宙に浮いた新潟県検証総括委員会―東電柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働は?

『原子力資料情報室通信』第587号(2023/5/1)より

新しい規制基準に合格したものの、未だ再稼働できていない原発7基の今後はどうなるだろうか。それぞれが容易には再稼働できない事情をかかえているが、とりわけ東京電力柏崎刈羽原発の6、7号機のこれからが大きな問題である。政府は、全面に立って再稼働を実現させると、GX(グリーントランスフォーメーション)がらみで意気込みをしめすが、その見通しがあるとはいえない。
 東京電力福島第一原発の核惨事は収束の見通しが立たない。デブリの取り出しは困難をきわめている。そして、福島原発核惨事を引き起こした東京電力と国に対して、住民・市民の信頼はすっかり失われたままだ。
 東京電力がおかした犯罪というべき、2002年の原発トラブル隠し事件を忘れてはならない。柏崎刈羽、福島第一・第二原発の計13基の原発で、シュラウドやジェットポンプなどのひび割れの存在とひび割れ箇所の数に改ざんが行われたことが内部告発で表面化した事件だ。社長、会長、相談役、原子力本部長など5名が謝罪し、引責辞任した。このうち4
名は日本財界の重鎮であった。この翌年、新潟県が「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(委員15名、以下、新潟県技術委員会)を設置した。この事件を受けてのことである。

新潟県検証総括委員の解任
 かねて多方面から注目されてきた新潟県の福島原発事故「検証総括委員会」が、2年間も開かれないまま、池内了委員長はじめ、この委員会を構成する委員たちが任期切れで、解任されるという事態が起こった。花角知事の判断である。
 「検証総括委員会」とは、以下の3つの検証委員会での議論を総括して取りまとめ、柏崎刈羽原発の安全性を検討し、再稼働の是非の議論に資するために役立てようと、米山前知事が発足させたものである(2017年9月)。3つとは「福島第一原発の事故の検証」、「原発事故が健康と生活に及ぼす影響」、「万一、事故が起こった場合の安全な避難方法」をいう。し
かし、それぞれの検証委員会の議論の内容は他の検証委員会と少なからず重なり合っていて、総合的な意見交換をとおして、内容を深めることが不可欠である。
 例えば、「避難」時の放射線被ばくは避けられないが、その時の「健康・生活」をどう考えるか。また、「事故」の進展具合は「避難」の方法、経路などに密接に関係する。事故時の情報発信のいかんは避難には極めて重要な意味をもつ。米山知事を引き継いだ花角知事は、総括検証作業が終わらないと再稼働についての議論を始められないと公約してきた。
 したがって、「柏崎刈羽原発の再稼働についての議論」は始められない状態になった。しかし、いずれ、知事の判断で形式的な検証総括と称するものがおこなわれて、再稼働への道が開かれるのではないかと、みられる。岸田政権がGXを掲げて、原発回帰政策を強行しようとしている動きに連動していると推察される。


希有な新潟方式
 2007年の中越沖地震を経験した当時の泉田知事は、既存の技術委員会を拡充して、詳細な検討をめざして2つの小委員会を設置した。「地震、地質・地盤に関する小委員会」(6名)と「設備健全性、耐震安全性に関する小委員会」(8名)とである。この2つのうち前者は3.11の夏まで、後者は3.11直前まで機能していた。その後、自然消滅状態にあり、親委員会にあたる「新潟県技術委員会」が生きている。2つの小委員会には原発に批判的な学者がそれぞれ複数名参加しており、議論は白熱したものだった。頻繁にひらかれた委員会は公開であり、毎回、傍聴者席は県内外からの傍聴者で満席に近かった。
 毎回の委員会終了後は、複数の批判派委員と傍聴者とのあいだで意見交換の場がもたれ、県民の疑問や意見が小委員会へ届く道筋がつけられたのであった。それまでの、そして現在もそうだが、行政がつくる有識者による委員会・審議会は、落とし所が決まっていて、そこに結論がゆくように委員が選ばれる。そういう委員会とはまったく違う、極めてまれな委員会であった。新潟県のこのやりかたが新潟方式と呼ばれたゆえんである。

3つの検証委員会と検証総括委員会
 2011年3月の東京電力福島第一原発核惨事が起こると、柏崎刈羽原発の安全性を検討するために、新潟県は、上に述べた3つの検証委員会とそれらを総括する検証総括委員会とを発足させた。仕組みをつくったのは、泉田知事の次の米山知事である。ただし、既存の「新潟県技術委員会」が「事故の検証委員会」を担当した。検証総括委員会の委員長には著名な宇宙物理学者で科学・技術にかんする考え方、さらに文明論に造詣の深い池内了名古屋大学名誉教授を招いた。
 だが、検証総括委員会が開かれたのは、2018年2月と21年1月の2回だけで、その後の2年間はまったく開かれなかった。その委員会を招集する知事と池内委員長との意見が折り合わなかったため、といわれる。
 2023年3月末に、「健康検証委員会」が報告書を知事に提出して、3つの検証委員会からの報告書が出そろった。さあ、これから、どのように検証総括委員会が議論を総括して総合的な方針を編み出してゆくか、その矢先の知事の解任判断だった。

県民の世論
 東京電力が福島核惨事を起こした当事者であるにもかかわらず、そして、新規制基準に合格したにもかかわらず、不祥事が絶えないありさまに県民の東京電力不信は深まった。安全対策の追加工事は完了したと発表した直後に未了箇所が次々と判明した。核物質防護に対する重大な規則違反が発覚し、原子力規制委員会から核物質移動禁止を命じられ、未だそれが続いている。
 柏崎刈羽原発の再稼働に向けて東京電力は安全対策費として1兆1,690億円を投じてきた(2023年1月時点)。中国電力の6,800億円、関西電力美浜原発の2,700億円などと比べると格段に多い。どうしても再稼働させたい意思のあらわれだろう。
 さる4月9日の県会議員選挙に向けて、地元紙の新潟日報が候補者71名全員に対面アンケートを実施した。「再稼働を認めない」が53名、75%だった。9日深夜に判明した当選者51名でみると74%である。県議会では「再稼働を認めない」が多数派なのだ。県議会の最大会派の自民党(29議席)でも、「再稼働を認めない」と答えたのは17名で、ほとんどが東京電力に原発を運転する能力が無いことを理由にあげた。無所属19名のうち18名が、「再稼働を認めない」と答えている。
 解任されたが池内さんは、県民が何らかの形で議論に参加することが必要だ、東京電力の適格性評価の議論も避けるべきではない、そして、福島事故の検証だけではなく、それを柏崎刈羽原発の安全性議論に、どのように活かせるか、総合的に議論し判断する必要がある、としている。わたしはこれらを強く支持するものである。日本列島に住むすべてのひとが、原発に関しては当事者だという認識が、福島核惨事のおおきな教訓だと考える。


(山口 幸夫)

               

 

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