原子力長計策定会議意見書(第12回)
原子力長計策定会議への意見書(12)
2004年11月12日
原子力資料情報室 伴英幸
1. 「核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ(案)」について
第11回会合で直接処分路線の支持を表明しました。事務局から「ご意見の取り扱い」という形で事務局の意見をいただきましたが、当方の意見は変わりません。中間取りまとめ(案)の「基本的な考え方」に同意することは出来ません。また、基本シナリオの評価にもなお異論がありますので、下記に「論点」としてまとめました。
2. 原子力長計に対するさまざまな意見が多く寄せられていますが、それらについて議論されていません。すくなくとも、要請や要望(参考2)については対応を議論するべきだと考えます。
3. 中間取りまとめ(案)は、六ヶ所再処理工場のウラン試験入りにお墨付きを与えるものではありません。佐藤栄佐久福島県知事は「一旦、立ち止まり、全量再処理と直接処分等他のオプションとの比較を行うなど適切な情報公開を進めながら、今後のあり方を国民に問うべきではないか」と提言されています(策定委員あて、8月5日)が、中間取りまとめ(案)を国民に問う作業が必要です。この点については、原子力政策への国民的合意は進んでいないとの平山征夫前新潟県知事の策定会議へのご意見もありますので、重要な作業だと考えます。
具体的には青森での継続討論の要望が策定会議へ出されています。ぜひ、実現させてください。青森に限らず他の地域でも開催してください。また、この中間取りまとめ(案)に対して、パブリックコメントを実施してください。
論点
1. 安全性の確保
クリプトン85の問題について古川路明氏のコメントを添付しました(参考1)。
第11回会合資料3号4ページで、シナリオ<1><2>については、再処理工場、MOX加工工場での事故リスクが高まるとの指摘に対して、「リスクが加わるというほうがより正しい」との回答に続けて、「社会的リスクは、活動が増えた場合、活動ごとのリスク管理水準を変えないとすれば増えることになりますが、活動数が大幅に増えて、この点で有意な差が生じるとすれば、規定当局や産業界が管理水準を変更することになるのが普通」と述べられています。
事故のリスクに加えて、活動ごとの被ばくも加わります。例えば、放射性物質の日常的な環境放出に関する被ばく、これから建設される高レベル放射性廃棄物の貯蔵、操業廃棄物の貯蔵、MOX燃料加工工場およびその廃棄物貯蔵などです。これらに関しては、評価されていませんが、活動が進むにつれ加わってきます。
上記に加えて、六ヶ所村の核燃料サイクル諸施設では、ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設、海外返還高レベル放射性廃棄物貯蔵からの被ばくなどのほかに、これから建設される、海外返還TRU廃棄物貯蔵施設ならびに返還低レベル放射性廃棄物貯蔵・埋設などの各施設などなどからの被ばくも加わってきます。
安全審査の不確実性、被ばく線量推定の不確実性、線量評価の不確実性などを考慮すると、むしろ再処理路線では安全性の確保点で劣っていると考えます。
2. 技術的成立性について
「実施が不可能になるような技術的課題があるか、今後の研究開発が必要かという点を重視して」まとめたとあります。実施が不可能という観点からみれば、高速増殖炉の実用化だと考えます。今後の研究開発が必要という観点からは、直接処分のみならずガラス固化体の処分、TRU廃棄物処分、再処理、MOX燃料加工などでさまざまな課題があると考えます。したがって、全量再処理が最も技術的課題が少ないとは言えないと考えます。
3. エネルギーセキュリティ
3-1. プルトニウムを回収して利用しても、たいしたエネルギーの節約につながらないと指摘してきました。プルサーマル燃料によりウラン輸入量が節約になるとしても、それが本当にエネルギーの節約につながるのか、ライフサイクルアセスメントを行う必要があるのではないかと考えています。ぜひ、この観点からの考察を行ってください。
3-2. エネルギーセキュリティは、総合的に多様なエネルギーとの対比をしなければ意味がありません。とくに、自然エネルギーは各国で飛躍的に成長しており、今後10?20年で飛躍的な増大が見込まれている現実を直視するべきでしょう。ここでは、検討対象外との扱いですが、議論するべき点だと考えています。
4. 環境適合性(中間取りまとめ(案)およびご意見の取り扱いへの反論)
4-1. 潜在的有害度は、放射性物質が環境に漏れて環境負荷を与え、人への何らかの影響を与える可能性があることを意味しています。「低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物は後者の方が処分にあたって解決すべき技術的および社会的課題が多く」(第12回策定会議資料第2号)あるとしても、両者(低レベルには、地層処分対象、余裕深度対象、浅地中処分対象などが含まれる)はそれぞれの規制の下に管理・処分されることから、低レベル放射性廃棄物は環境への負荷はないとはいえません。低レベル放射性廃棄物でも、放射性物質が環境中へ漏洩して環境に負荷を与える、人へ何らかの影響を与える恐れがあります。再処理工場の操業廃棄物の処分に関しては、未だ詳細が決まっておらず今後の課題ですが、地層処分対象、余裕深度処分対象、浅地中処分対象の廃棄物には、ウラン、プルトニウム、ヨウ素129、アメリシウムなど半減期の長い放射性物質が含まれています。汚染源が増える再処理路線は環境負荷をより多く与えることになり、環境適合性の点で劣ると考えます。
なお、放射性廃棄物の総体積量は、申請書の値を参考にすると6倍に(使用済み燃料の体積で比較)、コスト検討小委員会での内容からすれば、再処理工場の解体含めると180倍(クリアランス考慮せず)にもなります。
4-2. 中間取りまとめ(案)では、潜在的有害度を環境適合性をはかる直接の尺度としていますが、地層処分の安全評価という観点からは、再処理によるプルトニウム除去は、被曝線量を低減する効果がまったくありません(図1参照)。被曝線量の評価としては、むしろ再処理工場の運転時に放出される放射性物質による被曝線量のほうが、直接処分におけるプルトニウムの影響より100万倍以上大きくなりますが、中間取りまとめ(案)は、再処理工場運転時の放出放射能の影響は安全基準等と比較して有意なものではないと扱っていますので、再処理による潜在的有害度の低減を環境適合性に優れる理由として扱うのは、矛盾しています。
前回会議の資料第3号では、当方からの同趣旨の指摘に対して、「安全性の議論においては、適切な安全規制の下で実施される限り基本シナリオを構成する諸活動が人に与える放射線影響は十分小さく出来ると考えられるとしています。その意味で、潜在的な有害度の差は地層処分の安全確保の視点からの評価に違いをもたらすものではありませんが、一方で、潜在的有害度の大小は、施設の立地や設計、管理のあり方に差をもたらす可能性がありますので、廃棄体の注目するべき特性のひとつとして表示しています。」という見解が述べられており、潜在的有害度の大小を環境適合性をはかる直接の尺度として位置づけないことと整合しています。
4-3. 全量再処理は使用済みMOX燃料も再処理することを前提としているにもかかわらず、ここでの記述はMOX燃料の扱いが欠けています。使用済みMOX燃料の再処理を含めて考慮すると、1000年後の高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の潜在的有害度は、事務局案の1/8ではなく、使用済みMOX燃料を原子炉取出し4年後に再処理した場合で約1/4、45年後再処理(シナリオ1)の場合で約1/2、使用済みMOX燃料を直接処分した場合(シナリオ2)は直接処分と同じになります(図2参照)。これはウラン燃料のみの場合とウラン燃料+MOX燃料(再生率15%)の場合について、同じ発電量で比較した結果です。潜在的な有害度としては、経口摂取と吸入摂取のうち線量換算係数の大きいものを用いたので、事務局資料とは若干の差がありますがおおよその傾向は合っていると考えています。
廃棄物体積と処分場面積についてもMOX燃料の効果を考慮に入れると、使用済みMOX燃料のガラス固化体の発熱量は、4年後に再処理した場合、ウラン燃料のガラス固化体の約2倍、45年後再処理の場合は約3.5倍であることから(図3参照)、MOX燃料の次世代再生率を15%とし、発電量で規格化すると、直接処分と比較した高レベル放射性廃棄物の体積は中間取りまとめ(案)の3~4割から4~5割、処分場面積は同(案)の1/2~2/3から6~9割に増えます。なお、使用済みMOX燃料を直接処分した場合は、ウラン燃料を直接処分した場合と結果的に同じになります。
5. 核不拡散性
5-1 核拡散への懸念は、単に国内再処理に対して向けられているのではなく、日本の核燃料サイクル政策が他国の再処理を誘引することへの懸念もあります。日本の「既得権」は、日本だけに再処理を許すという「二重基準」を作り出し、この「二重基準」が国際的な緊張を高めることを考えると、再処理策は核拡散性を高めると考えます。
5-2. 核テロに対する危惧が再処理工場からの核物質の奪取に限定されて一面的な議論になっています。各施設への攻撃も考慮されるべきだと考えます。さまざまなテロ対策強化策が整備あるいは検討されているとのことですが、それで防ぐことができるのか疑問です(これらの警備費用は膨大なものになると推察します)。攻撃対象は極力減らすべきで、再処理路線によって攻撃対象は増えます。
5-3. 六ヶ所再処理工場から抽出されたプルトニウムの利用計画の不透明性について、原子力委員会は原子力委員会決定(03年8月)に従って、「事業者はプルトニウムを分離する前にその利用目的を公表することが適切であり、その誠実な実施が期待される」としています。しかし、分離直前の公表では、透明性を高める趣旨に外れると思います。早急に明らかにするべきだと考えます。また、委員会決定では、原子力委員会は計画の妥当性の判断をするとしていますが、この判断基準を示してください。
6. 現実的な制約条件となる視点からの評価について
6-1. 「我が国の自然条件に対応した技術的知見の蓄積が欠如している」と評価していますが(「安全性の確保」の項でも同様の表現となっている)、「自然条件に対応した技術的知見」の意味が分かりません。
6-2. 「使用済み燃料の搬出や中間貯蔵施設の立地が困難になることによって原子力発電所が順次停止せざるを得なくなる可能性が高い」状況は、再処理がうまくいかなければ、シナリオ1でも起こりうることだと考えます(10月22日提出の「脱原発へ!関電株主行動の会」の意見書も参照)。使用済み燃料の管理は、まさに国民的な課題であり、佐藤栄佐久福島県知事が指摘するとおり、あらためて国民的な合意形成の場を作るべきだと考えます。
参考1)六ヶ所村再処理工場からの放出放射能について(再)
原子力資料情報室
古川路明
伴委員を通して提出した文章に対してお答えいただいたことを感謝しています。あの文章には入力ミスによる見苦しい部分があったり、「管理目標値」と書くべきところを「推定放出量」などとしたり、多くの不手際があったことをお詫びいたします。
その上で、再度お願いしたいと思います。以下に、第11回策定会議の配布資料第3号の中に含まれる私の問題提起とそれに対する「お答えと取り扱い」を引用します。
「六ヶ所再処理工場から多くの放射能が放出されているのではないか。」との意見に対して「(前略)環境影響評価では、参考論文に示された各核種(代表的な核種:トリチウム、炭素14、クリプトン85、ヨウ素129)が放出されることを前提に行っており、大気放出及び海洋放出による周辺住民の受ける線量は年間0.022mSvで、これは、法令で定める周辺住民の線量限度である年間1mSvを十分に下回るという評価を安全評価において妥当と判断しております。なおこのうち気体廃棄物による線量は0.019mSv、液体廃棄物による線量は0.0031mSvとなっています。なお核燃料サイクル政策の論点整理でも「放出による公衆の被ばく線量は安全基準を十分に満足する低い水準であることはもとより、自然放射線による線量よりも十分に小さいことを踏まえると、このことがシナリオ間に有意な差をもたらすとはいえない。」と記述しています。」のお答えをいただいています。
また、「六ヶ所再処理工場からの気体状放出量はラアーグ工場の放出量よりも多くなるのではないか。」という意見に対しては「ご意見の趣旨が不明ですが、処理量や廃棄物処理系の異なる再処理工場からの放出量を単純比較することは意味がないものと考えます。 後略」」とお答えになっています。
私は、この対応に満足していません。放射線による周辺住民の被曝については「法令で定める周辺住民の線量限度である年間1mSvを十分に下回る」という評価では不十分と考えています。このような微妙な問題については、最終的な結論のみを出すのではなく、評価の基礎となるデータとそこにいたる解析の過程のすべてを公表していただき、判断を住民にゆだねた方がよいでしょう。そのような努力が住民の信頼を得る道につながると思っています。
この会議では、放射能による被曝線量などの議論はほとんどおこなわれてきませんでしたが、直接処分との関係で炭素-14の環境影響が話題に上がったことがありました。近い将来に予定されている六ヶ所再処理工場の稼動について日常的な放射能放出についてのくわしい情報が委員はもちろんのこと、多くの人に共有されることが望ましいと考えています。対応に手数のかかるお願いと思っていますが、よろしくご配慮のほどお願い申し上げます。
参考2)[略]
10月21日 兼松秀代さんの提案
10月1日 核燃料廃棄物阻止実行委員会 平野良一・鹿内博さんの提案
10月22日 山内雅一さんの提案
10月20日 池野正治さんの提案
8月6日 日本弁護士連合会の提案