放射性廃棄物WG奮闘記③ 問題だらけの核ごみ基本方針改定案を審議した第38回会合

『原子力資料情報室通信』第586号(2023/4/1)より

2022年9月以来、約半年ぶりに第38回放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)が開催された。特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定案の内容を審議する重要な会合だった。WGはオンラインで開催され、筆者は委員に就任してから3回目の参加となった。審議の中身を具体的に見ていきたい。

◆基本方針改定案の作成過程と内容
基本方針の改定が進むきっかけとなったのが、2022年12月22日のGX実行会議だ。そこで岸田文雄首相は、政府を挙げての文献調査実施地域の拡大を目指すことを指示した。そこからわずか1ヶ月半後の2023年2月10日に開催された第8回最終処分関係閣僚会議で、改定案が公表された。
 改定案ではまず「国は、政府の責任で、最終処分に向けて取り組んでいく」と明記した。そして新しい取り組みを大きく3つ提示した。1つ目は、関係府省庁が連携した体制の構築だ。具体的には、政府が「関係府省庁連絡会議」及び「地方支分部局連絡会議」を設置し、文献調査に応募した地域及び調査に関心のある地方公共団体に対して、当該地域の発展について話し合う。つまり文献調査応募により与えられる交付金を活用しつつ、地域の関心やニーズに応じ、関連分野の支援を実施する。また、国・NUMO(原子力発電環境整備機構)・電力会社の合同チームを結成し、全国の地方公共団体を個別に訪問する方針も打ち出した。最新情報を共有し、対話をするとのことだ。従来行ってきた対話型全国説明会でつながりが生まれた地域を中心に、100ヵ所以上を訪問する目標を掲げた。
 2つ目は、国と関係自治体との協議の場の新設だ。そこで文献調査に関心のある自治体とともに、応募に向けた課題や対応の議論・検討を行い、解決を目指す。まず国・NUMO・電力会社による自治体への戸別訪問や全国知事会での説明会を実施し、そこで関心を持った自治体に協議の場に入ってもらい、徐々に参加自治体を拡大したい考えのようだ。
 3つ目は、関心地域への国からの段階的な申し入れだ。これは、文献調査に関心を示した地域を対象に、文献調査の受け入れ判断の前段階から、経済団体や地方議会など地元の関係者に対し、政府が段階的に文献調査の検討などを申し入れることを意味する。つまり商工会には首長に文献調査を応募するよう働きかけを行うことを、地方議会には調査応募の議案を提出することを呼びかける考えだ。これらの措置によって、調査応募のプロセスを拡大・加速化させたい思惑がある。

◆WGでの筆者による批判
 これらの新しい改定内容に対して、否定的な意見を言う委員がほとんどいない中、筆者は批判と問題提起を行った。まず事前の説明によれば、国・NUMO・電力会社の合同チームによる個別の首長訪問も、国と関係自治体との協議の場も、基本的に自治体名の公表は非公開だということだったので、それに対する批判をした。非公開ということは、交付金に誘導された首長が住民への説明なしに、国と秘密裏に話すことにつながってしまう。構造的に密室の意思決定になりやすく、非民主的だ。この事業は地域住民から信頼されないと前進しないということを国は学んでいないのかと指摘した。国が地域住民から信頼を得たいのなら、最初からフルオープンでやるべきで、それができないのならやるべきではないと批判した
関心地域への国からの段階的な申し入れも問題がある。地方議員、経済団体など地域の一部の有力者だけに応募の働きかけを行うことは、それに関われない多くの地元住民に不信を植え付けるだけだ。一部の勢力への働きかけや利益誘導を強化するような政策手法ではなく、地域住民の透明で公開性の高い参加と熟議に基づいた意思決定の枠組みを導入することを提言した。
 結局、改定案の新しい取り組みは、文献調査が進む北海道寿都町で起こった地域社会の分断という悲劇から何も学んでいない。交付金に誘導された首長が地方議員などごく一部の人とだけ、密室で話し合い、住民への説明なしに突然文献調査へ応募をしたことが、寿都町の分断を引き起こした。改定案による調査応募の拡大・加速化は、地域社会の分断の拡大・加速化に過ぎないと批判した。
 次に、改定案で示された「政府の責任」の意味を追及した。現在の制度では、交付金に誘導された首長による独断専行の応募が可能だ。それでは「交付金目当ての首長が一方的に応募した」という住民感情を拭い去ることはできない。事実、寿都町では文献調査の賛成派と反対派に分かれたことで、住民同士が核のごみの話を避けようと会話が減ったり、お互いのお店に行かなくなったりと豊かなコミュニティの絆は破壊されてしまった。筆者は「政府の責任というのなら、コミュニティの分断による精神的な苦痛を受けた自分たちに賠償でもしてくれるのか」という寿都町民の悲痛な叫びも聞いていたので、その声も紹介した。政府の責任というのであれば、すでに政策の失敗によって地域の分断が起こり、精神的苦痛を受けた寿都の住民に対して、まずは謝罪をするのが筋ではないのか?それができないのなら政府の責任とは何なのか?調査応募の拡大・加速化により、地域社会の分断が他の地域にも飛び火してしまったら、その責任をどうとるつもりなのか質問した。
 改定案作成のプロセスについても抗議した。今回、岸田首相による、政府を挙げての調査実施地域拡大の指示からわずか1ヶ月半で改定案が発表された。しかも最終処分関係閣僚会議で閣僚の了承も得られた。その後にWGで改定案の審議をすることにどれだけの意味があるのだろうか?前回2015年の基本方針策定では、WGでの1年以上の議論や中間とりまとめの作成を経て、閣僚会議に諮るという手順だった。基本方針の改定という重要な事案についてまともな議論をせず、すでに閣僚の了承を得た内容についてコメントをするのが、このWGの役割なのか?順番がまったく逆であり、WGの存在意義を否定されているに等しく、委員として強い当惑と憤りを表明した。このようなことは許されてはならないと思い、仮にこの改定案が閣議決定されても、改定案についてのWGでの審議が不十分だったために、手続き上の正当性が低下したとWGとして表明すべきだと提案した。そのため、委員の採決を求めることを委員長に要請した。
 その他、改定案の内容とは直接関係はないが、経産省の説明資料に、対話の場の総括が表記されていたので、それについても意見を述べた。経産省やNUMOから独立した組織が評価するのか。総括をする際には、対話の場に批判的な寿都や神恵内の住民が、経産省やNUMOに対して、公開の場で意見を述べる機会が保障されるのか問い質した。

◆経産省とWG委員長の回答
 まず首長への個別訪問や協議の場における自治体名の非公表について、経産省は次のように回答した。公表されることによって、関心があったり、文献調査応募を考えている自治体に対して、国から押し付けられるという批判が起こるので、そういった形で首長や自治体に迷惑をかけるのは全く本意ではない。結局、自治体名の公表により、議論がしづらくなるということだ。
 しかしこのような懸念を持たれること自体、国が信用されていない証だろう。最終処分事業や核燃料サイクルなどの原子力行政において、政府の方針に批判的な専門家を交えた大々的な議論や、独立した機関による透明性の高い意思決定過程の欠如が住民不信の原因ではないのか?国の信頼回復のための抜本的な努力を欠いたまま、省庁連携で調査を拡大する姿勢は強く批判されるべきだ。
 政府の責任についても、経産省は、最終処分法に従って、我々の世代で処分場選定に取り組んでいくというありきたりな回答しか示さなかった。この回答こそが政府の無責任さを表している。政府の政策の失敗によって、地域の分断に苦しむ寿都住民が到底納得できる返答ではない。この点を筆者もその場でさらに追及しなかったので、反省している。
 改定案作成プロセスについては、調査地域拡大に関し、事前にメールでの意見照会をし、その内容を踏襲したと経産省は説明した。前回のWGと異なる点に関しては、今後のWGの運営に生かしていくとの回答だった。また、採決を取るべきだという筆者の提案について、高橋滋委員長は、審議会の仕方としては非常にイレギュラーで、採決するまでのものではないとの見解を示した。
 これらの回答は全く誠実さを欠いている。2022年11月に、メールで意見を要請されたのは事実だが、最終処分に関する今後検討すべき対応の方向性のためであり、基本方針改定のためとは説明を受けていない。筆者が参加した過去2回のWGでも、基本方針改定という名目で議題が提示されたことは一度もない。実質、WGでの議論がないのは明らかだ。前回のWGと順序が異なるということは認めたが、それがいかに手続き上の正当性を毀損するかについての反省や説明はなく、今後の運営に生かすという手前勝手な言い訳に終始した。
 同様に、高橋委員長の回答も失望に値する。委員が議題を提出し、それに関して採決を行うことがどうしてイレギュラーなのか。事実、総合資源エネルギー調査会令によると、第6条6項に「調査会は、その定めるところにより、分科会の議決をもって調査会の議決とすることができる」とあり、第8条2項には「調査会の議事は、委員及び議事に関係のある臨時委員で会議に出席したものの過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところによる」と規定されている。まったくイレギュラーではなく、むしろ採決するまでのものではないとして不採決を決断した高橋委員長の決定がイレギュラーではないのか?結局、2人の回答は、WGの審議が完全に形骸化したことを証明するようなものだった。
 対話の場の総括の仕方に関しては、このWGで検証をする予定だが、地域住民の声をどう集約するのかについては、役場や中立的な立場のファシリテーターなど、いろんな意見をできるだけ取り入れるというのが経産省の説明だった。この回答も全く不十分だ。これについては、追加で問題点を指摘した。つまり寿都では町役場が対話の場のメンバーを指名し、大部分、調査賛成派で構成したために、反対派が抜けた。このような都合のいい運営に批判もできないファシリテーターも、反対の住民からは信用されていない。したがって、役場やファシリテーターが総括しても限界があり、このWG委員が推薦する人の声を聞くなどの仕組みを保障すべきだと要求した。
 それに対して、経産省は、できるだけ多くの意見を吸い上げるという趣旨だと思うので、どういったことができるか検討をしたいという、これまた有り体な逃げ口上の答弁だった。最後に高橋委員長は、今後しっかり議論をしていくという方向で、基本的な合意を得たので、基本方針の改定に向けた準備を事務局の方で進めていただきたいと述べた。WGでの議論の積み重ねがまったく足りない基本方針改定案に対して、委員長が事務局の経産省を援護射撃するような発言を述べて、第38回会合は終了した。これでは審議会の議論は官僚の作った案を認めるだけの出来レースに過ぎない。
 残念ながら改定案は2月10日~3月12日のパブリック・コメントを経て、3月中には閣議決定され、成立される公算が大きい。寿都町の分断の悲劇から何も学んでいないこの改定案に対して、市民社会は強い反対の声をあげてほしい。                 

 (高野聡)

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