“はつりガラス”はほったらかし 処理処分があいまいで危険な高レベル廃棄物

『原子力資料情報室通信』第563号(2021/5/1)より

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高レベル廃液を含むガラス片などを放置

 六ヶ所再処理施設に高レベル放射性のガラス片が10年にわたり不適切に保管されていることを、原子力規制庁が日本原燃に指摘しました(『原子力資料情報室通信』554号p.16)。このガラス片は、削り(はつり)ガラスと呼ばれるもので、高レベル放射性廃液をガラス固化する溶融炉の底部に堆積したガラスを除去して発生したものです。ガラス固化体同様の高い放射線量を持ちますが、塊状や粉末状で固化体ではありません。そのはつりガラスが、ステンレス容器に入れられて10年間も処理施設内に放置されていました。日本原燃は、ガラス片が固化体ではないのでガラス固化体貯蔵設備に搬出できず、また放射線量が高いため低レベル固体廃棄物貯蔵設備に搬出することもできず、取り扱いに困って放置していました。

はつりガラスは高レベル廃棄物? TRU?
 はつりガラスは、再処理で発生する高レベル放射性廃液からできるガラス固化体と同等の放射線量を持つものですが、その処理や処分が十分検討されていません。ガラス固化体は、貯蔵や保管、輸送、そして最終処分について、法律で規定されています1)2)。一方、はつりガラスについては、保管方法が定まらないまま不適切に放置されていただけではなく、処分方法も規定されていません。これは、高レベル放射性廃液のガラス固化体による処理を制度設計した段階で、はつりガラスの発生を想定していなかったことによるものです。想定していないはつりガラスを無理に現行の法にあてはめると、TRU*1廃棄物にしか区分できないことになっています。
 原子力規制委員会の更田委員長は、2020年7月15日の記者会見で、はつりガラスは「原燃が心配することであって、規制当局が心配することではない」、「ハル*2やエンドピース*3といった、いわゆるTRU廃棄物と同列のほうで扱うのか、それとも副産物としてガラス固化体同様の扱いにするのか、そこはちょっと、ある種、ニッチなところだろうというふうには思っています」と述べています。まさに、はつりガラスが想定されていなかったし、規制当局でさえ今も十分検討していないことを示しています。
 そこで、はつりガラスの取り扱いとその処理処分に関して、宮川伸衆議院議員(立憲民主党)を通じて関係機関に問い合わせ、各機関からは次のような回答を得ました。原子力規制庁は、「はつりガラスの詳細な分析もしていないし、処分する際の取り扱いは決まっていない」としています。資源エネルギー庁は、「処理・処分は日本原燃と原子力発電環境整備機構(NUMO)が検討するもの」としていて、はつりガラスの取り扱いを丸投げしています。日本原子力研究開発機構(JAEA)の東海再処理施設でもはつりガラスは発生していますが、JAEAを監督する文部科学省も、処理方法については「今後検討していく」としているだけです。また、日本原子力学会がまとめた「地層処分対象放射性廃棄物の品質マネジメント」3)では、はつりガラスを非定常ガラス固化体としていて、高レベルガラス固化体として扱うかは未定であり、充填固化*4等の処置を検討すべきとしているだけです。高レベル放射性物質の処理・処分を管理監督すべき機関が、はつりガラスには関心がなく、発生元や処分機関にお任せの状態であるといえるでしょう。
 検討を任された日本原燃とNUMOも、はつりガラスの取り扱いや処理処分を十分考えているわけではありません。日本原燃は、はつりガラスの最終処分法上の分類(第一種特定放射性廃棄物すなわち高レベルガラス固化体か、第二種特定放射性廃棄物すなわちTRU廃棄物)を決めることもせず、安全評価も今後NUMOと相談するとしているだけの状況です。はつりガラスを処分することになるNUMOは、包括的技術報告書4)でTRU廃棄物を4つのグループに分類していて、私たちの問い合わせに、はつりガラスをグループ4・発熱性Hに分類して想定していると回答してきました。包括的技術報告書では「グループ4は,再処理施設やMOX燃料工場で発生する雑多な廃棄物をモルタルなどで固化または封入した廃棄体であり,比較的発熱量の低い廃棄体(グループ4L)と,不燃性廃棄物(高汚染部)などのTRU等廃棄物のなかでは比較的発熱量が大きい廃棄体(グループ 4H)とがある。」とされ、ゴム手袋や金属配管、焼却灰などが例示されていますが、はつりガラスが含まれるとの記述はありません。高レベルの廃棄物を処分する場合、廃棄物の個々の性状に適した処分方法を用いることが大事なのですが、難燃性や不燃性の雑多な廃棄物とひとグループに括られているのでは十分検討されているとは言いがたいでしょう。
 はつりガラスは、不適切な保管状況に加えて、将来の処分方法も十分検討されていない状況で、ほったらかしと言っていいのです。

(脚注)
*1:TRU 超ウラン元素(transuranium elements)。原子番号がウラン(92)を超える元素の総称
*2:ハル 数cmにせん断された燃料被覆管(材質:ジルカロイ)
*3:エンドピース 燃料集合体の末端部分(材質 SUS、インコネル)
*4:充填固化 廃棄物をモルタル(セメント)などと混合して固化体とする方法

 

はつりガラスって何なのか
 使用済み核燃料を再処理する工程で発生する高レベル放射性廃液は、原料ガラスとともにガラス溶融炉で溶融されてガラス固化体となります。高レベル放射性廃液には白金族が多く含まれています。白金族はガラスに溶解しないのでガラス融液中に析出し、時間とともに溶融炉の底部付近に堆積します。ガラス溶融炉はガラス融液中に直接電気を流して加熱する仕組みですが、白金族が析出して堆積するとショートして通電、加熱ができなくなります。そこで、高レベル廃液を一定量処理すると、白金族などを含まない模擬廃液と原料ガラスを溶融して流しだす洗浄運転が必要になります。洗浄運転の後でも、空になった溶融炉の底部にガラスが残留することがあります。この残留ガラスには白金族が多く含まれているため、次の溶融を始める前にドリルなどでこの残留ガラスを除去することがあります(図)。この時に発生するガラスがはつりガラスで、ガラス固化体とほぼ同一の成分からなり、洗浄運転を経たものでも高い放射線量をもっています。
 はつりガラスは機械的に切削・破砕したガラスであり、その形態、大きさは一様ではなく、10cm程度の塊状のものから1mm以下の粉末状のものがあります。ちなみに日本原燃は「粉体状のものは全体のうちわずかであるが、形態ごとの重量は計測していない」としています。

はつりガラスの保管とその問題点
 はつりガラスは、現在、六ヶ所再処理施設に約160kg、東海再処理施設に約90kg保管されています。原子力規制庁が2017年8月に六ヶ所再処理施設を保安巡視した際、はつりガラスの保管状況が問題となりました。日本原燃の保安規定では、ガラス固化体はガラス固化体貯蔵設備のガラス固化体収納管に収納することとされています。ところが、はつりガラスは、ガラス固化体に近い高い放射線量を持っているにもかかわらず、ガラス固化体のようなキャニスタではなく、外径300mm×高さ345mmのステンレス鋼製保管容器10基に、1基当たり10~20kg収納されていて、高レベル廃液ガラス固化建屋の固化セル内に長期間放置されていました。はつりガラスは、その形態が塊状あるいは粉末状であり、ガラス固化体と大きく異なるためにガラス固化体貯蔵設備では保管できず、保管方法が検討されないままになっていたのでしょう。保管対策として、はつりガラスをステンレス製容器からキャニスタに収納し直し、固化セルから保管廃棄施設へ搬出し収納架台に保管管理するとしています5)。しかし、破砕されたガラスの状態であるはつりガラスは漏洩などの恐れがあるため、ガラス固化体以上に慎重な取り扱いと堅固な保管が必要でしょう。
 一方、東海再処理施設におけるはつりガラスは、ステンレス鋼製の蓋付保管容器4基に収納され、ガラス固化技術開発施設(TVF)の固化セル内に保管されています。この保管方法は、六ヶ所で問題とされた形態と同様であるにもかかわらず、東海再処理施設の廃止措置計画で認められています。ただし、JAEAは、今後の処理方法を検討するとしているので、こちらも六ヶ所同様に保管方法の見直しが必要でしょう。

はつりガラスの処理・処分とその問題点
 はつりガラスの処理処分はガラス固化体以上に注意を払う必要があります。それは、はつりガラスが塊状あるいは粉末状であり、水への浸出が起こりやすいためです。はつりガラスは高レベル放射性廃液を含むガラス固化体と同様のガラス成分であり、洗浄ガラスを混合しているといえ、高い放射線量を持っています。さらに、はつりガラスは切削破砕されたガラス片ないし粉末状のものであるため、大きな表面積をもっています。もし、はつりガラスを地下に埋設処分するとした場合、ガラスに地下水が接すると、ガラスが浸出し放射性物質が地下水に溶け出す恐れがあります。
 ガラスの浸出はガラスの浸出率(溶け出しやすさ)と表面積で決まります。はつりガラスはガラス固化体と同様のガラス成分なので、両者の浸出率は類似しているものと思われます。しかし、はつりガラスは表面積が大きくなります。直径43cm、高さ103 cm、400kgのガラス固化体の1本の表面積は、約1.7m2です。ガラス固化体は熱による割れが予想されていて、安全を見て実表面積の10倍をもとにして浸出を推定するとされています。したがってガラス固化体1本からの浸出は約17m2の表面積から生じると考えます。これに対して、直径1mmの粉末状ガラス1kgの表面積は、粉末が球体であるとして計算すると約2m2にもなります。10kgの粉末状はつりガラスがガラス固化体1本分を上回る表面積をもつことになります。ガラスが地下水に接すると、たった10kgの粉末状はつりガラスからガラス固化体1本同等かそれ以上のガラス成分、および放射性物質が溶け出す恐れがあります。高レベルの放射線量をもつ切削破砕されたガラス片やガラス粉末であるはつりガラスは、ガラス固化体以上に慎重で堅固な処分方法が検討されなければならないのです。
 ガラス固化体はキャニスタに覆われていて、かつ処分される場合はオーバーパックや周辺のベントナイト(粘土鉱物)で水との接触を防ぐことになっています。はつりガラスの現状の保管量は250kg程度ですが、さらに今後も発生することが予想されます。ガラス固化体同様に水との接触を防ぐことを考えて処分方法が検討される必要があります。
 ところが、はつりガラスの適切な処理処分方法は十分検討されていません。原子力規制庁は、「処分する際の取扱いについては決まっておらず、将来的にこれらを処分するにあたっては、その廃棄体の仕様に応じ、適切に処分される必要がある」としているものの、「日本原燃における具体的な計画は承知していない」としています。処分を担当するNUMOは、前述のとおりはつりガラスをTRU廃棄物のグループ4・発熱性Hに分類していて、該当する分類では固形化方法はモルタル充填固化とされています。
 はつりガラスのモルタル充填固化は不適切な処理方法ではないかと懸念されます。安定的なイメージのあるガラスですが、アルカリには著しく浸食されます。ガラス固化に使用されるホウケイ酸ガラスは、アルカリ性の高いモルタルの中では容易に浸食されると推定できます。しかも、はつりガラスは表面積の大きい塊状ないし粉末状です。はつりガラスのモルタル充填固化は決して高レベル放射性物質の安定化にはなりません。ガラスの性質をよく理解した上での処理・処分方法を検討しなければなりません。
 いずれにしてもNUMOが各地で行っている説明会では、固化体ではない高レベルガラス片が処分されることは伏せられています。水溶性のイエローフェーズといわれる化合物がガラスに固められずに固化体に混入する不良品が発生していることや、TRU廃棄物に含まれる核種が天然バリアと呼ばれる地層に吸着されずにわずか約10年で地上に到達する可能性があることと並んで、不都合な事実を説明しない組織を信頼することはできません。

はつりガラスの今後
 東海再処理施設は廃止措置が決まり、約70年をかけた廃止措置が計画されています。廃止措置の第一段階は施設内に保管している高レベル廃液をガラス固化し安定化することです。そのため、2019年からガラス固化が再開されました。しかし、溶融炉からガラスを流しだすパイプが曲がって通電ヒーターに接触してショートしてしまい、溶融炉が停止するというトラブルを引き起こしました。現在復旧中で、本年にも再開が予定されています。再開後は、約8回の稼働が予定されていて、そのたびにガラス除去を行うことが計画されています。そのため、今後ともはつりガラスの発生が予想されます。
 一方、日本原燃は、「アクティブ試験を通じて得た知見を基に、運転技術を向上。操業開始後は、ガラス溶融炉底部にガラスが堆積しないようガラス固化を行うこととしており、今後、新たなはつりガラスは発生しない見通し」としています。しかし、ガラス溶融炉の稼働とともにガラス除去作業が必要になることも考えられ、運転結果を監視し、はつりガラスの発生を把握することが必要でしょう。もっとも、六ヶ所のガラス固化方式はその運転方式に大きな欠陥を抱えているため、ガラス溶融炉の稼働自体に大きな不安があります。六ヶ所での再処理は実施させないことが重要です。
 はつりガラスの取り扱いは、放射性廃棄物に対する規制や関係機関の対応の不備をあぶりだしています。本来ガラス固化工程で生じる種々の廃棄物に対して、法による明確な定義や取り扱いを規定し、適切な処理処分方法を設定するとともに、十分な管理と監視がなされないといけません。しかし、ここでも課題の矮小化や先送りといった原子力に共通する構造欠陥が見えます。いずれにしても今後ともはつりガラスが発生することを想定して、適切な保管への取り組みと地層処分の是非も含めた処分方法の検討がなされないといけないと考えます。

 本稿は、月1回を目安に開催している例会で、収集した資料を基に議論した結果をメンバーみんなでまとめたものです。連絡はkakugomi@gol.comまで。

 

1)再処理廃止措置技術開発センター:ガラス固化体の保管に関する法体系について、 2019年11月19 日
2)特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律、2000年6月
3)日本原子力学会:地層処分対象放射性廃棄物の品質マネジメント、2011年3月
4)原子力発電環境整備機構:包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現、2018年11月、2021年2月改訂
5)日本原燃株式会社:長期保管している使用済燃料等の状況と再発防止対策について、2020年6月30日