ウクライナ戦争と原発―続く危機的状況
2024年8月27日
NPO法人原子力資料情報室
2022年2月24日にロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始してから2年半が経過した。双方とも数多くの犠牲が生じている。ロシアは国際法上許されない侵略戦争を行い、人道的危機も引き起こしている。早急に撤退するべきだ。
欧州最大の原発であるザポリージャ原発(6基、計600万kW)は、開戦後すぐにロシア軍が占領した。今もロシア軍の占領下にあるザポリージャ原発は、しばらく発電が続けられたが2022年9月に停止、その後しばらく1~2基が高温停止に置かれ、原発施設や近郊のエネルホダル(エネルゴダール)市への熱供給に利用されていたが、これも冷温停止に切り替えられた。
ザポリージャ原発には複数の高圧送電線が外部電源を供給しているが、この送電線の切断と復旧が度々起きている。また原発に常駐しているIAEA(国際原子力機関)の専門家は、周辺で頻繁に銃撃音・砲撃音が聞こえると、報告の度に述べている。
2023年6月にはカフホカダムが決壊、ザポリージャ原発の水源でもあるダム湖が消えた。ウクライナ・ロシア双方がダム決壊は相手方の攻撃によるものと主張しているが、原因は今もわからない。ただロシア軍侵攻がもたらしたことは疑いの余地がない。
開戦前の2021年8月と2024年8月のザポリージャ原発周辺状況。ダム湖が消えていることがわかる。
現在、冷却水はカフホカダム決壊後に掘られた11本の井戸からの地下水が用いられている。スプレー池に毎時250m3が供給されているという。ほかにザポリージャ原発には周囲10kmもの巨大な冷却池がある。現時点ではこの冷却地は使っていないが、夏の暑さによって、冷却池の水位が日々低下しており、取水が困難になる可能性も報告されている。
8月11日にはIAEAがザポリージャ原発の2基ある冷却塔のうち1号機で火災が発生したと発表した。ウクライナはロシアが放火した、ロシアはウクライナのドローン攻撃によるものだと非難している。当初、ロシアが古タイヤを燃やしたといった情報が流れたが、IAEAは現地調査の結果、損傷は冷却塔の上部に集中しており、火災が塔の土台付近で発生したとは考えにくいと報告している。現時点では、冷却に冷却塔をつかっているわけではないというが、どちらの行為によるものにせよ、危険なことに変わりはない。
IAEAは8月17日、幸い安全に必要な施設への影響はなかったものの、冷却に不可欠なスプレー池の近く、ザポリージャ原発に唯一残った750kV線から100mの位置で、ドローン攻撃により爆発が生じたとも報告している。8月10日にはザポリージャ原発近郊のエネルホダル市の変電所が砲撃を受け、市内全域で停電が発生したとも報告している。また、ウクライナのほかの原発でも同様に空襲警報やドローン攻撃が頻繁に発生しているという。
8月6日のウクライナ軍のロシア・クルスク州への侵攻に伴い、ロシア軍は国境から約60kmの位置にあるクルスク原発の警戒が強化している。BBCによればロシア軍は原発周辺に防衛線を構築しているという。衛星写真を確認すると、実際に、原発から直線距離で16kmの位置に陣地が構築されていることが確認できる。
クルスク原発近郊の状況。主にE38高速道路沿いで2024年7月にはなかった陣地が8月には確認できる(農地の中に作られている直線状の構築物)。最短ではクルスク原発から約7km。
クルスク原発はRBMK型原発が4基(いずれも出力100万kW、うち2基は廃炉中)、すぐそばには最新のVVER-TOI(PWR、出力125.5万kW)型原子炉を2基、建設中のクルスクⅡ原発がある。RBMKは黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉といい、チェルノブイリ(チョルノービリ)原発と同型で、格納容器がなく、事故が起こればそのまま大気に放射性物質が放出されるリスクのある原発だ。
ロシアはウクライナがクルスク原発を標的としていると主張している。8月22日にはIAEAに対してクルスク原発にドローン攻撃があり、敷地内でドローンの残骸が発見されたと報告した。ウクライナ側はロシアのプロパガンダだと反発している。
原発を攻撃する意思の有無にかかわらず、原発周辺での戦闘行為は最悪の場合、放射性物質の大量放出を招くことになりかねず、危険極まりない行為だ。原発への直接の攻撃でなくとも、原発につながる送電網が切断されれば、外部電源喪失のリスクが高まる。
クルスク州での状況を受けてザポリージャ州での動きも活発化している。一歩間違えれば、大惨事になりかねない状況が続いている。ロシア・ウクライナ双方とも、原発周辺での戦闘行為は速やかに中止するべきだ。また繰り返しになるが、ロシアは違法な侵略戦争をやめるべきだ。