原子力小委員会奮闘記(3) 「もんじゅ」延命口実としての 廃棄物減用化

『原子力資料情報室通信』第485号(2014/11/1)より

このひと月の間に2回の会合が開催された。第6回会合(9月16日)は「使用済燃料問題の解決に向けた取組と核燃料サイクル政策の推進」が議題だったが、17,000トンほどの使用済み燃料の扱いは深刻な議論にならなかった。
 方向としては乾式による貯蔵だが、技術問題よりも場所の選定が課題となる。立地県が原発サイト内での貯蔵を認めなければ、他県に貯蔵施設を作る必要があるが、その合意が容易に取れそうにない。
 使用済み燃料の所有者は電力会社なのだから、彼らが貯蔵能力の確保をしなければならない問題だ。そして、彼らはこれまで、再処理が順調に進めば新たな貯蔵場所の確保は不要と計算していた。それゆえ、この小委員会で意見が出たように、再処理への国の支援が入れば、使用済み燃料の貯蔵についても解決すると考えているのだろう。深刻な議論にならない理由はこんなところにありそうだ。
 議論の中心は再処理の延命や「もんじゅ」の再開にあった。再処理は本誌484号で取り上げたので、ここでは「もんじゅ」について報告したい。

どっちの資料が公式?

 「もんじゅ」に関連して不可解な資料が事務局より提出されていた。小委では、議題ごとの資料に加えて参考資料が配られる。第6回配布の資料3(以下、資料3)と参考資料で同じ核燃料サイクル図が記載されているのだが、参考資料では「高速増殖炉サイクル」と表記されているのに対して資料3では「高速炉サイクル」となっている。同じ図で、六ヶ所再処理に関しては資料3が「最終試験段階」と表記、参考資料では「最終試験段階(平成26年10月竣工予定)高レベル廃液をガラス固化する設備を改善」との記載だ。日本原燃から竣工予定を延期する公式発表はないが、報道では延期が伝えられているので、これを反映させて削除したと考えられる。同じ図を使いながら2か所も変更しているのだから、単なるミスとは考えられない。
 これは、従来の高速増殖炉開発から高速炉開発への公式的な政策転換と見てよいのではないか、と受け止めた。ちなみに2013年に公表された「もんじゅ研究計画」では「高速増殖炉/高速炉」と併記されていた。
 そこで「もんじゅ」の位置づけだが、エネルギー基本計画(14年4月)では「廃棄物の減容・有害度の低減や核不拡散関連技術等の向上のための国際的な研究拠点と位置付け」ている。資料3はこれで「もんじゅ」の位置づけが明確にされたとしている。
 「もんじゅ」は高速増殖原型炉として建設されたが、増殖炉の位置づけから転落したとなると、新たな意義付けが必要になる。それが、減容化と有害度の低減なのだろう。高レベル廃棄物の処分問題で困り果てている日本、減容化に役立つと言えば運転再開も受け入れられやすいというわけである。
 「もんじゅ」の新たな位置づけのうち、核不拡散関連技術の中身は書かれておらず、また、「もんじゅ研究計画」でも言及がないので、ここでは割愛し、以下、減容化・有害度の低減についてもう少し見ておきたい。

有害度低減の可能性に疑問

 減容化・有害度の低減は新しいことではなく、80年代後半に群分離・消滅処理研究とか「フェニックス・プロジェクト」などと呼称し、積極的に研究された。OECDの原子力機関(NEA)でオメガ計画*として国際協力による研究も進められていたが、実用化の展望が得られずに廃れていった。
 資料3は使用済み燃料とガラス固化体の体積だけを比較して、減るとしているが、これでは意味をなさない。分離したウランも廃棄物になるし、再処理工程で長寿命の放射能で汚染された廃棄物が大量に出てくる。それら総体で比較すべきである。また、1,000年後の有害度(ガラス固化体に内蔵されている放射能の量から計算した被ばく線量)が直接処分に比べて1,000分の4に減ると計算している。
 エネルギーの高いままの中性子を使用するとマイナーアクチニド(アメリシウムやネプツニウムなど)が理論的には核分裂する。しかし計算通りになるためには、再処理で分けられた高レベル放射性廃液からマイナーアクチニドがきちんと分離できており、高速炉で滞りなく核分裂することが前提となる。このどちらも困難なのだ。場合によっては、核分裂せずに中性子を吸収してより半減期が長い放射能ができる恐れもある。
 仮に、技術的な展望が得られたとしても、実用化となると高レベル廃液からマイナーアクチニドを取り出す工程、そして遠隔装置を備えた燃料加工工程が必要となり、複雑で大規模な施設が不可欠だ。
 山地憲治委員は会議の席上、ヨウ素129(半減期1,600万年)やテクネチウム99(半減期21万年)なども含めて短半減期になるかかなり疑問、と述べた。なお、これらの核種は減容化の対象とされていない。
 効果の期待できない減容化研究に「もんじゅ」を使うことの意義を改めて問い直す必要がある。

世界の核拡散への貢献??

 第7回(10月2日)は「世界の平和利用への貢献」が議題となり、チャールズ・ファーガソンさん(米国科学者連盟会長)が発表を行った。原発の再稼働で化石燃料への依存を減らせる、仏、韓、露などは国営原子炉メーカーであり日本が民営の選択肢を与える、米国の原発建設に日本は不可欠、原子力を必要とする国へ援助(輸出)の必要性などが主張の骨子だった。印象に残る言葉は、世界が核の火にまみれてしまうか、あるいは気候変動でだめになってしまうかの分岐路に私たちはいる、だった。しかし、解決策として原発というのは納得できない。どのような仕組みも核拡散リスクをゼロにはできないが、気候変動は原発以外でこそ対応可能だと考えるからだ。
 事務局資料には目新しい内容は何もなかった。原発輸出が世界の平和利用への貢献と言いたいようで、その根拠は、輸出の前提となる二国間協定で平和利用を徹底させれば世界の平和利用への貢献になるといった説明だ。 しかし、原発輸出で競争相手に勝つためには安全のための基準を緩めていかなくてはならないのが現実で、事例を意見書に書いて指摘した。

(伴英幸)

* [A Proposal to Exchange Scientific and Technological Information Concerning Options Making Extra Gains of Actinides and Fission Products Generated in Nuclear Fuel Cycle under OECD/+NEA’s International Cooperation]から略称はOMEGA

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