原子炉等規制法の改悪が進んでいる!
衆議院環境委員会原子炉等規制法一部改正案についての意見
2017.3.17
伴英幸 原子力資料情報室共同代表
意見1
定期事業者検査に一本化し、原子力規制委員会が定期検査をやめて監視・評価する制度の導入は、原発の安全をかえって損なうことになると考えるので、この改正には反対です。
理由
- 性善説では安全を確保できない
原子力事業者は過去に不正やトラブル隠しを繰り返してきました。この状態は今も変わっていないと考えています(一覧はほんの一例)。
- 電力の自由化でコスト意識がより強まっている
2020年から発送電が分離され、電力は完全に自由化され、原子力事業者のコスト意識もいっそう高まると考えられます。そのような中では安全よりも経済性が重視される傾向がいっそう強くなることでしょう。このような状況で、定期検査を事業者任せにすれば、不正やトラブル隠しが繰り返されることになることを危惧します。したがって、競走環境の中では、原子力に関する規制をいっそう強化しないと安全を確保することができません。
- 法人に対する1億円の罰金は安すぎ、不正防止にはつながらない
記録の不備ならびに虚偽記録に対して、法人に1億円の罰金が課せられることになっていますが、120万キロワットの原発が1日運転すれば、20円kWhとすれば、5億7600万円の売り上げとなります。販売利益が4円kWhとすれば、1日で1億円の利益をあげることになります。これで不正防止に役立つか疑問です。
- 現行の原子力規制庁による定期検査を維持するべき(改正すべきでない)
このような状況を考えると、監視・評価では不十分であり、現行の規制庁による定期検査制度を維持するべきです。さらに、維持した方が規制庁職員(検査官)の訓練・再訓練につながり、育成・能力向上につながると考えます。
- 事前通告なしの検査を法定するべき
IRRS報告(2016年1月)の中に勧告9として「frequency of regulatory inspections( including scheduled inspections and unannounced inspections)」を実施すべきだと書かれています。Unannounced inspectionsを日本語仮訳版では「事前通告なしの検査」と訳しています。フリーアクセスやエスコートフリーとはニュアンスが異なります。勧告を真摯に受け止めて、事前通告なしの検査制度を法定して導入するべきだと考えます。ない、IRRSには原子力規制庁(政府)の検査を省いてよいとは書かれていません。
- 2重の検査が合理的でないと認識するのなら、第3者による検査制度を確立すべき
事業者が行ない、国も行うのは2度手間で合理的でないとの主張がありますが、それなら事業者から独立した検査機関を設置して、全国の原発の定期検査を行えるような制度を導入するのが良いと考えます。
繰り返される不正等一覧
発覚年 | 場所 | 内容 | 対応 |
1976年 | 関電美浜1号機 | 73年3月に起きていた燃料棒折損事故を隠蔽 | 厳重注意 |
1981年 | 日本原電
敦賀1号機 |
冷却水漏れ事故を、運転を継続しながら秘密裏に修理、また、放射性廃液の大量放出事故。 | 6ヶ月間運転停止処分 |
1989年 | 志賀1号機 | 基礎工事に規格外鉄筋使用発覚。 | 工事やり直しされず |
1998年 | 輸送容器データ改ざん | 中性子遮断材の分析データのねつ造・改ざん。発注元の原電工事が改ざん指示 | 放置。機能は維持と評価 |
1997年 | 日立BWRs | 10機248カ所に、1次冷却系配管溶接焼鈍記録の改ざん(10年間) | 交換せず |
1999年 | 関電高浜3号 | MOX燃料の品質保証データのねつ造。4号機のねつ造を関電は否定したが後に認める | 燃料返品 |
2002年 | 東電トラブル隠し | 自主検査記録の改ざん(シュラウドのひび割れなど)。1F、2F、KKで13基29件の隠蔽・改ざん。さらに定期検査の格納容器気密保持試験でも不正(1F-1で2回)。公表まで2年。 | 厳重注意 |
2006年 | 各社トラブル隠し | 甘利経産大臣(当時)の指示で原子力事業者が調査、多数のトラブル隠しを報告 | |
2009年 | 泊3号機 | 使用前検査(減速材温度係数測定検査)データ改ざん(不合格データの削除) | |
2010年 | 島根・敦賀 | 島根:過去数年にわたって511件の点検漏れ
敦賀:40年間未点検(再循環ポンプ溶接部など) |
意見2
廃棄物埋設に関する法改正案に2つの懸念
- 掘削禁止区域の設定は地下施設の範囲であることを明記するべき(51条27関係)
人間による意図的あるいは偶然の侵入により処分場が擾乱されることを避ける必要があることから、規制は掘削を禁止するとともに、その範囲を少なくとも埋設された廃棄物の地下における面積を超える範囲である必要があると考えます。法案は「廃棄物埋設施設の敷地およびその周辺の区域ならびにこれらの地下について一定の範囲を定めた立体的な区域」としていますが、地下の一定の範囲が必ずしも地下処分施設の範囲と明記されていません。
- 地域住民との合意形成がいっそう困難にならないか(51条2の2項関係)
これが具体的にはNUMOが高レベル放射性廃棄物の処分場に第2種廃棄物の埋設を、事業許可を受けないで実施できるようにする法改正です。放射性廃棄物の処分地選定は非常に困難であることが想定されますし、実際に未だに高レベル放射性廃棄物の処分場は決まっていません。そうした状況で、中心度処分の第2種廃棄物もNUMOが扱うとなると、処分場選定に対する地域住民の合意形成がいっそう困難になることが想定されます。2000年に高レベル放射性廃棄物の埋設に関する法律によって、ガラス固化体の処分が法定されました。その後2007年の同法の改正で地層処分相当のTRU廃棄物が加わりました。さらに今般の法改正で中心度処分も加わると、後出しじゃんけんとの謗りを免れないと思われます。そのようなことがないように、事前に十分に周知することが必要です。
- 坑道埋め戻し規制は必要不可欠(51条24の2項関係)
なお、将来に放射性物質が地下水とともに移行して人間の生活環境に達することが想定され、その際の評価された被ばく線量が一定レベル以下であることが求められます。坑道は岩盤を掘削するために、その埋め戻しが不十分に行われると、坑道自体が水の通り道になり、想定よりも早期に地上に放射能が漏出し、被ばく線量と高めてしまう恐れがあります。埋め戻し規制を厳格に行うことは必要不可欠と考えます。