美浜3号事故調・最終報告について

(1)原子力資料情報室通信370号
美浜3号事故調・最終報告へ リアリティなき「安全第一」
(2)原子力資料情報室通信371号
美浜3号事故の全貌は「最終報告書」でクリアになったか?

※図版は省略

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美浜3号事故調・最終報告へリアリティなき「安全第一」
原子力資料情報室通信370号

 2004年8月9日の関西電力・美浜原発3号配管破断事故から約8ヶ月。総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会のもとに設けられた美浜発電所3号機2次系配管破損事故調査委員会( www.nisa.meti.go.jp/mihama0000001.htm )は3月14日に第9回会合を開いた。
 これに先立って3月1日には関電( www.kepco.co.jp )および三菱重工業( www.mhi.co.jp )が報告書を原子力安全・保安院に提出。事故調の第8回会合(3月3日)でそれに対する保安院の評価が示された。この第8回で対策の不十分さが指摘されたため、両社とも補足説明資料などを第9回に提出している。
 第9回で明らかになった「最終報告書(案)」は3月30日の第10回会合で早くも最終報告書として確定される見込みだが、ここでは3月14日までの情報、すなわち関電・三菱重工の主張および保安院の評価・最終報告書(案)をもとに、問題点を考える。事故そのものや事故調の中間とりまとめ、その後の規格づくりの動きなどについては本誌363号・364号・365号・368号を参照。

隔靴掻痒の「リスト漏れ」ストーリー

 まず事故原因としての「リスト漏れ」であるが(図1)、「原子力設備二次系配管肉厚の管理指針(PWR)」を関電・三菱が1990年に制定したことに伴う「スケルトン図の見直し」時のミスについて、三菱の報告書では以下の事情を推定する。
 「ベテランに過度に頼る状況となっていたこと、各プラントの多量のスケルトン図見直し作業が集中し付番チェックと付番追加という単調な手作業が連続したこと、関西電力殿各プラントの調査工事の計画時期が重なり一時的に負荷が高い傾向にあったこと」「「管理指針」(案)(平成元年9月)では流量計オリフィス下流部は点検対象に含まれていなかったが「管理指針」(平成2年5月)では含まれていたこと、及び復水流量計オリフィス下流部についてはそれまで著しい減肉事象の経験がなかったこと」である。ただし「どのような経緯があって流量計オリフィス下流部が点検箇所に含められることになったのかは、当社の調査では明らかではない」。しかし指針の制定過程には当時の通産省や原子力発電技術顧問も関わっている(事故調第一回議事録)。これに限らず最終報告書(案)に欠けているのは国の関与に関する検証なのだ。
 注目されるのは三菱が「「管理指針」に従い二次系配管経年変化調査工事を行うようになった結果として、1定検・1プラントあたりの点検箇所数は約1/3まで減少した」としていることだ(図2)。「指針」自体が、検査対象を間引く性質をもっていたということであり、84年の「管理要領」による点検対象の増加に音を上げた関電が三菱に「適正化」を依頼した結果と解する余地があろう(なお沸騰水型炉の点検頻度はさらに低い)。
 しかしその後、なぜか美浜3号を除いて次々と「漏れ」が是正されていった。三菱(子会社の原子力サービスエンジニアリング)は泊1号・敦賀2号での減肉について日本アーム( www.narm.co.jp )に連絡しているし、日本アームは事故炉と同サイトである美浜1号での登録漏れを発見・修正したほか、「高浜3号機の当該同一部位での減肉傾向を受け、平成9年に高浜4号機にて当該同一部位の減肉状況を調査した際に登録漏れを発見し、その部位の点検を提案する際、登録漏れについても当社[関電]に伝えた」(関電)。しかし関電は高浜の件を「他プラントには展開しなかった」とするのみで、原因を解明していない。
 さらに関電は、「平成16年7月の大飯1号機のその他部位(主給水管)減肉トラブルを受け、若狭支社は、その他部位も含め次回定期検査で追加点検すべき箇所を抽出するよう各発電所に指示した。美浜発電所は、この指示を受け、点検リストのチェック作業を進める中で、未点検箇所の一部として当該部位を抽出したが、既に次回定期検査において点検する計画であったことを確認した」と説明する。これは新情報と考えられるが、未点検を確認する一方でリスト漏れとしては認識しなかったかのような表現になっているほか、根拠となる文書の開示がない。事故直後は関電も日本アームも異口同音に、美浜発電所は大飯1号問題より前に破断箇所の検査漏れを認識したと説明していた。したがって「若狭支社から各発電所への指示」文書や美浜発電所の「チェック作業」の内容を公開するとともに、日本アームからも報告書を提出させるべきだ。
 いずれにせよ未点検を認識した時点で、配管余寿命の評価をするのが常識的で、「指針」の初期値を用いれば破断箇所の肉厚が極めて薄くなっているであろうことも分かったはずである。にもかかわらず稼動中のその配管の真下に作業員を入れたということになるが、刑事捜査のポイントでもある「未点検を認識した時点」と「余寿命評価の有無」について事故調は特定する作業を深めないまま、品質保証システム一般へと議論を抽象化している。

蒸気は中央制御室に達していた

 この事故で噴出した蒸気は作業員を襲い、主蒸気隔離弁駆動用電磁弁の端子箱などに侵入しつつ、実は中央制御室にも到達していた。事故の起きたタービン建屋は中央制御室のある中間建屋と隣接しており、中間建屋のケーブル処理室を通じて蒸気が中央制御室の制御盤や机にも達していた(図3)。容易に中央制御室が影響されてしまう構造になっていたのである。
 この事実を関電は事故当日に知っていたほか、国の保安検査官も事故当日に制御室に入ったという。しかし9月27日の事故調「中間とりまとめ」でも公にならず、10月はじめに保安検査官が知ったということになっている。しかし保安院も3月まで公表しなかった。関電は12月21日に福井県原子力安全専門委員会( www.atom.pref.fukui.jp )に報告しているが、原子力安全委員会(原子力事故・故障分析評価専門部会美浜発電所3号機2次系配管事故検討分科会 www.nsc.go.jp )に至っては3月に初めて知ったという影の薄さである。
 この問題について関電はケーブル貫通部のシール施工が不適切だったためと推定している。美浜3号だけ特にシール性が弱いはずもないが、保安院は最終報告書(案)で「他プラントにおいても確実な施工がなされているかについて、必要に応じて確認するよう事業者に対して指示を行う」とするのみで、制御系や運転員に影響が生じていたら事故の収束作業がどうなったかの評価はしていない。「水平展開の欠如」が美浜3号事故の要因のひとつであるのに、制御室の問題でもタービン動補助給水ポンプ流量制御弁の問題でも、徹底した水平展開が欠けているように思われる。
 タービン動補助給水ポンプ流量制御弁の問題というのは、補助給水を行なったあと、17:13と18:30にタービン動補助給水ポンプ流量制御弁A,B,Cを開けようとしたところA,Cで失敗した(閉固着した)ことである。この原因について関電は、「当該弁の設計条件に背圧がポンプ停止中の弁開放力を上回るような系統状態を想定していなかった」、つまり弁の前後で上流の圧力よりも下流の圧力(背圧)が高くなっていたためとし(図4)、「弁駆動用バネをバネ定数の大きなものに取替える」ことをもって対策としている。Bだけ開いてくれたのは弁の隙間からのリークにより背圧が低かったからというのである。緊急時のバックアップにも「想定外」があったのだ。
 二次系からの流出量について関電は、885トンという従来の推定を用いるとともに、運転操作による流出量低減のシナリオを検討している。しかし保安院は「被災者は事故発生直後に被災していると推測できることからすると、運転員が流出量を低減させる操作を行ったとしても、必ずしも事故被害の低減に直ちに結びつくものではなかった」「非常用補給水系により原子炉の冷却は維持されていたので、二次系からの冷却水の流出量の多少が原子炉の安全性に影響を与えたことはなかった」と言いはり、被害者救出の遅れや設備への影響、プラント制御の不自然さ(操作できたはずの弁の操作が遅いなど)を黙殺している。
 美浜3号の破断箇所(A系)のほうがB系より減肉が進んで破断したことに関する関電の推定は12月の事故調第7回での情報と同じで、主復水管ヘッダからA系とB系が分岐したあと、A系のほうに強い旋回流が発生していたというものである(図5)。しかし2月に保安院が電力各社に出した「原子力発電所の配管肉厚管理に対する要求事項」でも、9月をめどに日本機械学会が策定を進めている配管減肉管理規格でも、類似した部位で検査を間引く「類推」の手法には未知数の危険(大飯1号での減肉も参照)があるので見直す、ということにはなっていない。

定検短縮は現場の誤解なのか?

 関電は「内圧基準のみによる評価」「ただし書きの誤った解釈による評価」「運転圧力を用いた評価」「降伏応力ベースによる評価」などによる配管交換の先送り事例(PWR管理指針の不適切な運用)を集計したが(3月1日)、早速保安院によってさらに多い集計値に訂正(3月3日)されたと思うまもなく、保安院も集計していなかった管理ミスが美浜3号で数十も発覚する(3月9日)という経緯をたどった(最後の情報は最終報告書(案)には反映されていない)。ところが関電は「これらは事故の直接的な原因ではない」というのである。「不適切な配管減肉管理の常態化」の延長線上に美浜3号事故があるのであり、事故原因そのものではないか。
 一方で保安院も、最終報告書(案)で「現場の第一線では、定期検査工程を優先するという意識が強かった」のは「経営層と現場第一線における認識の乖離」だといい、同じく保安院による事故調資料9-1-1では、工程優先は現場の誤解とまで表現する。一方で定検の短縮自体は悪くないというのだ。
 また最終報告書(案)は「東京電力株式会社が、定期検査中に行った肉厚点検(平成15年5月)により、同社が自主的に定める管理手法で評価した場合に余寿命が1年以下と算定される部位を見つけていたにもかかわらず、次回定検まで配管の使用を継続しても安全上問題は生じないと判断し、運転を継続した」こと(福島第一5号機)を問題視してみせる。昨年10月に保安院自身がこの東電の手法を妥当としたのは何だったのか。国の責任やBWRの問題にもっと踏み込んではどうか。
 「ハード面の安全確保に主眼を置いただけでは適切な安全規制を行うことが困難である」「ソフト面も安全規制の対象とする」「自律的保守管理能力の向上を目指す」という最終報告書(案)であるが、老朽化と自由化にあえぐ電力会社からの規制合理化の突き上げは激しく、「自律的」の背後には規制緩和への渇望がオーバーラップする。幕引きのあとには定検間隔延長・寿命延長の動きが待ち構えており、最終報告書(案)の政治性と二枚舌は保安院自身が安全第一の立脚点に立てていないことに由来する。
 美浜3号事故後も、減肉による水漏れは現に続発している。安全第一なら保安院・事故調は事故原因のリアルな解明とともに、「配管の最大減肉率事例」と「不適切な配管減肉管理事例」の集計を全ての電力会社について洗いざらい実施公表すればどうか。ところがどうしてもそれはしたくないらしいのだ。
 配管管理の実態は底なし沼。その上澄みだけをすくって終止符をうつのが事故調の使命ではないはずだ。(藤野聡=原子力資料情報室スタッフ)

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美浜3号事故の全貌は「最終報告書」でクリアになったか?
原子力資料情報室通信371号

 原子力安全・保安院の美浜事故調(美浜発電所3号機2次系配管破損事故調査委員会)が3月30日に最終報告書を確定した。この日の会合には藤洋作関西電力社長と中川昭一経済産業大臣も姿を見せたが、委員たちは藤社長に対して意見は言うものの、回答は不要とするばかりで、出来レース感を漂わせながら、年度内の終了解散を遂げた。報道は、保安院が関西電力を厳しく批判した、という勧善懲悪式の記事に彩られたが、この最終報告書に原子力安全委員会(美浜発電所3号機2次系配管事故検討分科会)からすら疑問が出ていることはクローズアップされなかった。
 しかし安全委も独立性強化の看板とは裏腹に保安院に情報と主導権を握られている印象は否めず、委員からの疑問を切り捨てた最終報告書案を事務局が作成し4月15日に提示した。同分科会の最終報告書は4月中にまとまる可能性がある。
 保安院事故調の最終報告書は、3月14日の案の段階(本誌前号参照)とおおむね変わらないものとなった。たしかに定検優先が現場と幹部との乖離であるという明示的な表現はなくなり、サリー事故の際の対応など「我が国の対応には反省すべき点が多いと思われる」としてはいるが(これは福井県の要望で入った表現)、「リスト漏れ」の経緯について納得できるほどリアルな独自調査はなされていないし、被災者救出の努力は無駄であったといわんばかりの表現は残ったままだ。まして「少なくとも定期検査前に作業員を現場に入れてはならない」という一言さえ入っていない。
 関電は幾度か再発防止対策の再提出を要求され、藤社長は辞任することとなった。幹部の責任を弱めた報告書でもパスするという甘い見込みから提出してみたところ通らなかったという報道もある。藤社長は3月30日の事故調に「安全を守る。それは私の使命、我が社の使命」と宣言する文書を提出したのだが、その一方、3月16日の長期計画策定会議で「高経年化対策と諸外国で実績のある定期検査の柔軟化や出力増強の導入」「法規制、基準等の見直し」を強く求めたのも同じ藤社長であった。そして事故翌日に「労災事故でなんで社長が辞めねばならないのか。出光興産の石油タンク火災でも、処分は現場だけだ」と述べた秋山喜久会長は留任となった。
 警察による捜査も、遅々として進んでいないように見える。末端の社員だけが起訴され、そのころには規制緩和が相当すすんでいる、というシナリオになるのだろうか。一方で原子力安全・保安部会の高経年化対策検討委員会は4月6日に「高経年化対策の充実に向けた基本的考え方」をまとめた。その行方を注視する必要がある。(藤野聡=原子力資料情報室スタッフ)

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