シンポジウム「原子力と核 私たちは管理できるのか」報告

『原子力資料情報室通信』第591号(2023/9/1)より

7月31日、当室は超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」との共催、また、ウェブサイト核情報、原子力市民委員会の協力で、「シンポジウム 原子力と核 私たちは管理できるのか」を開催した。当日は、会場に40人程度、ウェブ参加を合わせると200人を超える参加者を得た。(当日資料はcnic.jp/47299に掲載)

韓国の核・原子力政策
まず、原子力・核問題のアナリストで元韓国原子力安全委員会委員長の姜政敏(カン・ジョンミン)氏から韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権下での原子力政策の転換と、核政策の現状について報告いただいた。
 韓国では、文在寅(ムン・ジェイン)政権で取り消された新ハヌル3・4号機建設計画を再開した。さらに原発の寿命延長も進めており、文政権下では2030年の電源構成に占める原発比率は24%だったものが32%に、一方再生可能エネルギーは30%から22%に削減されている。また、韓国政府は小型モジュール炉(SMR)への傾斜を強めており、2030年には韓国型SMRの輸出を目標として、官民合同で連合体を発足させ、SMR国家産業団地の建設に6500億ウォンを投じるという。またSMR関連の技術開発予算を800億ウォンに増額する。これ以外の支出も含めると原子力関連研究開発費は2675億ウォン(前年度2471億ウォン)となっている。
 尹政権下での原子力拡大政策で懸念されるのが規制緩和だ。近年の原発建設許可の申請から承認までの期間は38~55か月だった。ところが、その期間が新ハヌル原発3・4号機の場合は短期化することが想定されている。原発の寿命延長にかんしても同様だ。政権の原子力政策によって規制が左右されている。
 2006~2017年まで計6回の核実験を行った北朝鮮は現在プルトニウム40kg、高濃縮ウ ランを1000kg以上保有しているとみられる。2022年9月には北朝鮮は核先制攻撃の可能性を示した「核武力法制化」を宣言、さらに2023年1月には戦術核の使用対象を韓国だと明示、さらに戦術核弾頭「火山(ファサン)31」などを公開した。一方、尹政権は米国との核協議グループ(NSG)の新設など核抑止力の強化を図っている。朝鮮半島では相互が滅亡する核戦争の危機に置かれている。
 文政権では基本的に相互尊重と対話による南北関係を築こうとした一方、尹政権は7月、「強力な力と抑止力による平和が最も確実で信頼できる」と明らかにしている。核武装についても1月、北朝鮮核問題が深刻化すれば、米国の戦術核の国内再配備か、自国の核保有もありうるとした。4月26日の米韓首脳会談とワシントン宣言で、核拡散防止条約や韓米原子力協定の義務遵守を再確認し、韓国の独自核武装や米国の戦術核国内配備を否定したが、4月28日のハーバード大学での講演で、核開発を1年以内にできる技術基盤を韓国は持っているとも述べている。
 韓国の保守層は、旧ソ連崩壊時にウクライナに残った核兵器をウクライナがロシアに返還したことがロシア侵略の理由となったとみている。このような考え方は独自核武装論やそれに対する世論の支持を高めるものだ。
 1970年代の朴正煕(パク・チョンヒ)独裁時代、韓国は秘密裏に核兵器開発を行おうとした。当時は米国がこの計画を中断させることに成功したが、今日でも、韓国は使用済み核燃料再処理の研究開発を進めている。また技術レベルが低くとも兵器級の高濃縮ウランの製造が可能であることも知られている。ミサイル開発についても当初は射程が制限されていたが、北朝鮮の脅威の増大とともに緩和され、現在は完全に解除されている。2020年に開発された玄武(ヒョンム)4弾道ミサイルは射程距離800km、搭載量2000kgで、北朝鮮全域と中国、ロシアなどに核兵器を投下できる。
 このような核の緊張を削減するために、私(姜)は、米・中・北朝鮮の3か国が朝鮮半島内、または周辺で核を使用しない、核による威嚇を行わない「朝鮮半島核兵器先制不使用」宣言を行うことを提案する。朝鮮半島という地理的に制限された先制不使用宣言であれば、他の米同盟国に対する米国の安全保障に影響がすくないため、包括的な先制不使用宣言よりも反発を減らすことができる。また朝鮮半島での核実験禁止宣言を提案する。これにより北朝鮮による核弾頭の更なる開発を阻止し、韓国の核兵器開発を防ぐこともできる。さらに、南北朝鮮と日本が核兵器として利用可能な核分裂性物質生産禁止を宣言することも提案する。核分裂性物質の生産禁止は非核化のための最も基本的な方法だ。

日本のGX原発回帰政策と核問題
 続いて、松久保が岸田政権下での日本の原発回帰政策で懸念される規制の劣化と、日本が世界の核の緊張を維持させてしまっている現状を報告した。GX(グリーントランスフォーメーション)政策では、原発が脱炭素・電力安定供給の大きな軸となっており、原発の寿命延長や新設方針が示された。この中では、韓国の状況とも似て、規制緩和が懸念される。さらに核兵器廃絶に取り組んでいるはずの日本が国際社会からは潜在的核保有国とみなされている現状と、それを好都合だとみている日本の有力者たちの発言、そして、米国の先制不使用に反対している日本という現実を見据え、核燃料サイクルを止めるべきだと主張した。

GX政策と核のリスク
 さらに鈴木達治郎長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授にGX脱炭素電源法のもたらすリスクと北東アジアにおける核使用リスクについて指摘いただいた。
 GX脱炭素電源法では、原発積極活用によるコスト・リスクは増大するが、それによる利益は不透明であり、さらに原子力基本法改正では国が原子力を推進することとしたが、政策そのものの合理性・必要性が不透明な状況で基本法にそのような規定を盛り込むことの危険性が指摘された。むしろ福島事故の教訓を踏まえて原発依存度低減と推進・反対にかかわらず必要な政策措置を優先するべきだ。また、RECNAの報告書「北東アジアにおける核使用の人道的影響:核リスク削減にとっての示唆」から、核戦争の5つの核兵器使用事例の紹介と、核戦争リスク低減のためにとるべき方策が紹介された。

プルトニウムの分離を禁止する
 また同日、「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」の調査レポートNo.20「プルトニウムの分離を禁止する」の翻訳改訂版を公表した。シンポジウムでは、筆者で翻訳者でもある田窪雅文氏(ウェブサイト核情報主宰、プリンストン大学「科学・世界安全保障プログラム(SGS)」コンサルタント)に同報告書の概要を説明いただいた(報告書ダウンロードはcnic.jp/47467)。
 なお、シンポジウムでは、共催いただいた「原発ゼロ・再エネ100の会」の阿部知子衆議院議員(立憲民主党)や櫛渕万里衆議院議員(れいわ新選組)、服部良一社会民主党幹事長なども参加、さらに、福島第一原発のALPS処理汚染水問題で来日していた韓国の姜恩美(カン・ウンミ)議員(正義党、国会議員(韓国は一院制))からも発言いただいた。


(松久保 肇)

  

        

 

 

 

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