タニムラボレターNo.019 ビオトープの放射能調査結果 その1
第1回荒川ビオトープの放射能調査結果を報告します。長期的に放射能汚染を調べる初回の測定なので、表に示すように自然条件の違いが分かるように複数地点から試料採取しました。円柱状の採取器(直径5cm、長さ30cm)を用いて土壌を採取し、厚さ約5cmごとに切り分けてよく混ぜ乾燥状態で放射能測定を行いました。池は水深が深く(50cm以上)同じ手法で採取できなかったので、鋤簾(じょれん、水を逃がしながら泥を採取できる鍬のような道具)を用いて底質の土壌を採取しました。今回は表面約5cm分の結果を報告します。また、対象ビオトープだけでなくビオトープから1.5キロメートル以内に比較エリアを2カ所設けました。
ビオトープ内の土壌汚染のばらつき
ビオトープ内の土壌1キログラムあたりの放射性セシウム濃度は、池の底質が1,700および2,400ベクレル程度と最も高く[1,2]、キクイモ自生地は700ベクレル程度[3,4]でした。通り道(露出土壌)は水たまりでない地点は350ベクレルでしたが[5]、水たまりは1,100ベクレル[6]と高い値でした。
池は雨水が流れ込んでできており、降水量などによって水位が変動します。雨水と一緒に放射性セシウムを含む細かな土や、枯葉などを分解した有機物が池の底に堆積した結果、高い放射能濃度になったのだと考えられます。特に濃度の高い地点[1]の比重が小さいことから、有機物を多く含んでいる土壌だと判断できます。通り道の水たまりも土壌表面の細かな粒子が集まり、周囲よりも放射性セシウム濃度が高くなっていると考えられます。
空間放射線量での判断は
市町村のホームページなどでは、その地域の空間放射線量率を公表しています。空間放射線量率は汚染の程度を考える目安にはなりますが、土壌の放射能汚染をベクレルで知る指標にはなりません。一様な農地などであれば空間放射線量率から土壌の放射線セシウム濃度を簡易的に算出する式*が公表されています。しかし公園などは、木や遊具や雨水が通る側溝などがあり、事故から年月がたって汚染が不均化した環境ではそのような計算はできません。
今回の調査結果においても、地上1メートルの空間放射線量が高いほど土壌汚染が深刻という関係はありませんでした。
比較エリアと比べると
植物が自生している場所に関して、ビオトープのキクイモ自生地と比較エリアAのクズ自生地は、同等の汚染状況だと判断しました[3,4と7]。自然のまま育った植物の根がしっかりと張って土壌の移動や流出が起こりにくいところです。
比較エリアBは他のエリアと違って整備された芝生のような場所です。草原の放射性セシウム濃度は250ベクレルで、ビオトープの他の地点よりも低い値でした[9]。地点10は、比較エリアBの草原の中でも線状に窪んだ、雨水の流路になりそうな地点です(写真)。高い汚染を予想して土壌を採取しましたが、結果は予想どおり平坦な場所より4倍も高い汚染がありました。
除草による除染効果?
整備状況について聞き取りを行なったところ、比較エリアBは専門業者が定期的に除草し、刈り取った草は外部に運び出して処分するとのことです。放射性物質が付着した草が繰り返し除かれて結果として除染がされた可能性があります。
なお、ビオトープでも場所に応じて草刈を行っていますが、草は外に運び出さず処理しています。倒した状態で置いておくか、ビオトープ内で燃やして処分することもあります。
調査結果のまとめ
この地域の平均的な土壌汚染は1キログラムあたり500~700ベクレル程度だと考えられますが、雨水がたまったり流路になる場所の土壌は汚染が濃縮され1,000ベクレルを越えます。このような場所は荒川下流域に多数存在することが分かりました。その中でも有機物やその分解物が堆積しやすい池の底質は、重さあたりの放射性セシウム濃度が特に高くなっています。
このように狭いエリア内でも放射性セシウム濃度は一様でないことが確かめられました。これから定期的に調査していきます。
(谷村暢子)
*:農地土壌の放射性セシウム濃度の簡易算定法 www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/120323_04_santeihou.pdf