【原子力資料情報室声明】原発推進束ね法案の閣議決定に抗議する

原発推進束ね法案の閣議決定に抗議する

2023年2月28日

NPO法人原子力資料情報室

2月28日、岸田内閣は、原発の運転期間延長や原発利用を推進するための法律を含む束ね法案(GX脱炭素電源法案)の閣議決定を行った。私たちは福島の教訓を放棄したこの決定に断固抗議する。

国民無視

政府は、この間、原発活用に関する国民の懸念に対して、「丁寧に説明していく」と繰り返し述べてきた。だが、本法案は、原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法、再処理法、再エネ特措法を一括して改正しようというものだ。数多くの論点のあるこれだけの法案を一括して審議しようというのだから、丁寧さのかけらもない、きわめて乱暴な提案を政府は行っている。そもそも、法案を策定するまでの議論の段階でも極めて拙速な議論が行われてきた。なぜ、いま、原子力政策を転換しなければならないのか。ウクライナ情勢や、資源価格などが理由として挙げられているが、運転期間延長や原発新増設は何ら関係のない話である。危機に便乗して、原子力政策を推進しようとしているとしか考えられない。

安全性は二の次

それぞれの法案について多くの問題点がある。たとえば、原子力基本法では、原子力利用は安全最優先とすること、安定供給やグリーントランスフォーメーションへの貢献など原子力利用の価値を明確化するという。原子力が安定供給や脱炭素の役に立つかということについても私たちは異論をもっているが、それ以前の問題がある。電気事業法と原子炉等規制法の改正では、原子炉等規制法にあった原発の運転期間規制を電気事業法に移管し、併せてこれまで原則40年、1回に限り最大20年間の運転延長を認めるとしてきた運転期間について、さらに長期停止期間分の延長を認めるよう変更しようとしているからだ。

原子力利用は安全最優先だと言いながら、福島第一原発事故の教訓を踏まえて導入された安全規制である運転期間規制を、規制官庁(原子力規制委員会)が所管する原子炉等規制法から利用官庁(経産省)が所管する電気事業法に移管しようとしている。このこと自体が、原子力安全規制の後退としか言いようがない。さらに経産省の原子力小委員会の取りまとめでは、将来的にはさらなる延長も認めることも視野に入れている。利用が規制に優先されるのでなければ、このような議論はあり得ない。

原子炉等規制法の改正では、これまで原子力規制委員会の規則であった老朽化した原発の評価についても法制化する。政府や原子力規制委員会はこれで規制が厳格化されるとしているが、その厳格化される規制の中身についてはこれから議論を行うとしている。このこと自体が、原子力の安全性は二の次であり、原子力推進ありき、スケジュールありきという政府の姿勢をよく現わしている。

原子力規制委員会は、原子炉の劣化状況はどのようなタイミングでも評価できると説明している。しかし、60年以上運転した原発はそもそも世界に存在せず、また老朽化すればするほど、その運転履歴は素材の特性から原子炉の劣化状態は異なってくる。点検を行ったとしても、その時点の点検でしかなく、将来の安全性を証明するものとは言えない。実際、1月30日に高浜原発4号機がトラブルで自動停止したが、昨年11月25日、関西電力は、20年延長を想定した設備の健全性評価(対象機器数:約4,200機器/基)を行い、「問題のないことを確認」したと発表したばかりだった。

規制と利用の一体化

福島第一原発事故の大きな教訓は、利用と規制の分離だった。事故から12年が経過しようとする中、この分離は大きな危機に瀕している。私たちは脱原発こそが正しい選択肢だと考えるが、原子力の利用においても、原発の廃止においても、厳格な規制は最低限の条件だ。だが原子力規制委員会が行う規制は、原子力利用をすすめるという枠内で行われるため、おのずと限界がある。この間、運転停止命令が出された例はごくわずかで、原子炉設置許可などの取り消しはなされたことがない。審査する側からの誘導や提案による救済もはかられている。そのような形で規制がおこなわれ、さらに規制と推進が一体化した中で、厳格な規制が望みうるだろうか。劣化状況はどのようなタイミングでも評価できるというが、原発の劣化に明確な境界線があるわけではない。大きな不確かさの中で、工学的に判断を行うしかない。このようなとき、規制は安全側に判断できるのか。

さらに、今回の原子力政策変更にあたっては、規制と推進が一体化した姿を見せつけられてきた。原子力規制委員会の複数の委員が異口同音にスケジュールありきで議論が進められたと違和感を表明する事態に至っている。

運転期間の延長を議論する以前の話である。原子力規制の在り方こそが問われなければならない。福島第一原発事故が原子力政策の原点であるなら、GX脱炭素電源法案は廃案にし、12年たって緩み切った規制と推進の緊張関係をどのように担保するのか、厳格な規制はどのようにすれば可能なのかを考えなければならない。それなくして安全神話からの脱却などあり得ず、原子力利用の前提条件は成立しない。

以上

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。