再エネ100%、原発ゼロを確実にする 基本計画にせよ

再エネ100%、原発ゼロを確実にする基本計画にせよ

総合エネルギー調査会基本政策分科会に5月16日、第5次エネルギー基本計画案(以下、エネ基案)が提示され、議論らしい議論もないまま19日からパブリックコメントが開始された。政府は夏頃の閣議決定を考えている。その後、国会に報告される。ここでは計画の内容を紹介しながら、改訂とは程遠い無策な内容であることを示したい。

2050年に向けたエネルギー転換・脱炭素化
エネ基案では、新たに第3章として「2050年に向けたエネルギー転換への挑戦」が追加されて、基本計画の態をなしていると考えられる。第4次エネ基は2030年を目標に置いているのだが、2018年の時点において、12年後までを基本計画としてもたいした意味を持たないからである。50年に向けた内容は並行して開かれていた「エネルギー情勢懇談会」の提言(4月11日)を踏まえたものとなっている。
その内容は「あらゆる選択肢の可能性を追求する野心的な複線シナリオ」を設計したいとしている。そして随所に「エネルギー転換・脱炭素化」が出てくるが、脱炭素化に向けてエネルギーをどう転換するのか、抽象的で中身が見えてこない。30年先は不確実性が高いことが強調されているが、複数のシナリオを同時に追求していくだけの資金的な余裕はないことも事実だ。エネ基案では過少投資を問題としていることからも、そのことは言える。言葉だけが踊っているようだ。
注目したい点は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の「主力電源化を目指す」としていることである。ただし、「経済的に自立し」ていることが前提である。具体的に発電に占める割合をどこまで上げれば主力なのかの言及はなく、ここでも言葉が踊っているようだ。とは言え、それを目指す方向は歓迎したい。
2050年時点では二酸化炭素排出量を80%削減するとパリ協定(2016年)で約束している。2016年度のCO2排出量注)は12億430万トンだったが、このうち燃料の燃焼に伴う排出が95.0%であり、さらにその内訳を見るとエネルギー産業が44.0%、製造・建設業23.0%、運輸業17.2%となっている。したがって、全体で80%削減を守るためには、発電部門においては二酸化炭素排出量をゼロにする必要があるだろう。
ところが歯切れが悪いことに、「エネルギー転換・脱炭素化が実現するまでの過渡期において、内外で化石エネルギーはなお主力」であると火力を位置付けている。2050年に向けて野心的な「総力戦」を展開して脱炭素化を進めるとしながら、なんとも後ろ向きの姿勢だ。「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国は、再生可能エネルギーの可能性を追求しながら可能な限り原発依存度を低減する姿勢が求められる」と明記していることからすれば、再エネ100%を確実なものにしなければならないはずだ。
このために2020年から始まる発送電分離を徹底させ、送電部門の完全な中立化が不可欠だと考えるが、エネ基案にはこれに対する言及がない。電力9社(旧一般電気事業者)の要求に負けたのであろうか。分社化による発送電の完全分離は、「野心的な」シナリオ設計においては欠かすことができない制度改革に違いないにもかかわらずである。
原発については、依存度を低減すると明言しながら「実用化段階にある脱炭素化の選択肢」と位置付け、「事故リスクの抑制、廃炉や廃棄物処理・処分などのバックエンド問題への対処などの取組により、社会的信頼の回復がまず不可欠」としている。また、「安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求」など、具体的には見えないが新型炉や小型炉の開発に道を開く表現になっている。仮に事故リスクを低減できても、放射性廃棄物の処分地選定がすすんだとしても、信頼が回復されるとは到底考えられない。
さらに、原子力事業者は「原子力規制委員会との積極的な意見交換等を行い、原子力に係る安全規制やその中長期的なあり方と整合的になるよう取り組む」必要性があると指摘している。どのように整合させるのかあいまいな表現だ。原子力規制に事業者の緩和要求が反映することがあってはならない。

原発ゼロへ転換すべき
上記のエネルギー転換・脱炭素化を目指すためには、まずは現行の2030年時点のエネルギーミックスを着実に達成することを目指すとしている。見直し会合の開始に際して世耕弘成経産大臣が骨格をかえる必要がないと方針を示したことが、影響しているのだろう。第4次エネ基がほぼそのまま踏襲されている。ただし、再エネについては「主力電源化へ向けて取り組む」と言葉は一歩先へ向かったが、具体的には、発電電力量に占める再エネの割合は22~24%のままである。例えば、太陽光発電(7%を担う)は達成しそうであるが、国民負担の抑制を強調しており、固定価格買取制度の見直しを行うとしている点、また、技術革新でコスト削減を目指すとしながら発電コストも高止まりとの認識を示している点から、再エネの主力電源化にどこまで本気なのか見えてこない。なお、同制度による国民負担は2030年をピークに減少に転じていくのだが、経産省はその図柄を示さず、2030年時点のピーク負担のみを図示している点は極めて恣意的だ。
原発や石炭火力は以前同様「重要なベースロード電源」としている。この位置付けが再エネの拡大を阻害していると指摘されているにもかかわらず、石炭26%、原発20~22%という依存度に固執している。
原発についても「原子力政策の再構築」を掲げたままであり、その内容は旧態依然とした福島復興、安全性向上、使用済燃料対策、核燃料サイクル政策の推進など、問題だらけで破綻した政策が羅列されている。それでいて「可能な限り依存度を低減する」としている。
福島原発事故後には原発ゼロで生活が成立していたことを直視すれば、原発ゼロは可能である。再稼働が少ない現在の状況を原発ゼロへの好機とするべきだ。

民主的な政策決定を進めよ
今回の改訂に向けては消費者団体や市民団体の多くが原発や火力の維持に反対する意見を述べ、あるいはコメントを発表している。基本政策分科会での審議は明らかに産業界や原子力事業者寄りであり、脱原発を求める大多数(7割を超える)の市井の民の声が反映されていない。また、政府は「意見箱」に寄せられた全ての意見を読み反映させたというが(具体的にどう反映させたのかは不明だ)、とてもそうは考えられない。あるいは都合の良い意見だけを反映させたのだろう。
「国民各層とのコミュニケーションの充実」をうたっているが、中身は広報のあり方であり、各層の関心に応じたわかりやすい情報の提供であり、情報提供を通して理解を得ていくという理解活動の域を出ていない。過去数十年にわたってこの点は強調されてきたが、理解活動はまったく進んでいない。それどころかトラブル隠しが後を絶たず、また形式を整えるための動員などがくり返されてきた。このような中で「双方向的なコミュニケーション」の充実を掲げても、自らは変わらず相手の理解を得るためのコミュニケーションではとても双方向とはいえない。 コミュニケーションの大切さをいうのであれば、政府が国民の声に沿った政策作りを進めることこそ、大切である。

本誌がお手元に届く頃はパブリックコメントの最中となる。脱原発・再エネ100%という私たちの願いをコメントにして提出してほしい。

(伴英幸)