六ヶ所再処理工場をめぐる現状

六ヶ所再処理工場が抱える大問題
―ガラス固化体製造と活断層をめぐって―

澤井正子

 六ヶ所再処理工場の実際の使用済み燃料を使ったアクティブ試験は、終盤を迎えています。ところが工場の運転は半年以上止まったままで、さらに今年いっぱい稼働の見込みが立たない状況です。死の灰の塊、高レベル放射性廃棄物をガラスと混ぜて固めるガラス固化技術に大きな欠陥があるためです。この大トラブルのため、7月に予定されていた工場の本格稼働は11月に延期されています。しかしその11月も事実上不可能と考えられます。

他方、工場敷地の耐震安全性について、「国や日本原燃が大規模な活構造(活断層)を見逃している」、という渡辺満久先生(東洋大学)たちの指摘が大きな注目を集めています。六ヶ所再処理工場が抱えるこれらの大問題について報告します。

【ガラス固化体が製造できない!】

ガラス固化

 再処理工場の役割は、使用済み燃料の中のウラン、プルトニウム、高レベル放射性廃棄物(死の灰)を、それぞれ分離することです。工場はアクティブ試験を06年3月31日に開始、同年11月にはプルトニウムの分離が始まりました。死の灰の塊である高レベル放射性廃棄物をガラスと一緒に固める(ガラス固化)試験は07年11月から始まりましたが、同年末には溶融炉という機器のトラブルで運転停止に追い込まれました。
 高レベル放射性廃棄物には多くの種類の放射能が含まれ、非常に強い放射線と高い熱を出し続けます。再処理工場では高レベル廃棄物を廃液の形で大きなタンクに貯蔵していますが、液体のままでは長期間の貯蔵・管理、最終的な処分等が困難となります。そのためガラスとまぜて固めて固化するという方法が考え出されました。これらの作業中は強力な放射線と高い発熱のため、2メートルの壁に囲まれたセル(部屋)の中で、すべて中央制御室からの遠隔操で行われます。ガラス固化体も人間が近づけば数十秒で死亡してしまうような、超危険なものです。

東海からの技術移転

 六ヶ所再処理工場の主要な工程は、フランスのラ・アーグ再処理工場から輸入されましたが、ガラス固化技術は、六ヶ所のパイロットプラントと位置づけられていた東海再処理工場のガラス固化施設(TVF)で開発されたものです。構造は図1のようになっています。上部の溶融炉と呼ばれる耐火性セラミック製の大きな炉(約3m×3m×3m)にガラス原料と高レベル放射性廃棄物を投入し、炉に組み込んだ電極と電極の間に電流を流すことにより炉の中にあるガラス等を溶かします。そして溶けたガラスを、炉の下に設置したガラス固化体容器(ステンレス製キャニスター)に落し、自然に冷やして固めるという作業が行われます。
 溶融炉でガラスを溶かす温度は、約1200℃という高い温度を一定時間保持する必要があります。東海工場のTVFでは、溶融炉の温度管理がうまくできないと高レベル廃液に含まれる白金族元素(パラジウム、ルテニウムなど)などが溶融炉の下部に堆積してしまい、炉の出口をふさいだり、ガラス固化体容器にうまく流下しないなどのトラブルが多数発生していました。この溶融炉の持つ構造的な欠陥は、なんら解決されないまま六ヶ所再処理工場に「技術移転」されたようです。


図1
日本原燃資料 www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdf より[添付資料?2(3/3)]

白金族対策なし

 07年11月から行われた六ヶ所再処理工場のガラス固化体製造試験は、60本のガラス固化体を製造しました。しかし溶融炉の温度を予定通り1200℃に保つという運転条件を維持することができず、結局炉の底部に白金族元素が堆積しガラスの流下がうまくできなくなって中断してしまいました。そのため日本原燃は、国から再試験を命じられました。
 試験中断から半年後の6月上旬、日本原燃は「高レベル廃液ガラス固化設備の安定運転条件」なるものを国に提出しました。日本原燃の言う白金族元素堆積の対策と安定運転条件とは、1)廃液調整。白金族元素金を含まない低模擬廃液(劣化ウラン廃液)をわざわざ製造して高レベル廃液に混ぜ、白金族の濃度・成分を調整する(薄める)。2)白金族元素堆積の兆候が現れたら放射性廃液を入れずガラス原料だけを投入する。3)それでもだめな場合は、溶融炉内部に棒を挿入してかき混ぜる。4)それでもだめな場合は全廃液を溶融炉から抜き出す。これは白金族対策というより、単なるその場しのぎ的対応でしかありません。白金族元素堆積の問題は何も解決されていません。それでも国はこのような運転方法にお墨付きを与えたのです。

再試験も半日で失敗

 日本原燃は、半年ぶりに7月2日12:00からガラス固化の再試験を開始した。1200℃に熱せられた溶融炉に高レベル放射性廃液が供給され、21:11には、ガラス廃液の流下が一瞬確認された。が、流下はすぐに止まってしまった。再度の加熱が行われたがガラスは流下せず、23:11に溶融炉の警報が「液位 高高」を発報、インターロック(安全装置)が作動して、試験は再度失敗して終わった。日本原燃によれば、溶融炉の温度管理は問題なかったが、溶融炉とガラス固化体容器をつなぐ流下ノズルの温度が上がらず、ガラスが固まった可能性があるという。事故原を究明のため「結合装置(直径約40cm、高さ約1m)」全体を取り外して調査が行われる予定です。そのため、7月に予定されていた本格稼働開始は、11月に大幅に延期されました。しかしこの日程も事実上不可能と考えら、本格稼働は来年になる可能性が高い状態です。ガラス固化体製造工程で次々とトラブルが発生し、その対応さえままならないのです。
 ガラス固化体が安定的に製造できることは、国の再処理事業許可の前提条件です。六ヶ所再処理工場にガラス固化体製造能力がないのであれば、当然アクティブ試験を含めた工場の稼働、事業許可の再検討が行われるべきでしょう。

【工場直下には活断層】

撓曲構造を確認

 ガラス固化体のトラブルに加えて、さらに工場の真下に活断層があるのではないかという、国の安全審査の内容を根本的に揺るがすような問題提起が行われています。東洋大学の渡辺満久先生らのグループは、国土地理院の空中写真による変動地形の判読と六ヶ所村の現地調査によって、六ヶ所核燃料サイクル施設の東側に、地形の大きなたわみ(撓曲:とうきょく)があることを確認しました。撓曲というのは、地下深くで活断層が活動しても地表近くの地層が柔らかいと、地表がグニャッと曲がったり、たわんだりするためにできる地形です(図2)。この撓曲構造があれば、その下には活断層があると考えるのが、「変動地形学の学問的常識」と先生は説明しています。

図2(渡辺先生資料より)

 六ヶ所再処理工場の国の安全審査では、出戸西方断層(でとせいほうだんそう)が、敷地に大きな影響を及ぼす活断層として審査されています。渡辺先生らが指摘するこの撓曲構造は、出戸西方断層を含む大きな地形的・地質的な活構造です(図3)。この活構造(活断層)が本体で、出戸西方断層はその枝分かれ断層と言ってもいいでしょう。断層は全体で約15キロメートル、地下で西側に傾斜し、再処理工場の直下にまで達している可能性が考えられます。

図3

 さらに「この断層の北側は下北半島沖の海中にある大陸棚外縁断層(たいりくだながいえんだんそう)とつながり、南側はむつ小川原湖近くにまで延びている可能性がある」と、渡辺先生は指摘しています。長さが85キロメートルもある大陸棚外縁断層が活断層かどうかという議論は、専門家の間でも見解が分かれています。国の安全審査や日本原燃の主張は、活断層ではないというものです。しかし渡辺先生らは陸上の部分に注目し、活断層(出戸西方断層)を伴う撓曲構造を確認し、これが大陸棚外縁断層の南の延長にある(したがって大陸棚外縁断層は活断層である)ことを指摘しているのです。

耐震安全の再検討を

 六ヶ所の断層問題の主要なポイントは、大きく二つあります。一つは再処理工場が土地が折れ曲がるところにあるので、揺れに対する対策、土地がズレることに対する対策を日本原燃が行っているかどうか、という問題です。土地がズレるというようなことがあるとすれば、地震の「揺れ」に対応することしか考慮していない現在の耐震設計や耐震構造などで、施設の安全対策が十分なのかという問題提起です。

 もう一点は、耐震安全対策として活断層の長さを最大限に見積もる必要があるということです。日本原燃は2007年11月に原子力安全・保安院に提出した『耐震バックチェック報告書』の中で、出戸西方断層を震源とする地震について、断層の長さを6キロメートルとしてマグニチュード5.6の地震による評価を行っています。不確かさを考慮して断層長さを13.2キロメートルにのばした評価(マグニチュード6.5)もあります。さらに念のためと称して、柏崎刈羽原発を襲った中越沖地震を考慮したモデルとして断層の長さを20キロメートル(マグニチュード6.9)のケースも計算し、建屋や構造物、機器などに影響がないことを示そうとしています。しかし本当に考えるべき地震は、出戸西方断層を含み大陸棚外縁断層につながる約100キロメートル超の大活断層によって引き起こされるマグニチュード8.2以上の巨大地震です。国や日本原燃は、この巨大地震のユレとズレに対する再処理工場の施設の健全性を示すべきです。

活断層見逃しを反省しない日本原燃

 日本原燃は敷地東側の撓曲構造を完全に見逃しています。土地が曲がったりズレたりして再処理工場の建物自体が壊れるという危険性を考慮していません。さらに問題なのは日本原燃がホームページなどで、今回の渡辺先生たちグループの発表について、「科学的根拠に乏しい一方的推論である」、「立地地域の皆さまを中心に多くの方々をいたずらに不安に陥れる内容」と批判し、この問題提起に対して科学的な対応を取ろうとしていないことです。先生たちは、「どこが科学的でないのか、きちんと反論としてほしい。科学的な議論を行いたいし、行う準備がある」とのべ、このホームページの内容の削除と、科学的議論を求めています。再処理工場の安全を確認するためにも、国や日本原燃はこの問題提起に真摯に対応し、堂々と科学的議論を行うべきでしょう。

関連情報

ガラス固化体問題について
『六ヶ所再処理工場 ガラス固化体再試験も失敗』
cnic.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=134

活断層問題
『六ヶ所村周辺の変動地形から見えてくること』
渡辺満久(東洋大学社会学部)
cnic.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=135

【日本原燃】
8/19 高レベル廃液ガラス固化設備
ガラス溶融炉における流下停止に関する対応状況について
www.jnfl.co.jp/event/080819-glass.html

7/30 定例社長記者懇談会挨拶概要
www.jnfl.co.jp/jnfl/president-talk200807.html

7/11 再処理施設高レベル廃液ガラス固化建屋ガラス溶融炉における
ガラスの流下停止について(経過報告)
www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/pr080711-a.html

7/3 ガラス溶融炉運転性能確認試験の停止
www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/pr080703-1.html

6/11 再処理施設 高レベル廃液ガラス固化設備の安定運転条件検討結果報告について
www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/pr080611-1.html

2/4 再処理施設アクティブ試験(使用済燃料による総合試験)
第4ステップにおける高レベル廃液ガラス固化設備の試験状況報告について
www.jnfl.co.jp/press/pressj2007/pr080204-1.html

【報道記事】

再処理工場 年内の本格稼働は困難
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080730a.htm

【解説】金属堆積とは別問題 国産技術に疑念の恐れ
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080704b.htm

固化体製造また中断 再開わずか1日で
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080704a.htm

固化体製造再開を容認/核燃サイクル安全小委
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080701a.htm

固化体製造は”落第寸前”核燃料サイクル安全小委
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080215b.htm

六ケ所・再処理工場 課題抱えたまま本格稼働へ
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080101b.htm

【地元の報道は下記サイトもご参照ください】

東奥日報(むつ小川原、核燃料サイクル施設)
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/index.html

デーリー東北(核燃料サイクル)
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/kakunen-top.htm