「不適切なケーブル敷設問題から見えてきたこと

 『原子力資料情報室通信』第503号(2016/5/1)より

 

 発端は2015年9月18日、柏崎刈羽原発(以下、KK)6号機で計測設備の耐震強化工事をおこなっていたところ、中央制御室床下でケーブルピットを区分する分離板が倒れたことだった。2系統ある安全系のケーブルが区分を跨いで敷設されており、基準に適合しない状態であったことがわかったのだ。原子力規制委員会はKK全機の調査を指示するだけでなく、原発を持つ全社に16年3月31日までに調査報告することを求めた。

 ケーブル敷設に求められる現在の技術基準 は、①火災による損傷の防止、②多重性(または多様性)かつ独立性である。①は発生の防止、検出・消火、影響軽減について「適切に組み合わせた措置を講じなければならない」。技術基準の対象となるのは安全系のケーブルで、常用系のケーブルは対象外となっている。具体的には、電力ケーブル、制御ケーブル、計装ケーブルがそれぞれのトレイに収められ、それらを2系統に分けて、多重性と独立性を持たせている。なお、1975年以前の技術基準では電力ケーブルと計装・制御ケーブルの区分と2系統の分離が要求されていた。原子力規制委員会が指摘する「不適切」とは、分離板の欠損や破損などの場合及び、安全系の2系統間をケーブルが跨いでいる場合、あるいは常用系ケーブルが安全系ケーブル2系統とも跨いでいる場合を言う。

 調査範囲は、ケーブルトレイと中央制御室床下である。各社の報告書 では号機ごとに不適切の件数をまとめているが、ここでは紙幅の都合上、合計で示した。
 東京電力では、KK1~7号機の合計で、ケーブル跨ぎは1745本、中央制御室床下での分離板の欠損・破損は750枚以上となった。また、福島第2原発では分離板の欠損や破損は82枚で、ケーブル跨ぎは877本だった。不適切なケーブル敷設がきわめて多かったが、その理由は敷設工事の仕様に区分の仕方などが明記されてなく、中越沖地震などに伴う耐震補強工事による新たなケーブル敷設が不適切におこなわれたからだという。
 東北電力では、女川原発と東通原発を併せて、分離板の欠損や破損などが20枚、ケーブル跨ぎが合計27本あった。中部電力の浜岡原発では、同様の分離板欠損や破損等が292枚、また同様の区分跨ぎが236本あった。北陸電力の志賀原発では1号機で7本の異区分跨ぎが見つかった。2号機にはなかった。中国電力は島根原発で異区分跨ぎが38ヵ所あったが、不適切ではないとしている。
 北海道電力や九州電力は、ケーブルの跨ぎは皆無だったと報告している。四国電力は、「不適切なケーブル敷設」はなかったと報告しているが、ケーブルの跨ぎの有無は記載されていない。
 関西電力では、高浜原発3・4号機は使用前検査などを通じて施工状況を確認したので「調査実施済みの扱い」とし、両機を除く調査をした。常用系ケーブルの制御・計測系ケーブルへの複数跨ぎや制御・計測系ケーブルの安全系異区分跨ぎが822ヵ所中55ヵ所(本数記載なし)に見られた。いずれも「当社の要求事項」に合致し、不適切ではなかったと報告している。旧技術基準で建設した原発は定期安全レビューで評価を受けているので、不適切ではないというのが関電の姿勢である。また、関電調査では、中央制御室床下の調査に関する記載がない。
 自社の要求事項による判断を主張するより、安全サイドに立って、ケーブルトレイをきちんと分離する是正をおこなうべきではないか。  

(伴英幸)

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