GX原発回帰政策炉規法・電事法改正の問題点

『原子力資料情報室通信』第587号(2023/5/1)より

 福島第一原発事故後の2012年、当時の与野党合意のもと議員立法で、それまで原子力政策が規制と推進がともに経産省と文科省の下にあったことを反省し、新たに3条委員会の原子力規制委員会(規制委)を発足、経産省の傘下の原子力安全・保安院を改組、規制委の事務局として原子力規制庁を設置した(原子力規制委員会設置法)。併せて、原発の運転期間は原則40年、例外的に20年延長を可能とするよう「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下、炉規法)も改正された。
 第211回国会で審議中の「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」は、炉規法、電気事業法(電事法)など5つの法を改正するものだ。この法改正の問題を運転期間規制の観点からまとめた。

法改正の概要
 今回の法改正では、炉規法にあった運転期間規制を電事法に移管したうえで、現行の40年+20年に加えて、福島第一原発事故以降の長期停止期間(安全規制等の法令等改正に対応するために停止した期間や行政処分・裁判所の仮処分命令などで停止した場合で当該処分が取り消された場合の停止期間)の延長を可能にしようとするものだ。運転期間延長は
経産省が認可する。なお、認可にあたっては原子力委員会の意見を聴くことになっている。

問題点1 規制の後退
原子力の利用は、「事故への反省と教訓を一時も忘れず、安全神話に陥ることなく安全性を最優先とすることが大前提」とされている。安全性は高い独立性を有する規制委が担保する。規制と推進の分離は原子力利用の大前提なのだ。
 今般の法改正では、運転期間延長の許認可は規制委から推進官庁である経産省に移管される。認可にあたっては原子力委員会に意見を聴くことになっているが、規制委には意見を求めていない。
 世界の原子炉運転期間延長認可担当機関を調べると、20か国中(日本含む)、規制機関以外が認可しているのは2か国のみで、この2か国も規制機関が安全性を確認したうえで認可している。つまり、今回の法改正は切り離した規制と推進を一体化するもので安全規制の観点からは明らかな後退だ。

問題点2 規制と推進の一体化
今回改正にあたっては、昨年7月から9月にかけて規制庁と経産省が複数回、面談を重ねていた事実が明らかになっている。7月28日に経産省から規制庁に示された資料には炉規法と電事法の改正イメージとさらに以下のコメントが付けられていた。

 なぜ、経産省が規制の見え方を気にするのか。さらに経産省は8月19日、規制庁に対して、電事法のみならず規制委が所管する炉規法の法改正イメージまでも提示した。まさに推進による規制への介入だ。
 規制庁は経産省傘下の保安院を母体とした組織だ。名前を変えても中身が同じなら、規制と推進の分離は掛け声倒れに終わる。2012年9月の発足から10年たった原子力規制庁の組織は総職員1018人中、経産省出身者は159人、一方幹部級職員45人中経産省出身者は21人、審議官級以上の職員に限ると7人中6人、総括審議官以上に限ると5人すべてを経産省出身者が占める。経産省出身者の幹部職員の比率は異様だ。残念ながら、原子力規制庁の推進官庁からの独立性は極めてぜい弱だ。安全性が最優先なら、それを担保する規制委の手足となる規制庁の独立性の検証と立て直しこそが急務といえる。

問題点3 拙速な検討・規制緩和
 岸田文雄首相は2月15日の衆院予算委で「新たな科学的あるいは技術的知見の存在を踏まえて改正するものでは(ない)」、「構造的なエネルギー需給の逼迫への対応といった利用政策の観点から、運転期間について定め」「安全規制を厳格(にするもの)」と答弁している。この答弁のポイントは①運転期間の延長は科学的・技術的な新知見によるものではなく、エネルギー需給ひっ迫への対応、②改正によって安全規制を厳格化する、という2点だ。
 現存する日本の最高齢原発は関西電力高浜原発1号機(1974年11月運転開始、49年)。今回改正は60年超運転のためのものだから、ここで議論されているのは10年以上先のエネルギー需給構造のことだ。
 運転期間は2022年4月27日、萩生田光一経産大臣(当時)が衆院経産委で「同法の規定見直しを検討している事実はない」と答弁している。今回の改正は2022年8月24日の第二回GX実行会議で突然論点として提示され4か月後の12月22日に「GX実現に向けた基本方針(案)」でまとめられた。
 規制委は2020年7月29日に事業者の長期停止期間を運転期間から除外してほしいとの求めに応じた検討結果を「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」で示した。文書の第一のポイントは「運転期間に長期停止期間を含めるべきか否かについて、科学的・技術的に一意の結論を得ることは困難」だ。第二のポイントは「将来的な劣化の進展については、個別の施設ごとに、機器等の種類に応じて、科学的・技術的に評価(できる)」というものだ。どんな劣化もいつでも評価できるから当然のことを言っている。問題は後の祭りになるかならないかだ。第三のポイントは「利用をどのくらいの期間認めることとするかは…(利用)政策判断」「(規制委が)意見を述べるべき事柄ではない」というものだ。これらは安全規制の放棄だ。どのようなものでも時間の経過とともに劣化していく以上、運転期間をどのように定めるのかは、安全規制の一環だ。だから多くの国では、運転期間の延長認可を規制当局が行っている。
 この見解は、規制委でほとんど議論のないまま決定された。実際、規制委の更田豊志前委員長はインタビューで「(規制委の内部での40年ルール見直し検討は)ほとんどない」と答えている。また2023年2月13日の原子力規制委員会で石渡明委員は「(この文書は)委員会の全体の意志として確固として決定されたというものでは、私は、ないのではないか」と発言している。それでも、この決定は今回の運転期間延長は利用政策判断で決められるという方針の根拠となった。この決定以降、経産省は規制庁とこの決定の解釈について協議してきた。方針は拙速に決定された一方で、運転延長は周到に準備された。そして検討していないと言って国民を欺いてきた。炉規法改正案は、事業者が申請した原発の長期施設管理計画を、10年を超えない期間ごとに認可するという。だが現行の高経年化技術評価制度でも10年ごとに事業者が申請する長期施設管理方針を審査、認められない場合は運転を認めない。つまり今回の法改正は安全規制を厳格化するものではない。
 一方、高市早苗衆議院議員の質問主意書に対する2012年2月17日付政府答弁書で「安全上のリスクを低減するため発電用原子炉の運転期間を制限することとした」と運転期間制限は安全規制の観点から導入されたことを明確に示している。つまり、今回の法改正は安全規制を厳格化するものではなく、規制緩和するものだ。 

                 

 (松久保肇)

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