【原子力資料情報室声明】地域社会の分断を加速化させるだけの「核ゴミ」最終処分の基本方針改定案に反対する
2023年2月16日
原子力資料情報室
岸田政権は2023年2月10日に最終処分関係閣僚会議を開き、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定案を公表した。この基本方針は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律に基づき、高レベル放射性廃棄物に関する政策の基本的方向などを定めるものだ。2022年12月22日に岸田文雄首相がGX実行会議で政府を挙げての文献調査の実施地域の拡大を指示したことを受け、基本方針の改定という形で、今後取りまとめられる。今回、その改定案が示された。またこれに対するパブリック・コメントが3月12日まで実施されている。
改定案の内容は、一言でいえば、最終処分選定プロセスの加速化だ。そのための手段として大きく3つ挙げられる。1つ目は、関係府省庁が連携した体制の構築だ。具体的には、政府が「関係府省庁連絡会議」及び「地方支分部局連絡会議」を設置し、文献調査に応募した地域及び調査に関心のある地方公共団体に対して、当該地域の発展に関して、相談を受け付ける。つまり電源立地地域対策交付金等を最大限活用しながら、地域の関心やニーズに応じ、関連分野の支援について話し合う。また相談を受けるのを待つだけでなく、国・NUMO(原子力発電環境整備機構)・電力会社の合同チームを結成し、全国の地方公共団体や関係団体等を個別に訪問し、働きかけを強めるという。2つ目は、国と関係自治体との協議の場の新設だ。政府は、文献調査に関心があり、その応募に関する問題意識を持った地方公共団体を集め、最終処分の実現に向けた課題や対応等を、その協議の場で議論・検討する。3つ目は、関心地域への国からの段階的な申し入れだ。これは、文献調査に関心を示した地域を対象に、文献調査の受け入れ判断の前段階から、経済団体や議会など地元の関係者に対し、政府が段階的に文献調査の検討などを申し入れることを意味する。
この選定プロセス加速化の基本方針改定案に対し、当室は反対の意を表明する。なぜなら日本の高レベル放射性廃棄物政策は、前提から誤っているからだ。特定廃棄物最終処分法では、その目的を「発電に関する原子力に係る環境の整備を図る」としており、事業主体のNUMOは最終処分業務を「原子力の適正な利用に資するため」に行うとしている。つまり処分場選定プロセスが原発推進と紐づいている。だが原子力発電の継続的な利用に関して社会的合意はない。さらに2022年に26回目の運転延期が決定された青森県の六ヶ所再処理工場の現状からわかる通り、核燃料サイクルはすでに破綻しているにもかかわらず、使用済み核燃料を全量再処理し、ガラス固化するというありえない最終処分政策が堅持されている。地層処分に関しても、賛成・反対の専門家を交えた大々的な議論は不足しており、こちらも合意が取れているとは言い難い。合意のない、誤った前提に立った政策をより強力に推進すれば、社会の反発が強まるのは目に見えている。
ましてや改定案のように、交付金を足がかりにして、地域への介入を強化すれば、交付金目当ての首長や一部の団体が、一方的に無理やり文献調査を推進する可能性が高まる。そうなれば地域社会の分断の拡大・加速化は避けられない。実際に文献調査に応募した北海道寿都町では分断が起こっている。当室は何度も寿都町を訪問したが、NUMOが交付金の使途を話し合うという理由で、寿都の町づくりに介入することに強く反発する住民の声を聞いている。このままでの選定プロセスの加速化は、地域社会の分断の加速化となるだろう。政府およびNUMOは、寿都町での過ちを繰り返してはならない。
政府のやるべきことは、寿都町の教訓を深く胸に刻み、選定プロセスを加速化するのではなく、それを中断することだ。そして政府は2012年に日本学術会議の報告書「高レベル放射性廃棄物の処分について」が示した提言に立ち返るべきだ。そこでは使用済み核燃料の暫定保管や総量の規制、金銭的手段による誘導の見直し及び独立的な第三者機関による段階的議論が提起されている。政府は、長期の暫定保管の間に、核廃棄物政策を包括的に議論できるような独立性の高い公論形成の場を創設する必要がある。市民や利害関係者による参加と熟議を促し、より透明で公開性の高い公正な政策プロセスを確立することなくして、最終処分場選定を進めるべきではない。なにより核燃料サイクルを放棄し、脱原発を実行することで、これ以上核のゴミを出さない政策決定をすることが現世代の責任を果たすことだ。
以上