2016年:原子力政策の矛盾が激化する

 『原子力資料情報室通信』第499号(2016/1/1)より

 2016年を総じて予見すれば、強引な原子力推進の矛盾がより鮮明になってきて、それゆえ対立が激化していく年になるだろう。以下、焦点となる諸問題を列記した。これらの諸問題に情報室としても的確に取り組んでいきたい。

避難解除と住民の抵抗

 福島第一原発の原発震災から5年が過ぎようとしている。16年3月には全国各地でさまざまな催しが企画されている。焦点は政府が方針としている避難解除への抵抗だろう。例えば、飯舘村では、菅野典雄村長は17年4月から学校の再開を打ち出している。直近の広報『いいたて』15年12月号は再開を明確に示し、「遅れれば遅れるほど通学する子どもの数が少なくなる可能性が高い」と回答している。住民が村内に戻るまではバス通学も考えているようだ。除染してもなお高い村内の放射線レベルを考えればとても戻れる状況にない。
 復興庁の12年11月実施の住民意向調査によれば、飯舘村での未就学児・就学児童のいる271世帯のうち、戻りたい割合は12.0%に対して戻らないと決めている割合は40.6%。
 避難指定解除の次には支援策の打ち切りが待っている。これでは帰還の強制であり、批判の声がいっそう強まるに違いない。
 さらに、15年10月に結成された「避難の権利」を求める全国避難者の会が政府への働きかけを強めていくことは必然である。

健康影響をめぐる攻防

 福島県の県民健康影響調査結果によれば、第2順目の182,547名中39名に「悪性または悪性の疑い」がもたれた。うち37名は先行調査でA判定(のう胞20mm以下または結節5mm以下)。また、手術を受けた人は39名中15名で、すべて甲状腺ガンであった。先行調査を合わせておよそ36万人の中に150名に「悪性または悪性の疑い」が発見され、うち手術で甲状腺ガンが確定した人数は113名になる。福島県の検討委員会は甲状腺ガンの明らかな多発を認めつつも、放射線被ばくとの因果関係を認めていない。この背景には復興・帰還政策を進める政治的な意図が強く作用していると考えらえる。しかし、2巡目調査が終了した時点で、被ばく原因説が明らかにされるだろう。

指定廃棄物の中間貯蔵

 福島では、知事と地元自治体が指定廃棄物の中間貯蔵計画に合意したと報じているが、地権者の合意を得ることは困難を極めるだろう。県外の指定廃棄物の最終処分に関しては宮城県、栃木県などで強固な反対運動が展開されている。政府は現行の政策を見直し、合理的とされる高汚染地域での集中管理へと話し合いを進めるべきだ。いずれにせよ、強引な国策の押しつけは許されないことだ。
 原子力資料情報室は、福島原発事故からの5年間を総括的にまとめた書籍を刊行する計画だ。

再稼働の強行と住民の抵抗

 伊方3号機の再稼働が来春にも予定されている。稼働すれば、川内に続く3基目となる。伊方町は再稼働に合意したが、隣接する八幡浜市では住民投票を求める直接請求が、有権者約3万人のうち1万を超える署名で成立した。今後、市議会で審議される。審議結果は見通せないが、直接請求が成立したことは画期的なことで、再稼働を止める運動がよりいっそう強くなっていることを示している。地域ごとに抱える課題や取組はさまざまであるが、直接請求が他地域へ波及していく可能性に期待したい。
 高浜原発の再稼働を認めないとする仮処分決定への異議審の行方も注目される。審尋は終了して決定待ちとなっている。ぜひとも前決定を維持してもらいたい。それにしても大飯・高浜原発の運転差し止め裁判・仮処分での勝訴(第1審)の意義は非常に大きい。
 沸騰水型炉では柏崎刈羽原発の審査を先行しておこなうと原子力規制委員会は決定して、審議が始まっている。しかし、福島原発事故の原因究明が第一という泉田知事の姿勢を崩すことはできないに違いない。
 このような状況からみると、再稼働が今後とも順調に続くとはとうてい考えられない。

顕在化する核燃料サイクル政策の破たん

 15年11月13日、原子力規制委員会は「もんじゅ」の運転を日本原子力研究開発機構(機構)に任せられないとして、新たな実施主体を半年の間に探すように、それができない場合には「もんじゅ」の抜本的な見直しを文部科学大臣に勧告した。「もんじゅ」を設計、建設し維持してきた機構が否定されたのだから、事実上の「もんじゅ」廃炉宣告である。しかし、廃炉という当然の判断を機構や文科省ができるとも思えない。「もんじゅ」に特有の規制基準は未定で、適合性審査には5年程度を要すると考えられるが、これを見据えたその場しのぎでお茶を濁すに違いない。最善の選択肢は廃炉でこれ以外にない。
 電力の自由化が進展すると、再処理を維持できない電力会社が出て、日本原燃が経営破綻し、六ヶ所再処理工場は閉鎖となる。政府はそれでも再処理を継続するための画策をおこなっている。再処理に加え、MOX燃料加工、六ヶ所では再処理されない使用済み燃料まで含めて総括的に取り組む民間の認可法人を設立し、同時にこれまでの積立金に代えて、MOX加工やその廃棄物まで含めた拠出金に変更する方向を決めた。春には法改正案が示されることになる。
 しかし、認可法人なら再処理が進展するとも考えられない。48トン近い余剰プルトニウムを保有する中で、余剰を持たない国際公約を守ることへの圧力が内外で高まっている。他方、福島事故によってプルサーマルへの合意は従来のようにはいかない。これらの点から再処理できる状況にない。新制度も当面の取り繕いでしかなく、破綻は避けられない。
 関連して、日米原子力協力協定の期限が18年7月末に切れる。改定に向けてサイクル政策転換の声がますます高まるだろう。
 高レベル放射性廃棄物の処分問題では、16年中には「科学的有望地」を政府が図示するとみられる。この時期は極めて政治的に決まってくると考えられる。図示された地域では、処分地拒否の運動が巻き起こるに違いない。再稼働を進めながらの処分地選定では、合意が得られようもない。

原子力産業と日印原子力協定

 原発メーカーは再稼働への追加安全対策でいまは収益を得ているが、この事態が一段落すれば、事業環境が一段と厳しくなる。そこで、狭まる国内市場から海外に活路を求めている。しかし、福島原発事故の影響は大きく、東芝の不正会計処理問題も原発建設が進まないことが背景にある。仏アレバ社も経営危機に直面していると報じられている。
 このような背景から、政府は従来の核不拡散政策をかなぐり捨て、日印原子力協力協定の基本合意をおこなった(15年12月12日)。しかし、インドは核兵器開発を進める政策を堅持しており、原子力施設や機器の輸出はインドの核兵器開発を幇助することになる。何としても締結させないようにはたらきかけていく必要がある。

 最後に、16年4月から電力の完全自由化が実施される。自然エネルギーに対する潜在需要は大きいが、供給が追いついていない状況の中で、混乱も予想される。しかし、着実に再エネを育てていき、この市場を原子力市場よりも大きなものにしていくことで脱原発への道はいっそう着実なものになるだろう。

(伴英幸)

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