【原子力資料情報室声明】政府の拙速で一方的な高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針改定の動きに抗議する
2023年2月8日
原子力資料情報室
報道によると、政府は2023年2月2日に高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定案を与党に示したという。改定案の中身は、省庁をまたいだ連絡会議の新設、原子力と関係が深い自治体首長らとの協議の場、自治体が受け入れを判断する前から地元の経済団体や議会に国が申し入れを行うことなどが含まれているということだ。
2022年12月22日に開催されたGX実行会議で岸田文雄首相が、文献調査の実施地域の拡大のために政府を挙げて取り組むと指示した内容が反映された形だ。しかしこの間、高レベル放射性廃棄物政策に関する議論を行ってきた、経済産業省の審議会である放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)で一度も議論されていない。これでは放射性廃棄物WGの存在意義が疑われる。重要な内容を含む基本方針の改定案の作成を、このような形で拙速で一方的に実施したことに対し、政府に厳重に抗議する。
この基本方針改定の動きがどれだけ異様かは、前回の改定作業と比べれば明らかだ。前回の基本方針の改定は2015年5月に行われた。2013年7月に設立された放射性廃棄物WGで、当初から基本方針改定に関連した議論を積み重ね、その内容を集約したうえで、事務局である経産省が改定案を作成した。この時のWGでの議論も、委員に原発反対派が少数であったり、委員同士が自由に議題を設定し、じっくり長時間議論をするような熟議に欠いているなど、限界はあった。それでも2015年2月17日に開催された第17回WGでは、経産省のHPに基本方針の改定案も資料として公開され、議論の様子はインターネットで中継された。
これに対し、今回の岸田政権の基本方針改定プロセスは、放射性廃棄物WGでの議論をまったく無視した独断的で非民主的なものと言わざるを得ない。当室の研究員である高野聡もこのWGの委員であるが、改定案の内容は知らされていない。経産省のHPを通して国民にも公開されておらず、与党にのみ共有された形だ。これは政府と与党による密室談合政治と呼ぶべきものだ。公正さと熟議に欠いたこのような基本方針改定案が拙速に確定され、それに従って文献調査の実施地域を探すことになれば、北海道寿都町で起こったような地域社会の分断という悲劇が繰り返されることは火を見るよりも明らかだ。政府はこの改定案を即時白紙撤回し、まずは放射性廃棄物WGでの議論を開始すべきだ。さらには一般市民と多様な利害関係者による参加と熟議を基本にした、より公正で、透明な、正当性のある意思決定プロセスの確立が求められる。
以上