寄稿 視点:使用済み燃料再処理は日本のトリチウム問題を拡大する

韓国の 姜政敏 カン・ジョンミン 前原子力安全委員会委員長と当室の松久保が、原子力業界紙Nuclear Intelligence Weekly 3月13日号に、六ヶ所再処理工場の運転開始は、日本のトリチウム海洋放出量を大幅に拡大すると寄稿しました。同誌の特別許可を得て、原文と全文訳を掲載します 。

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日本語版:原子力資料情報室訳(翻訳協力:核情報

日英ともに無断複製等は、禁じられていますのでご注意ください。

視点
 使用済み燃料再処理は日本のトリチウム問題を拡大する

姜政敏 カン・ジョンミン (前韓国原子力安全委員会委員長)
松久保 肇 (原子力資料情報室)

原子力資料情報室に対するEnergy Intelligenceからの許可に基づく翻訳転載

Kang, Jungmin and Matsukubo, Hajime (2020) IN PERSPECTIVE Reprocessing Will Increase Japan’s Tritium Problem. Nuclear Intelligence Weekly, 14(11).

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福島からのトリチウム汚染水の海洋投棄をめぐる日本での議論の中で見過ごされているのは、2022年から商業規模の再処理を始めるという計画である。同計画は、日本が環境中に放出するトリチウムの量を大幅に増加させることになると、韓国の 姜政敏 カン・ジョンミン 前韓国原子力安全委員会委員長と日本の松久保肇原子力資料情報室事務局長は指摘する。



経済産業省の小委員会は2月10日、政府に提出した最終報告書で、東京電力福島第一原子力発電所からのトリチウム汚染水の海洋放出を勧告した。汚染水は法律上の放出基準を満たすように希釈する計画である。これに基づき、経産省は今後、地元の意見を聞いた上で、放射能汚染水を海洋に放出する時期を決める。

福島第一原発では現在、毎日約170トンのトリチウム汚染水が発生している。2019年10月31日現在、約1000基のタンクに約117万トンの汚染水が貯留されている。東電は、2022年夏までに敷地内のタンク増設余地がなくなる可能性が高いとしている。汚染水を太平洋に放出しようとしている理由は、福島第一原発敷地内にタンクを追加するスペースが残っていないというものである。報告書は、敷地外での保管も検討したが、問題の中間貯蔵用地は他の廃棄物用だとの理由で見送られた。

タンク内に保管されているトリチウムの放射能は約900兆ベクレル(Bq)である。 約7割のタンクでは、他の放射性物質の濃度が放出基準を超えている。このため、報告書は希釈・放出の前にこれらのタンク内の汚染水を再度ろ過することを推奨している。

福島県に隣接する茨城県は、トリチウム水の投棄に公式に反対を表明している。福島県の水産業界も経済的被害が予想されることから強く反対している。また、読売新聞の全国世論調査では、有権者の半数以上が反対している。

韓国では、国内の市民団体や環境団体が2月14日に記者会見を開き、日本政府に福島の放射能汚染水を海洋に放出する計画を撤回するよう求めた。2019年9月16日には、国際原子力機関(IAEA)の総会で、韓国科学技術情報通信省の第一次官が、放射能汚染水を海洋に投棄しようとの日本の意向に懸念を表明している。

皮肉なことに、30年前、ロシア海軍が、日本に北端の北海道に近い日本海(東海)に大量の低レベル放射性廃棄物を投棄し始めた時、日本政府は現在の韓国と似たような立場に立たされ、モスクワとの外交論争にまで至った。ロシアは、放射性物質の濃度はIAEAの基準値の大部分を下回っており、投棄は環境に脅威を与えるものではないと主張した。1993年末には在日ロシア大使館前での抗議を含む日韓市民の抗議が相次ぎ、ロシア側は海洋投棄の中止に同意した。

今回の議論で欠けているのは、2022年初頭に大量の放射性廃棄物の海洋及び大気への放出を開始するという日本の計画である。これは青森県六ヶ所村の商業用大規模再処理工場の操業開始によるものだ。

再処理は、原子炉から出てくる使用済み核燃料からプルトニウム、ウラン、核分裂生成物を分離する化学プロセスである。 分離されたプルトニウムは──使用済燃料中の重金属の約1%──は 、費用対効果は悪いが、混合酸化物(MOX)燃料として原子炉で利用できる。また、核兵器の製造に利用される可能性もある。使用済燃料の他の放射性物質は、高、中、低レベルの放射性廃棄物として回収され、貯蔵される。だが、再処理の過程でトリチウムなどの放射性物質が海や大気に放出される。

六ヶ所再処理工場の設計上の使用済み燃料の処理能力は年間800トンで、毎年、約9700兆Bqのトリチウムを海洋中に、約1000兆Bqのトリチウムを大気中に放出することになる。また毎年、 約50兆Bq の炭素14と、約500億Bqのヨウ素129を放出する。この二つの核種は、使用済み燃料を再処理せずに直接、地下に処分した場合、そこからの漏えいで地表に被ばく被害をもたしうる放射性核種のうち、主要な位置を占めるものだ。再処理を正当化する理由の一つとして、そのような放射能の危険を最小限に抑えることがあげられているのは皮肉なことだ。このように、六ヶ所再処理工場からは、毎年、福島第一原発の汚染水に含まれるトリチウムの総量以上の量が大気に、そしてその10倍ものトリチウムが海に放出され、それに加えて、大量のその他の核種が、海や大気に放出されることになるのである。

六ヶ所再処理工場は、この間、国際的な懸念を呼んできた。年間、使用済み燃料を800トン再処理して8トンのプルトニウムを分離する能力をもっているからだ。 8トンというのはIAEAの基準に従えば核兵器1000発分に相当する。他国が日本の例に倣えば、核テロや核拡散のリスクは大きく高まる。

2018年末現在、日本は分離プルトニウムを45.7トン保有しており、そのうち9トンが日本国内に、36.7トンが英仏両国に保管されている。六ヶ所再処理工場で分離されたプルトニウムを加工するMOX工場が完成するのは、再処理工場の稼働よりずっと先のことになるだろう。現在、稼働中の原発の中でMOX燃料を消費できる炉は4基しかなく、その年間プルトニウム消費可能量は約2トンでしかない。六ヶ所再処理工場の稼働は、分離プルトニウムの在庫を増やすだけだ。これは、日本自身のプルトニウム削減政策に反する。

一言で言えば、日本は六ヶ所再処理工場の操業計画を中止しなければならない。なぜなら、この計画は、核拡散と核テロのリスクを増大させ、大量の放射性廃棄物を海や大気に放出し、日本の原子力発電コストを上昇させるからである。事故でたまった福島第一原発の汚染水を海に流すことが国際的な環境倫理に反するとすれば、毎年大量の放射性物質を新たに放出する六ヶ所再処理工場の不要な運転開始は、はるかに大きな違反になる。

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