高レベル放射性廃棄物処分関連の法改正の動きについて

高レベル放射性廃棄物処分関連の法改正の動きについて

西尾漠

 高レベル放射性廃棄物の処分に関連して3つの法律の改正案が今日中にも閣議決定され、国会に提出されようとしている。
①原子炉等規制法の改正案では、処分に対する安全規制の枠組みが(枠組みのみが)盛り込まれる。また、これまで核物質防護の対象外だった高レベル放射性廃棄物が、対象に加えられる。
②特定放射性廃棄物処分法の改正案では、「長半減期低発熱性廃棄物(TRU廃棄物)」が、処分の対象となる「特定放射性廃棄物」に加えられ、高レベル放射性廃棄物との併置処分が可能となる。また、イギリスから返還されるべき中低レベルの放射性廃棄物を「放射能レベルとして等価」と見なされる高レベル放射性廃棄物に交換して受け入れるようにする。
③再処理積立金法の改正案は、上記②に対応するための一部改正である。

 これらのうち②の併置処分について問題点を指摘しておきたい。
 TRU廃棄物とは、TRU(超ウラン元素:ウランより重い元素で、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムなど)をふくむ廃棄物で、再処理工場やMOX燃料加工工場の操業・解体により発生する。「長半減期低発熱性廃棄物」には、TRUのほかに炭素14やヨウ素129などもふくまれている。いずれも半減期が非常に長く、強い放射能毒性を有する。
 こうした廃棄物を高レベル放射性廃棄物といっしょに処分できるようにしようという法改正だが、高レベル放射性廃棄物の処分場候補地調査の公募の際には、ただの一言も説明されていない。法改正が目の前に来てようやく「低レベル放射性廃棄物もいっしょに処分する」と説明をはじめたというが、TRU廃棄物(以下、TRU以外の放射能もふくむ「長半減期低発熱性廃棄物」の意味で「TRU廃棄物」の語を用いる)を仮にいっしょに併置処分すると、それ自体の危険性に加えて、高レベル放射性廃棄物の処分についても悪影響を与える危険性がある。
 それは、TRU廃棄物はセルロースやアスファルトといった有機物や、硝酸塩などの化学物質をふくみ、高アルカリ性の環境をつくるセメント系材料が多く使われているからである。それらが高レベル放射性廃棄物の処分に与える影響としては、以下のようなことが指摘されている。
1.オーバーパックの腐食などへの影響
2.緩衝材(ベントナイト)の止水性などへの影響
3.処分場近くあるいは広域での地下水の流動特性などへの影響
4.同じく岩盤の透水性などへの影響
 結果として人工バリアでも天然バリアでも、放射能をより移動させやすくする可能性がある。
 国や電力業界は、TRU廃棄物と高レベル放射性廃棄物の処分施設を併置するとはいっても300メートル程度の距離をあけてつくれば大丈夫としているが、その根拠はないに等しい。高レベル放射性廃棄物の処分についても、とりわけ広域・長期の影響は、ほとんど未解明だが、それよりさらに知見は乏しいのである。
 線量評価では、高レベル放射性廃棄物処分の最大被曝線量は処分から約80万年後で、年間約0.000005ミリシーベルトとされているのに対し、TRU廃棄物では約1万年後で、年間約0.002ミリシーベルトと、最大被曝予想量は400倍となり、最大を迎えるまでの期間も短い(ともに当時の核燃料サイクル開発機構=現・日本原子力研究開発機構の評価)。この評価値はどちらも数ケタの過小評価が疑えるが、それはともあれ、TRU廃棄物が加わることで危険性がより高く、かつ身近になることは間違いない。
 処分作業時の事故を考えても、アスファルト火災や、炭素14、ヨウ素129の揮発など、TRU廃棄物の危険性は大きいと言えるだろう。
 TRU廃棄物も併置処分されるかもしれないことを始めは隠し、明らかになると問題点を隠す公募のありようは詐欺に近い。

■特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律等の一部を改正する法律案(経済産業省)
www.meti.go.jp/press/20070309002/20070309002.html