経産省・NUMOの失敗
『原子力資料情報室通信』第557号(2020/11/1)より
北海道寿都(すっつ)町の片岡春雄町長は10月9日、高レベル放射性廃棄物地層処分地選定の入り口である「文献調査」に応募する書類を原子力発電環境整備機構(NUMO)に提出した。同日、北海道神恵内(かもえない)村の高橋昌幸村長は、経済産業大臣名の「文献調査」申し入れ書を資源エネルギー庁の小澤典明主席エネルギー・地域政策統括調整官から受け取り、村議会全員協議会で受諾を表明。15日に受諾書を郵送で提出した。
「文献調査」の実施に向けた二つの方式でそれぞれ第一歩を踏み出したとして、経済産業省もNUMOも、一見すると大きな成果を挙げたかのようで、彼ら自身も手柄を誇っているかもしれない。しかし、そうだろうか。むしろ失敗と見るべきではないか。
寿都町の片岡町長は、町民グループが法定数の4倍となる署名を添えて住民投票条例の制定を請求したのも無視し、「肌感覚では過半数の賛成を得られている」として応募に踏み切った。2007年に高知県東洋町の田嶋裕起町長が一存で応募し、けっきょく辞職・出直し選挙に敗れて応募取り下げに至った教訓を生かせず、またも首長の独断専行を許してしまったことで処分地選定プロセスの不合理を改めて天下に知らしめてしまった。
神恵内村の高橋村長の申し入れ受諾も、議会の応募請願採択が先にあったとはいえ、申し入れを即時に受け入れるという実績をつくってしまったことは、申し入れ方式もまた住民の意思を尊重しない方式であると教えることになった。
神恵内村を最初の申し入れ地域としてしまった経産省こそ大失敗である。そうでなくとも全国に1700余を数えるという市町村のなかでなぜその自治体に申し入れたかの理由が問われる。よりによって「科学的特性マップ」でほとんどが不適という地域をなぜ選んだのか、その説明が求められよう。神恵内村長に申し入れた後、小澤氏は報道陣に「村議会で請願が採択されるなど、一定の理解活動が広がっており、申し入れのタイミングだと思った」と述べたという。「科学的特性マップ」の意味はどこへやら、やはり受け入れてくれるところが「適地」だと宣伝することになった。
なお、国からの申し入れでは、市町村からの応募に対して必要となる調査の実施見込みのNUMOによる確認は実施済みであることが定められている。後出しで「確認をして申し入れた」と強弁しているが、いつ確認したというのか。およそ信用しがたい。同時に寿都町の応募に対する確認も、東洋町の時と比べれば異様に早く「実施可能」と結論を急いだ。経済産業省とNUMOには、その説明が求められる。
経産省は、「文献調査」の説明でも下手を打った。寿都町・神恵内村での動きに対応して、9月11日、経産省のホームページに資源エネルギー庁の「スペシャルコンテンツ」として「最終処分地を選ぶ時の『文献調査』ってどんなもの?」を載せたのだ。そこには、こう書かれていた。「最終処分事業について関心を示す市町村があれば、市町村の住民が地層処分事業についての議論を進めるための資料として役立てられるよう、全国規模の文献やデータに加えて、より地域に即した地域固有の文献やデータが調査・分析された上で、提供されます。これが『文献調査』と呼ばれるステップで、いわば対話活動の一環です」。
主体がNUMOから市町村に代わっているのである。10月7日付の北海道新聞はこれを「応募ハードル下げる狙いか」と報じたが、選定プロセスのうそが暴かれる(本誌前号)のを先取りして開き直ったというのが実体だろう。要するところ、「調査」の名称に偽りありと白状したのだ。
今後さらに「文献調査」に手を上げようとする動きが出てくるだろう。だがそれは事態をより混乱させるだけで、正しく問題を解決する障害にしかならない。いまこそ立ち止まって根本に立ち返る大きな議論を起こす必要がある。
(西尾漠)