査の評価を批判的に検証することは困難だと判断されるからだ。したがって、審議会には科学的特性マップに批判的な専門家も多数入れるべきだと主張した。具体的にはまず地学団体研究会を挙げた。この学術団体は、科学的特性マップについて、新たな活断層生成の可
能性の未考慮、水文地質や地下水流動の影響の過小評価などの観点から批判を行っている。北海道内の学識経験者で構成される「行動する市民科学者の会・北海道」も、2016年の地層処分技術WGにおける中間整理に対して批判的見解を発表している。
このような批判的な専門家の参加は、審議会が扱う議題についてもよい効果を及ぼすと考えられる。行動する市民科学者の会・北海道に所属する北海道大学の小野有五名誉教授は日本列島全体を地球上の他地域と比較し、地震、断層、火山、津波、地下水など地層処分への脅威となる地球科学的条件を検証すべきと指摘している。つまり科学的特性マップや文献調査が取り扱うデータや情報の範囲内のみで地層処分への適合性を検証するのではなく、地球的規模での比較・検証作業をせよということだ。
さらに公募推薦制の導入も提起した。応募をした専門家の中から、例えば与野党や北海道知事、さらには寿都町の住民組織が推薦することを検討するよう求めた。文献調査を推進する中央行政機関だけでなく、国会、地方自治体、市民社会からの推薦を募ることで委員構成、扱う議題ともに、よりバランスがとれる蓋然性が高まると判断できるからだ。
対話の場の徹底検証を
文献調査に付随して進行している「対話の場」の徹底検証も提起した。対話の場は、当初NUMOが文献調査の賛否の立場を超えて住民が議論できる場として、自治体と協力して開始された。しかし実質的には、NUMOが地層処分の妥当性を喧伝し、事業説明を行うだけなので、地層処分に反対や懐疑的な立場からの専門家の意見を平等に聞ける場としてはまったく機能していない。反対住民にとっては、地元住民を懐柔する場となっていると感じるのは当然だ。
前回のWGで筆者は、事業の賛否に片寄らない中庸な議論ができる環境づくりなどNUMOが自ら掲げた対話の場の理念を自ら放棄しているので、対話の場は失敗だったと認めるべきだと主張した。その後5カ月経つが、一向に改善の気配がない。したがって、今後よりよい対話の場を実現するためには、文献調査に対する賛成・反対の立場の住民が、公平な情報提供と公正な運営のもと、自由闊達に議論できる場だったのか徹底的に検証することが求められる。その検証チームを放射性廃棄物WGの中に発足させることを提案した。このWGには筆者も含めて、公論形成や科学技術社会論の専門家がいる。そのメンバーに、熟議民主主義理論などの専門家を新たに加えれば、検証チームを作ることは十分可能だ。その際、寿都や神恵内の文献調査反対派住民を招待し、自由に発言してもらう機会を提供することも必要だろう。そうすることで、住民懐柔の場ではない、真に公論形成に必要な条件や基準作りをオープンに議論できる。同様の提案は村上千里委員からも出た。
経産省とNUMOの納得しがたい回答
筆者の問題提起や提案に経産省やNUMOはどう答えたのか?地層処分技術WG再開では文献調査の評価方法に対する根本的な検証はできないという指摘に対して経産省は、前回の地層処分技術WGは学会からの推薦だったので、NUMOの息のかかったメンバーではない。NUMOにとって都合の良い議論になるという指摘は当たらないと反論した。しかし筆者の指摘の核心は、科学的特性マップに対する根本的な検証が必要なので、それを批判している専門家を半数は確保すべきであるという点だ。地層処分技術WGの再開は、NUMOの息のかかったメンバーで構成されるということだとは言っていない。第一、もしそんなことが起きれば、それこそ話にならないレベルの委員構成である。科学的特性マップに対する批判がすでに多くの専門家から出ているので、文献調査の評価の際には、それを踏まえた議論をすべきという指摘にはしっかりと答えなかった。
また経産省は、批判的な専門家を一本釣りすることになったら、それはそれでどうしてその人を選んだのかということにもなる。広く学会に声をかけつつ、小委員長と相談して決定すると説明した。学会推薦では、政府の方針に根本的な批判をする専門家が選出される可能性が低いことは、前回の地層処分技術WGの議論で明らかだろう。その限界を踏まえての筆者の提案に、経産省は正面から向き合っているとは思えなかった。公募については、経産省は、総合資源エネルギー調査会の運営規定で「小委員会等に属すべき委員は分科会長が指名する」と規定されていると回答した。事実上、公募制を拒否した形だ。公募推薦制を採用することで、よりバランスのとれた委員構成になる可能性については回答せず、既存の規定を持ち出すだけだった。
対話の場の根本的な検証の必要性については、経産省は「多様な意見を伺えるよう、日々改善している。いずれ評価のタイミングは来る。中期的な課題だ」という趣旨の発言をした。すでに対話の場は、問題点が露呈されており、その改善のための検証はすぐにでも実施すべき喫緊の課題だ。中期的な課題という認識には大きな疑問を感じた。NUMOの近藤駿介理事長は、対話の場について「自治体が運営をしている。こちらから理想的な民主的プロセスを押し付けることはできない。決定権は自治体にある。NUMOはアイデアについては申し上げるが、それ以上は踏み込むことはできない。そういう制約の中で仕事をしている。そこを理解してほしい」といった旨の回答をした。これは前回のWGの時に筆者が指摘したように、自治体が非民主的で不公正な運営を行えば、それに歯止めをかける手段がないことを意味している。その制度設計の失敗自体がNUMOの行政責任なのだが、NUMOにはそういう意識がないことが明らかになった。NUMOの構造的な無責任を許したままで、対話の場をこれ以上進行させるべきではない。
(高野 聡)