対馬市議会で文献調査推進の請願採択-対馬の自然と文化・歴史を守る住民との連帯が急務-

『原子力資料情報室通信』第592号(2023/10/1)より

9月12日、長崎県対馬市議会は、定例会の本会議で、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場の文献調査推進を求める請願を賛成10、反対8の賛成多数で採択した。文献調査は、最終処分場選定のための第一段階であり、もし調査に応募すれば、地域社会に多大な影響を与える。重要なのは、そのような問題について、市議会で十分な議論が尽くされたのかという点だ。民主主義的な手続きの観点から、この間のプロセスを振り返りたい。
 今年に入り、まず、市議会議員の間で調査応募の動きが顕在化した。調査賛成の市議が多数と予想されたため、当初賛成派市議は、3月の定例議会で調査応募を求める議案を提出し、採決を行おうとした。反対派市議の働きかけや、住民の反発により、実現はしなかったが、これ以降も、拙速な採決への動きは続くこととなる。
 4月18、19日に、地層処分事業者のNUMO(原子力発電環境整備機構)が商工会向けに説明会を開催した。商工会は理事会の決定で文献調査を求める請願を提出しようとしたが、一般会員の反発で、総代百数十名へのアンケート調査を実施することとした。一方、反対派の住民は「核のごみと対馬を考える会」(以下、「考える会」)を結成し、反対の署名活動を開始し、一部の漁協も明確な反対を表明した。
 5月にはまず建設業界が雇用の確保や交付金による地域経済の活性化、最先端技術の土木事業への貢献などを理由に、市議会に対して調査応募を求める請願書を提出した。続いて商工会も請願書を提出するが、調査への「議論」を求めるというあいまいな表現となった。これは一般会員の根強い反発に配慮した結果と思われ、事実、現在も会員全体では調査反対の意見が多いと指摘する声もある。
 一方、「考える会」や一部の漁協は、町のイメージダウンによる一次産業や観光業への悪影響、美しい自然の保護、住民の合意形成の未確立、地層処分の技術的安全性への不安などから調査反対の請願書を提出した。反対署名も、現在までに島内の3分の1の人口を上回る約9,400筆が集まっており、反対の意見は賛成よりもはるかに多いはずだと話す住民の声を筆者は何度も聞いた。
 6月に入ると、対馬市議会はこれらの請願書を審議するために、議長を除く18人で構成される特別委員会を設置した。特別委員会は、7月に、応募推進/反対の請願を出した11の団体から意見聴取を2回に分けて行なった。ある市議は、反対請願を出した住民に対して、反対署名の中に同じ字体が含まれていると批判したが、その根拠は明確に示さなかった。また、この請願は文献調査を行なうだけであり、最終処分場の誘致ではないという趣旨の発言をした市議もいた。しかし建設業界の請願は土木事業への貢献が謳われており、明らかに最終処分事業を想定している。活発な討論よりも、反対住民への揚げ足取りや請願内容への無理解が目立った。
 さらに賛成派市議は、文献調査が進む北海道の寿都町長と神恵内村長への意見照会を決定した。これに対し、反対派市議は、調査に反対する両町村民からも意見照会をすべきであり、議会報告会を通して、一般の対馬市民からも幅広く意見を聞くべきだと提案した。しかし賛成派が多数を占める特別委員会はこれらを否決した。
 その後、寿都の片岡町長が提出した意見表明書に対して、文献調査反対の住民組織「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会」(以下、「町民の会」)が、8月14日に抗議声明をHPに公表した。「町民の会」は、文献調査の開始により町の知名度が上がったという片岡町長の主張に対して、恥ずべき内容で有名にはなりたくはなく、心を痛めている町民がたくさんいる事実を指摘した。風評被害については、寿都町民が長年培ってきたブランドやイメージに泥を塗り、住民同士がよりよい寿都の町づくりをするうえで必要な、地域の絆を大きく傷つけたということが問題の本質であり、それらは風評被害というよりも実害だと表明した。「町民の会」がこのような抗議声明を出さなかったら、対馬住民は片岡町長の主張を一方的に聞くだけになっていた。公平とは言い難い議会運営をした賛成派市議の責任は大きい。
 8月2、3日には、調査賛成/反対の専門家に対する参考人質疑も実施された。2日に賛成の立場から経産省とNUMOが、3日に反対の立場から「はんげんぱつ新聞」編集長の末田一秀氏と筆者が発言した。筆者は、寿都町で起こった地域分断の状況を説明した。核ごみの話題を避け、住民同士の会話が大きく減少したこと、意見の違いで友人が少なくなったこと、賛成/反対の住民がお互いのお店に行くことを避けるようになったこと、地域の絆の象徴である伝統的なお祭りに一体感が損なわれてしまったことを指摘した。
 さらに筆者は、文献調査受け入れ地域で実施される「対話の場」の不公正な運用に対して、問題を提起した。対話の場のメンバーは調査賛成の住民多数で構成されているため、NUMOはメンバーや一般住民を青森県六ヶ所村の再処理工場に格安で連れて行ってほしいという要望はすぐに聞き入れる一方、地層処分に懐疑的な専門家の意見も聞きたいという調査反対派のメンバーの意見は取り入れない。一度調査を受け入れてしまうと、住民懐柔の工作が進行してしまう実態を明らかにした。
 筆者の発言の後に、質疑応答が続いたが、賛成派市議からは耳を疑いたくなるような発言が次々飛び出 し た。「あなたの行なっていることは政府やNUMOに対する誹謗・中傷だ」「そんな話は政府から聞いたことがない。笑ってしまう」「文献調査は東京で机上で調査するのだから、対馬には影響がない」といった趣旨の内容だった。
 具体的な根拠に基づいて反論をするというよりも、感情的に反発したり、低レベルなレッテル張りをしたり、聞きたくない事実に耳を塞ぐだけで、まともな議論にならなかった。筆者が感じたのは、まだまだこのように議論が成熟していない段階では、拙速な採決はすべきではないということである。
 しかし8月16日の特別委員会では、請願書の採決が実施された。調査推進の請願に対して、賛成が9名、反対が7名だった(委員長には投票権はない。もう1人は病欠)。賛成多数で採択された結果に終わったが、請願が出された当初は反対が3名だったことを考えれば、反対議員が増加した。その趨勢を感じ取った賛成市議が、採決を急いだことは明らかだろう。これに対しNUMOは、新聞の取材に対して「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか」と発言した。陰でこそこそ住民懐柔を行なうような組織に民意を語る資格があるのか?厳しく批判されるべきだろう。
 一方、この結果に対して、住民の反発が相次いだ。9月8日には、12の漁協の組合長で構成される「対馬市漁業協同組合長会」が文献調査受け入れに反対する要望書を比田勝尚喜市長に提出した。10日には、「考える会」が、反対集会「対馬に核のごみはいらない集い」を開催した。一般市民や漁業関係者ら580人が参加した。美しい自然や豊かな漁場を後世に残したい、伝統や歴史のある対馬のイメージを守りたいといった内容の発言が相次いだ。ここにある声こそが、真の民意と言えるだろう。
 12日には、冒頭で述べた通り、市議会で文献調査推進の請願が採択された。比田勝市長は、今まで調査応募に慎重な態度を見せており、反対の意見を表明すると予想される(この原稿は9月15日に執筆)。仮に市長が反対意見を述べても、推進市議や国、NUMOは簡単にあきらめないだろう。いずれにせよ来年3月3日の対馬市長選までこの論争は続くだろう。真の民意を結集し、民主主義を貫徹するには、私たち市民社会のさらなる連帯が早急に求められる。


(高野聡)

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